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ヴァンパイア・キッド ~『鉄血』の真祖と半人半鬼の少年と『忌血』の物語~  作者: ヒトデマン
6章 毒血帝国《ヴェノムエンパイア》
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52話 裏の歴史

 フェイとヒュームの戦いの後、時系列ではキッドが西城までたどり着いた頃である。洞窟内では友好のための酒盛りが行われ、盗賊達はどんちゃん騒ぎを起こしていた。


「お頭ぁ、ずるいじゃないっすか!こんなに上等な酒を隠してたなんて!」

「あんな酒好きなのに、空の樽をみても妙に冷静だったのは、実はまだ酒があったからなんですね!」

「うるせぇ!本当はこっそり少しづつ飲むつもりだった酒なんだよ!誰かさん達が飲み干したせいで、蓋を開ける羽目になっちまったがな!」

「すまんのー」


 ネロは酒を仰ぎながら、ぶっきらぼうに謝罪する。


「ヒューム、一発芸します。腕切断マジック」

「さっき俺に見せたやつだろそれ!マジックじゃねえし!気味が悪いからやめろぉ!」


 盗賊達は騒ぎ疲れ、酒に酔い、全員が眠りこけてしまった。ただ一人、頭領のフェイを除いて。


「……さて、部下達は眠った。聞いてるのは俺だけだ」

「なんじゃ?お主部下を眠らせるのが目的じゃったのか」

「ああ、部下たちを余計なことに巻き込みたくはないからな……さて、()()()()()()()()()()。お前は何故ここにいる」


 フェイの言葉を聞いて、ネロは一瞬で酔いをさまし、真剣な顔になる。しかし、すぐに余裕ぶった笑みを浮かべて話し始めた。


「──なんじゃ、気づいておったのか」

「アンタについての話は聞いていた。今の皇帝は人ならざる存在で、少女の姿のまま、長い時を生きているってな。伝え聞いていた容姿の話、そしてヒュームの尋常ならざる術を見て、まさかと思ったんだ。……正直かまかけ半分、冗談半分だったんだけどマジで当たっててビビッてる。どうしよう、心臓バクバクいってる」

「おい!せっかくカッコよく言い当てたんじゃからボロを出すなボロを!」

「……あの、ちょっといいかな?大華帝国の事情については詳しくないんだけど、簒奪者だの僭帝だのってどういうことなんだい?」

「ああ、それはのう」

「待った。ネロの口からだと信用できない」

「なんじゃとー!?」

「だからフェイ、第三者たる君の口から語ってくれ」

「ああ、わかった」


 そしてフェイはヒュームに大華帝国の歴史を語り始めた。


 *


「始まりは70年前だ。大華帝国皇帝、光輝帝が何者かによって()()された」

「毒殺……ねえ」

「なんじゃヒューム?言いたいことがあるなら言っても構わんぞ?」

(……下手人はネロではないな。仕掛けたのがネロならば、()()()()()()()()()()()

「その時帝国では汚職が蔓延っていてな。光輝帝がそれを正そうとした矢先の出来事だった。当然朝廷は大混乱、誰がやったのかという犯人探しや、まだ幼かった皇子の摂政にならんとする政争が起こり、暗殺謀殺が入り乱れる、貴族達の血を血であらう争いが始まったんだ」

「暗殺は摘発を恐れた腐敗貴族の仕業ってことか

 ……」

「当然政治はままならなくなり、行政は混乱し始めた。北方騎馬民族が機に乗じて侵略しようという動きまで見せ始めたそうだ。帝国存亡の危機だぜ、その時だ。皇子とその母が行方不明になったんだ。これによって貴族たちは権力を手に入れる大義名分を失ったんだな。いよいよ持って、武力を用いられようとした瞬間──色目人の役人、ネロが現れて玉座につき全てを解決させたんだ」


 そしてフェイの説明はそこで途切れてしまった。ヒュームはその後の説明がないことに疑問を覚え、口を開く。


「え?そこで終わり?その後は?」

「ここで終わりだが?」

「なんか唐突……唐突じゃない?今までネロの名前なんて一言も出てこなかったじゃないか。それに色目人が皇帝の地位について、他の貴族達が黙ってないだろう」

「いや、どの文献を漁っても『ネロが現れて問題を解決させた』としか書いてないんだよ。検閲でも入ってんのかなとも思ったけど、当時の木端役人の日誌なんておおよそ検閲されないであろうものですら、『ネロという人が問題を解決してくれたらしい。色目人であることに反発を覚える同僚もいるが、自分は平和になるのならだれでもいい』なんて記述が書かれてたしな。しかも不思議と貴族達も反発せず従ったらしいぜ。どういうことなんだろうな?」


 すると、側で話を聞いていたネロが、耐えられなくなったように癇癪を起こし話し始めた。


「あー!もう!お主ら、ここに歴史の生き証人がいるのじゃから、ワシに聞けばよかろう!ワシに!」

「……しょうがない、話半分に聞いておこうか。ネロ、なるべく美化せずに正直に話してくれよ」

「こいつめ……ええい、ワシの偉業を聞いてひれ伏すがいいわ!古来より、大華帝国には蛇影院という国を影から支える組織が存在しておった。そしてその長を務めておったのが何を隠そうこのワシ、ネロ様なのじゃよ」

「歴代の皇帝に仕えてきたってことか?」

「このワシが誰かに支配されるとでも?蛇影院の長たるワシと皇帝の立場は同等じゃ。しかし、皇帝に並び立つものなどおらぬというのがこの国の常識。よって混乱を避けるために蛇影院の存在は秘匿され、存在を知るものは皇帝、そして一握りの人物に限られておったのじゃよ」

「なるほど、だからすんなりと権力の移譲がおこなわれたのか。しかし、何故歴史の表舞台に名を出すまでになったんだ?皇帝を巻き込んだ権力争いなんて大華の歴史のなかで何度も行われてきただろうに」

「理由は簡単じゃ。先ほども話題に出てあったが、皇子らが行方不明になったからよ。蛇影院が動くのは大華帝国の存亡がかかった事態のとき。皇帝の不在という国を分断するような事態に陥ったため、ワシが動いたというわけじゃ」

「え?皇子とその母親の失踪はあんたの仕業じゃないのか?」

「違うわ!ワシにとっても寝耳に水の事態じゃったわ!」

「まあ、権力を得る目的なら誘拐せずとも、摂政として皇子を傀儡にすればいいわけだからね。ネロが誘拐をする必要がない」

「じゃあ誰が皇子達を……」

「そもそも当時王宮の警備は皇帝が毒殺された事もあってとても厳重だったのじゃ。誰かが誘拐することなぞ不可能」

「まあどうやって皇子を誘拐したかは今となっては問題じゃないけどね。玉座が空位になったという結果が残るだけさ」

「それに関して疑問があるんだけどよ。皇子がいなくなったからあんたが権力の座に着いたってのはわかった。なら、行方不明の皇子一族が見つかったなら、あんたは権力を返すのか?」

「ああ、()()()


 ネロはあっさりとそう言ってのけた。


「『支配』において最も重要なことはルールの厳守じゃ。貴族だろうと平民だろうと金持ちだろうと貧乏人だろうと、同じ法が適用されているために民は国家に従う。故に、ワシが約束を破ることはない。皇子やその子孫が見つかったなら約束通り権力を返すつもりじゃ」

「へえ、意外だね。僕はネロは『真祖の力で世界を支配してやるわぐはは』みたいに思ってると……」

「どんなイメージじゃ!ワシ一人の力で支配しようとしても限度がある。じゃがルールの力は国家の力そのもの。ワシはルールを守ることでルールの力をその手にしたのよ」

「……まてよ?殊勝な心がけだなーと思ってたけどお前最高権力者だから自分に都合のいい法律(ルール)作り放題じゃねえか!」

「確かに蛇皇五華将(じゃおういつかしょう)法を作ったり、とワシに都合のいいルールを作って来たが、どの法も破ったのなら皇帝でさえ罰せられるというようになっておる。『何々だからセーフ』なんて例外は無いようにしてあるのじゃ」

「……でもさっき酒グビグビ飲んでなかったか?」

「お主自身が言ったじゃろう。ワシは長い時を生きておると……」

「いや、男なら冠礼、女なら笄礼の儀を済ませてないと、大華帝国では成人として認められないから酒飲めないんだけど、やったの?」


 フェイの言葉にネロは鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔をする。


「……ワシは色目人じゃからセーフ!」


 ネロの言葉に、フェイは呆れ果てヒュームは苦笑いを浮かべた。


 *


「んん……もう夜か」


 ヒュームがまなこを擦りながら洞窟の外に顔をだす。あの後ネロが開き直るかのように酒を飲み始め、自分も釣られて飲んだ結果、酔って寝てしまったのだ。


「そういやキッドがまだ帰ってきてないな……大丈夫かなぁ?心配だ。夜になったし探しに行こうかな……」


 そう言いながら歩いていると、山の木々の影に、フェイが佇んでいるのが見えた。ヒュームが声をかけると、フェイはビクッと体を震わせると、何かを後ろに隠してヒュームに振り向く。


「お、おう起きてたのか。ははは、ちょっと夜の散歩をしててさ」

「今隠したものを見せねば、フェイはいかがわしいものを持っているとあることないこと言いふらす」

「おい!?」


 フェイはヒュームを自分の側まで寄せると、手の中に隠したものをこっそりと見せる。


「別にエロいものじゃねえからな!?いいか?このこと誰にもいうなよ?」

「言わない言わない」


 フェイの手の中に隠されていたもの、それは黄金で作られた長方形の印鑑であった。上部には蛇の彫刻が翡翠の玉を咥えている。


「なにこれ?君が盗んだものかい?」

「ちげーよ!俺の祖父から渡されたものだ。詳細は何も言ってくれず、ただ肌身離さず持っておけ、誰にもいうなとだけ言われてな」

「僕にバレたけどね」

「ああとんだ失敗だよ!だからお前も絶対に誰にもいうなよ!」

「言わないさ。ところでフェイ、君の大華の歴史の知識や、優れた武勇は誰に教わったんだい?」

「祖父が何故か歴史に異様に詳しくてな、いろいろ教えてもらったんだ。興味をもってからは自分で調べたりもしたしな。人脈も何故か広くて、俺に老師アグニっていう武術の先生を教えてくれたんだ。これの技はアグニ仕込みさ」

()()()だって?なぜ『炎血』の真祖の名がこの大華の地で……あやかって名乗っているのかそれとも……)

「で、その知識や武勇に優れた君が盗賊なんぞに身をやつしているのは何故だい?」

「……珍の野郎のせいさ」

「珍?」

「西城を治める腐敗役人だ。俺の家は酒造りを行なっていたんだがな。数年前から珍の野郎が高い酒税を取るようになったんだ。それだけじゃねえ、賄賂をもらって質の悪い酒造業者にお墨付きを与え、ほかの酒屋が酒を売るのを禁止したのさ。出回るのはクッソ不味くて高い酒、キレた俺は仲間と共に酒呑盗賊団を結成し、うま〜い密造酒を作って人々に手頃な値段で売ってるのさ。ついでに珍への賄賂も横取りしてな」

「なるほど、義賊というわけか」

「別に人々のためってわけじゃねえ。ただ珍の野郎が気に入らないからやってるだけさ」

「その反骨精神、いいね。気に入ったよ」


 ヒュームは握り拳を作ってフェイの前に出す。フェイはその意図に気づくと、同じように握り拳を作って拳と拳を合わせた。


「そういや、結局なんでネロがこんなところに来たのかわからなかったんだが、せっかく部下達を酔い潰させたのに、クーデターでも起きたのか?」

「その辺の事情は僕もよくわからないから本人が起きたら聞いてくれ。……そして気づいてるかい?」

「……ああ、あれは俺へのお客さんだな」


 フェイが眼下を見下ろすと、西城から多くの兵がこちらに向かってきているのが見えた。


「下がってていいぜ。部下を叩き起こす」

「いやいや、僕も酔い覚ましの運動がしたくなったところでね」

「そうかい、なら一緒に暴れようぜ」


 フェイは辺り一面に響き渡る大声で叫んだ。


「起きろ野郎どもぉ!喧嘩の時間だぁああああああああああ!!!!!!」


 *


 日が落ちてすぐの夜、ヴァーニア王国の国境にフリーダとエルマとアンナ、そしてヴォルトが立っていた。そしてヴォルトの側には鉄で作られた二輪の『マキナ』が佇んでいた。


「さすがは『鉄血』の真祖ですね。この早さで、この精度の『マキナ』を作り上げてしまうとは」


 ヴォルトが電気を流すとライトが点き、車輪が空転し始める。


「鉄で作れるところはともかく、鉄じゃない部品作るのが大変だったんだけどマジ。部品を作る道具からつくんないといけないし」

「エルマさん本当お疲れ様です……」


 目に隈をつくったエルマに、アンナが温かいタオルを差し出す。マキナをチェックするヴォルトにフリーダが話しかける。


「広い大華の地でキッドの居場所を探すには、お前の電磁波レーダーとマキナによる機動力が必要不可欠だ。……頼んだぞ、ヴォルト」

「もちろんです。『炎血』の真祖アグニから北都を守って貰ったお礼をしなくてはいけないからね。そうだ、アンナさん、これを持っておいて」


 そう言ってヴォルトは、アンナにラッパのようなものがついたマキナを渡す。


「これは?」

「鉱石ラジオって言ってね。電波に乗せて僕のメッセージを遠くから届けることができるんだ。キッド君が見つかったり、何かあったときに連絡するよ」


 そしてヴォルトは二輪マキナを走らせ地平線に向かっていった。


「さて、エルマ、工房に戻るぞ」

「え!?まだ何か作るんですか!?」

「当然だろう。今度はハンター達やニール、ネールも乗せていけるものを作らなくては、時に西の大国、エルグラント海洋連合では()()()()()なる鉄の箱が人を乗せて走っているらしい」

「……まさか今度はそれを?」


 フリーダはエルマの首根っこを掴むと王都へ戻っていく。


「いやあああああ!!!寝させてくださああああいい!!!」

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