幕間5 フリーダ様のバクハツお料理教室
これはキッドの歯が生え始めた頃のお話。
「エルマ!エルマはおるか!」
「はっ!ここに!」
「キッドのために離血食を作るぞ!」
「これはまた唐突な……フリーダ様料理とかできるんです?」
「舐めるなよエルマ、私を誰だと思っている。ではまずは包丁からつくるぞ!」
(……不安だ)
フリーダは両手の手のひらを向かい合わせると、血を流し、鉄の塊を形成し始める。
「鉄血精錬術、発動。結晶粒界制御。転位増殖。刃先をオーステナイトからマルテンサイトに」
「え?フリーダ様?包丁程度にそこまで本気になる必要あります?」
エルマのツッコミを他所に、フリーダが本気で作った包丁は完成した。ただの包丁なのにそこからは禍々しいプレッシャーを発している。
「よし、早速食材を切るぞ」
フリーダが食材をまな板に乗せ、包丁で切った瞬間。
──真空波が生じ、まな板、その下の台所ごと食材を真っ二つにしてしまった。
「……」
「……」
しばらく無言の時間が続いた後、フリーダがエルマの方を向いていう。
「エルマ、包丁をくれ」
「はい」
かくして恐るべき魔包丁は封印されることになったのだが、後に蚤の市にて世に解き放たれ、後世その剣を巡って世界を巻き込んだ争いが起こるのは別のお話。
*
「作る料理は何にしようか。そうだ、キッドが食べられるように煮込みのスープにしよう」
「ふふ、砂糖と塩を間違えないでくださいよ?」
「そんなコテコテのミスなどするか。──さて、まずは鉄を煮込むか」
「ちょっと待てやああああああ!!!!!!」
「なんだ?何か問題でも?」
「ありありじゃ!鉄なんて食べられるわけないでしょう!」
「しかし血液は鉄から作られていると聞くぞ」
「だからって鉄の塊なんて食わせよーとすんじゃねー!」
「結構美味しいんだがな」
そういってフリーダは鉄の棒をボリボリと齧りだす。エルマが唖然とした顔でそれを眺めていた。
*
エルマの忠言により普通の食材による料理が始まった。
「まずは野菜をカットして……」
そう言ってフリーダは野菜を空中に放り投げると、縦横斜めから切りつけ、一瞬にしてカットしてしまった。
「おお!流石フリーダ様!」
「ふふん」
「でもやたらめったらに切りつけたからか、形が不揃いでなんだか不格好ですね」
「む、そこまで言うならエルマ。綺麗にカットしてみせるがいい」
「簡単ですよ。こうやって猫の手でトントントンって」
エルマが綺麗に野菜をカットしていくのを見てフリーダは驚きの顔をする。
「むむむ……なかなかスタイリッシュじゃないかエルマ、だが今のを見て覚えたぞ!私も同じようにトントントンと……」
しかし、包丁でフリーダは指を切ってしまった。
「痛ーーー!?」
「フリーダ様!?」
「いや、ちがうが?これはいきなり血から離血食に変えるのもどうかと思って、キッドのために血を入れてるだけだが?」
「フリーダ様……」
「くっ!そんな哀れみの目で私を見るな!」
結局食材はエルマが全部切ってしまった。
*
「よし、今度は料理の本工程に移るぞ」
「大丈夫ですか?私がやりましょうか?」
「なんだエルマ、心配性だな」
「今までの惨状をみたらそりゃ心配もしますよ……」
エルマの心配を他所に、フリーダはテキパキと作業を進めていく。
「よし!味付けはできたぞ!エルマ、味見をしてくれ、私はおいしいと思うんだが」
「鉄を美味しいっていう人の意見なんて……あれ?美味しい!なんで美味しいんですか!なんかがっかりしちゃいましたよ!」
「なぜ私は美味しいものを作って文句を言われているのだ……?」
エルマは鍋の中身を覗き見ていう。
「しかし味はいいですけど、具材がごろごろで離血食としては合ってないように見えますね」
「そこのところもちゃんと考えてある。鍋に圧力をかけ、じっくりコトコト煮込んでキッドでも飲み込めるようにするのだ」
「なるほど!流石はフリーダ様です」
そういってフリーダは鍋の蓋を力強く抑える。抑えられた鍋は、心なしか徐々に膨張し始めてるように見えた。
「よ〜し、愛情をしっかり込めておこう。ぎゅぎゅぎゅ〜っと」
「あの……フリーダ様?圧力をかけるってのは人力じゃなくてですね……?」
その直後、鍋は破裂しバクハツした。あたりに鍋の中身が撒き散らされている。
「……」
「……」
(キッドが大きくなったら私が料理を教えて、一人でも多く料理が出来るものを増やそう)
そう考えるエルマであった。