35話 混じり合って強くなる
キッドはフロストに向けて刃を構えながら、血を流して倒れているバイアスを横目で見ていた。心臓を弾丸で打ち抜かれており、このままでは命にかかわるだろう。フロストの方はというと、突然現れたキッドを見て笑みを浮かべた。
「君モ吸血鬼ナノ?シカモ子供ノ!僕モコンナ体ダケド、年ハ君ト同ジクライナンダヨ。キット友達ニナレルヨ。仲良クシヨウ」
だが、キッドはフロストに対し冷淡に返した。
「悪いけど……それは無理だよ。君は僕の仲間を傷つけたんだから」
突然、フロストとキッドの間に雷が落ちた。稲光が辺りを包み込みフロストは目を開けていられなくなる。攻撃を予期してフロストは身を固める。だがいつまで経っても攻撃は行われない。しばらくしてフロストが目を開けるとキッド達は影も形も消えていた。
「……逃ゲラレタ」
*
キッド達はフロストの目を眩ませている間に、遠くへと逃げていた。キッドは担いでいたバイアスを地面に下ろして容態をみる。心臓を撃ち抜かれたバイアスは息も絶え絶えとなっている。
「悪い、下手を打っちまった。俺はここへ置いて行ってくれ、出来れば奴に共喰いされないように、死体を燃やしといてくれると助かる」
「何言ってるんですか!僕ら全員で生きて帰るんですよ!」
キッドはポケットから鮮やかな血の入った小瓶を取り出す。そして蓋を開けその血をバイアスの開いた胸元にかけはじめた。
「オイ、キッドお前!それは……!」
「アンナちゃんの血です。混じりけのある僕と違って純粋な『忌血』の血ですから傷も治るはずです」
「そうじゃねえ!それはお前が真祖の血を使うのに必要な……!」
「ええ、母さんの血を使って吸血鬼になるとき、アンナちゃんの血も一緒に飲まないと、良くて自己崩壊、悪くて皆さんにも被害が及ぼしてしまいます」
「それが分かってて……!」
「だから母さんの血は使いません」
そう言い放つキッドにマリアが尋ねる。かじかんでいた口は動かせるようになっていた。が、凍傷は未だに残っていた。
「フリーダさんの血を使わないって、勝算はあるのかい?敵は思った以上に厄介な相手だよ。あのフロストってヤツ、ヤンに心臓を破壊されても生きてるほどの耐久力を持ってる。どれだけ共喰いをすればああなるんだか」
「……この森に非合法ハンター達も来ているのは知っていますか?」
「ああ、私がナイスバディな女だったばっかりにそいつらから被害者を一人出してしまったよ」
「?……ええと、その中にいたんです。マリアさんが言っていた、ザンギスって男が、そいつは吸血鬼の再生を封じるナイフを持っていました。だから彼と協力すればあるいは」
自信なさげに言うキッドにバイアスが尋ねる。
「協力を拒否されたときはどうする?」
「そんなの、ナイフを奪って使えばいいネ!非合法ハンターなんぞ囮にしてしまえばいいアル!」
ヤンの口から過激な発言が飛び出す。キッドがヤンを宥めながら話を続ける。
「最悪、彼のところまでフロストを誘導して戦闘に巻き込みます。まがりなりにもハンターを名乗っている以上嫌とは言わせません」
「……よし、ならキッドと私とザンギスの三人でフロストを討つ」
「待て!俺も……うっ!」
「無理すんなって、体に穴が空いてたんだから。私の銃の威力は私が一番良く知ってる。バイアス、あんた生きてただけでも奇跡だよ」
「ワタシも行きたいんだけどなにぶんこの手じゃあネ……」
ヤンのズタボロになった手に包帯が巻かれている。包帯は滲み出た血で真っ赤になっていた。
「ヤンさん、ちょっと失礼します」
するとキッドは、爪を細く伸ばすと、ヤンの手に向かってプスッと突き刺した。
「痛て!な、なに!?」
「『毒血』の力で作った薬です。スクラップアンドビルドの要領で手を再生させるんです。強い痛みが伴いますが、毒が病原菌も殺すので腐敗することなく治ります。ヤンさんなら耐えられます。……強い痛みが伴いますが」
「……お、オーケー。大丈夫、こういうのは慣れてるネ」
ヤンは苦い表情で自分の手を眺めている。
そのとき、バイアスがマリアを見てあることに気づく。
「そういやマリア、銃はどうした?ヤンの攻撃で吐き戻されてたはずだが」
「フロストのやつが変に使うもんだから壊れちまってたよ。弾は回収したから弾の中の血のの成分を上手く使って戦うさ」
すると、キッドの方から甲高い金属音が響いてくる。マリア達がキッドの方を向くと、キッドが『鉄血』の力で銃を部品から作り始めていた。
「え、ええと。僕マリアさんの銃かっこいいなーって思ってて、見様見真似で作る練習とかしてたり……」
マリアはしばらく呆気に取られた後、大笑いしてキッドの肩に腕を回した。
「ハハハハ!坊やもそういうの好きな口か!よし、この際だ!私が銃の作り方、組み立て方を一から十まで教えてあげよう!」
賑やかに銃を作り始めるマリア達を見ながら、バイアスも何やら用意しはじめる。口を手で覆いながら深呼吸していく、手の中には何やら白い塊ができはじめていた。
「さて、これが役立ってくれるといいんだが……」
対フロストへの準備は着々と進んでいた。
*
「ドコダ、ドコダ、ドコダ」
怒気を露わにしながら、フロストはキッド達を探し回っていた。三つの目がそれぞれ別の方向を睨み辺りを見回している。そのとき、フロストは正面からやってくる人影を見た。キッド達ではない。
「こ、こいつです……ザンギスさん……」
さっきの逃げた非合法ハンターが、顔に青痣を一つ作って現れた。男の背にはナイフが突きつけられており、ザンギスが脅して案内させたのだと見て取れた。
「ほーん、こいつが吸血鬼どもの親玉かあ、すでに筋肉丸出しだから皮を剥ぐ必要はねーな」
「あ、あの……指示通りに、あ、案内しました……」
「よーしおつかれ、ハンターともあろうものが、吸血鬼を見て尻尾を巻いて逃げ出すなんて行い、もうしちゃダメだぜ?……次はないと思え」
「ひいい!」
非合法ハンターは、次はザンギスに恐れをなして尻尾を巻いて逃げ出す。
「逃ガサナイヨ」
フロストは逃げるハンターの背に向けて勢いよく腕を伸ばす。だがその腕はザンギスのナイフによって切り飛ばされた。またか、と思いつつ、フロストはザンギスに的を定める。あんな雑魚などいつでも狩れる、先に厄介な奴から始末しておこう、と。
そのとき、フロストは自分の身に起きた違和感に気づく、切り飛ばされた腕の先が再生しない。『毒血』の武器によるものかと考えたが、それなら自分の『凍血』の力で無力化できるはずだ。
「マーカス博士はなんて呼んでたってけかこれ……あ、そうだそうだ」
ザンギスは自分の持っているナイフをマジマジと眺めながら思い出した。
「放射性同位体ナイフの切れ味、よーく味わわせてやるよ」
そう言ってザンギスはフロストに向かってゆったりと歩み寄る。すると、フロストは地面に向かって触腕を潜らせ始めた。
「ウカツニ攻撃スルト、痛イ目ヲ見ルッテノハ理解シタヨ」
そして、ザンギスの足元から触腕が何本も飛び出してきた。だが、ザンギスは軽やかにステップを踏み、視界外からの攻撃を全て避け切って見せた。フロストもこれには目を丸くした。
「いい殺意だぁ……お前の俺への憎しみ、よーく伝わってくるぜ」
ザンギスはそのまま一気に距離を詰めフロストに斬りかかる、だがナイフは硬い氷の鎧に阻まれた。フロストは大口を開けて目の前のザンギスにくらいかかる。だがザンギスはすぐさま後ろに飛び、攻撃は空振りに終わった。
(……アイツ、僕ガ動キ始メルヨリ先ニ回避動作ヲシ始メタナ)
フロストにある疑念が湧いた。
(試シテミルカ)
フロストはザンギスの真上に向けて氷のブレスを吐き出す。そして空中で形成されたツララが雨のように落ちてくる。
「うおおっと!危ね!」
ザンギスは先ほどのようにフロストが動き始める前に反応したが、地面からの攻撃を避けたときとは違い、大きく距離をとって避けた。
一連の動きを見て、フロストはザンギスの回避力の理由を理解した。
「オ前、殺気ヲ感ジ取ッテイルナ?」
その問いに対しザンギスは無言のままであった。
「オ前ハ僕ガ攻撃動作ヲ見セル前カラ、僕ノ攻撃ヲ察知シテイタ、感ガ良イダケカト思ッタケド、触腕ノ攻撃ハスレスレデ避ケタノニ、ツララノ攻撃ニハ大キク距離ヲ取ッテ避ケタ、ソレラノ違イハ、触腕ニハ僕ノ殺意ガ込メラレテイタケド、ツララニハ無イ、ダカラツララハ触腕ノヨウニハ避ケラレ無カッタンダ」
フロストは近くの木を掴むと、力を込めて根っこから引き抜く、そしてそれをザンギスに向けて投げ飛ばした。
(……上空にも殺意があるな)
見えすいた罠、だが飛ぶしか避ける方法はない。ザンギスは殺意は感じとれても、どのような攻撃が来るのかは感知できないのだ。ならばとことんヤツの罠に乗ってやろう。ザンギスは飛んで木を踏むと、更に上へと跳躍した。
(さあ、どう仕掛けてくる!?)
その途端、フロストを中心にして冷気が球状に広がり始めた。ザンギスは寒さに身を振るわせる。
「『凍血領域』展開」
それとともに、ザンギスの周囲を無数のツララが取り囲んだ。切っ先はザンギスの方を向いている。フロストがバイアスに向けられた技を、一度受けただけで習得していたのだ。
「コレナライクラ殺意ヲ感ジ取レテモ、ドウシヨウモナイヨネ」
ツララは回転しながらザンギスに突っ込んでくる。空中で身を隠す場所もない。
(ち、ここで終わりかよ、だがまあ、殺し合いの中で死ねるなら、いいか)
ザンギスはその場で目をつむった。だが、その直後、甲高い金属音に無理やり目を開かされた。
自分の周りを鉄の盾が取り囲み、身を守っていたのだ。
「大丈夫ですか?お怪我はありませんか?」
あの時と一字一句違わぬその言葉に、ザンギスは笑みを漏らす。盾と共に地面に着地すると、キッドに向けて言った。
「ありがとうよ!お人好しの坊ちゃん!これで俺はまだまだ吸血鬼を殺していられるぜ!」
キッドを挑発する様にザンギスはお礼を言う。そしてキッドに目を向けるとザンギスは目を丸くした。先ほど見た姿とは打って変わり、キッドの姿は吸血鬼そのものだったからだ。
「……おいおいおいおい!お前吸血鬼だったのかよ!ていうことは何だ?殺しちまっても……いいってことかあ!?」
「……言っておきますが、僕は半分は吸血鬼ですが、もう半分は人間ですよ」
「ってことは半分犯罪になるってことか、2分の1の確率なら賭けてみる価値はあるなぁ」
キッドは呆れたようにため息を吐くと、フロストに刃を向けながらザンギスに言う。
「まずは、彼を倒さないと」
「ああ、俺はデザートは最後まで取っておくタイプだからよ」
ザンギスは姿勢を低くすると、フロストに向かって突撃する。四方から襲いかかる触手を切り落とし、避け、間合いに入っていく。
(体表は硬い氷に包まれてやがる、だが目や口のような粘膜部分なら!)
ザンギスはアイソトープナイフを目に突き刺そうとする。だが、フロストは目を閉じ、攻撃は防がれてしまった。
「チッ!読まれたか!」
だがフロストはザンギスへ反撃するのではなく、触手を自分の背後に集め始める。その直後、集まった触手が衝撃と共に勢い良く燃え始めた。フロストは燃えている部分を自切すると触手を再生させた。
「炎血弾が防がれた……!くそう!私の存在に気づいてやがった!」
木の上からマリアが狙撃していたのだ。しかし、どういうわけか気配を隠していたマリアの攻撃をフロストは防ぎ切って見せた。
「殺意ヲ読ム、ナルホド、コウイウコトカ」
フロストはマリアに向けて触手を伸ばす。マリアは木から飛び降りて攻撃を避けた。ザンギスはフロストの発した言葉を聞いて冷や汗を流す。
「あのねーちゃんの攻撃は完全にヤツの意識外にあったはずだ……それなのに防いだってことは……おいおいマジかよ」
「僕モネ、数多クノ殺意ヲ向ケラレテキタンダ。出来ルトワカレバ、真似スルノナンテ簡単ダ!」
フロストは地面に降り立ったマリアに向けて突撃する。マリアは炎血弾を撃って応戦するがそのこと如くを避けられ、防がれてしまう。
「僕ニ敵対スルナラ、オ姉サンデモ容赦シナイ!」
マリアに四方から触手が襲いかかる。すると、キッドがフロストの前に割って入り、刀を振るって触手を弾いていく。
「マリアさん!合わせてください!あの作戦で行きます!」
「オーケー!任せな!」
そのとき、フロストは疑問を浮かべる。マリアが今炎血弾を放とうとしているが、そこに殺意が見られない。
(陽動カ……?ダガソレニシテハ……)
すると、マリアの放った炎血弾はキッドの刀の背に直撃した。刀には炎が纏わり付き、赤熱して光を放っている。マリアの攻撃に殺意がなかったのは当然であった。狙っていたのはキッドの刀だったからだ。
「うおおおおお!!!!」
フロストに向けて刀が振るわれる。炎血の炎が氷を溶かし、肉体を切り裂く。──そのはずだった。
「僕ヲ……侮ルナァ!」
フロストの頭部に氷のツノが生成される。そしてキッドの刀に向けて勢いよくツノをぶつけた。炎との接触は最低限となり、力は一点に与えられる。
「なっ……!」
その結果、キッドの刀は真っ二つに折れてしまった。キッドの動揺を突いて、フロストの尖った触手がキッドの胴体を叩く。キッドはその勢いのまま木にぶつかった。
「……ははは!みんな終わりだな!殺意まで読めるようになった、こんな化け物に勝てるわけねえよ!」
ザンギスは笑って己の運命を悲観する。
キッドは口から血を吐きながら、自分の服から飛び出たものを見る。それは影鬼の人たちから受け取った硬貨だった。
「これが防いでくれたのか……古銭だったからお店で使えなくて持ってたんだっけ……」
そしてキッドは、手に持った折れた刀を見る。
「折れちゃったか、僕の刀……母さんや姉さんみたくは作れないな……」
キッドは、前にしたフリーダとの会話を思い出していた。
*
「ねえお母さん、お母さんは……嫌じゃないかな?」
突然のキッドの質問に、フリーダはポカンとしている。
「嫌って……何がなの?キッド」
「その……僕が『鉄血』だけじゃなくて、『凍血』や『雷血』の力も使っていること、最近はお母さんの宿敵のネロの『毒血』まで取り込んじゃったし……」
「なんだ、そういうこと。別に気にしないわ、それに『凍血』をキッドに渡したのは他ならぬ私じゃないの」
「でも、『鉄血』としての僕は未熟のままだから、母さんや姉さんみたく硬い鋼鉄を作れないんだ」
「でもキッド、それ以上『鉄血』として力が強くなったら人間に戻れなくなるわよ?」
「……」
「ねえキッド、お母さんはね、多様性があなたの強みだと思ってるの」
「多様性……」
「半人半鬼のあなたは、人間とも、吸血鬼とも繋がりを持てるわ。それはとても素晴らしいことなのよ」
フリーダはキッドの頭に手をポンと乗せる。
「『凍血』、『雷血』、『毒血』、いいじゃない。どんどん取り込んで利用しなさい。人だとか吸血鬼だとか、どの属性の血だとかなんてくくりは取っ払いなさい、あなたは……混じり合って強くなるのよ」
*
「混じり合って強くなる……混ざり合わせて強くする!」
キッドは飛び出た古銭を見て考える。
(この硬貨に使われている金属はなんだろう?ニッケルが硬貨の原料としてよく使われているとは聞くけど、これはいろんな金属が混ざっているようだ)
キッドが顔を上に向けるとフロストがこちらを睨んでいた。
「刀ガ折レテ、心モ折レタト思ッテイタケド……ヤハリ、オ前カラ殺スベキダナ!」
腕を振り上げるフロスト、すると。
「させるかあああああ!!!!!!」
マリアが銃を撃ちながら突撃する。フロストは身を守りながら、触腕を振るってマリアの銃をはじき飛ばした。キッドは立ちあがると、折れた刀と硬貨を持って飛ぶ。その姿を見たザンギスは困惑しながら叫ぶ。
「何やってんだ?今更勝ち目なんてないってのによお……そんなに死にたいんなら、せめて俺に殺させてくれよぉ!」
ザンギスは狂ったような笑みを浮かべながら、キッドに向かってナイフを投げる。
「な、何やってんだてめえええええ!!!!」
ザンギスの常軌を逸した行動に激昂するマリア。だがザンギスの投げたナイフは、空中で同じくキッドを狙った触手とぶつかり、攻撃は不発となった。
ザンギスとフロスト、他者の殺意を読み取れる二人が、キッドへの殺意を共有しあった結果、同じ場所へと攻撃してしまったのだ。
「は、はは。何だよ。殺そうとしてやったのに、助けたみたいになっちまったじゃねーか」
自分の真上に来たキッドを見て、フロストは焦りを見せる。
「近ヅケサセハシナイ!氷ノ息デ、凍リツカセル!」
息を吸い込み始めるフロスト、それを見て、マリアはもう一つの銃を取り出した。
「バイアスが残したとっておきだ!食らえ!」
殺意を検知したフロストは、氷の強度を上げ身を固める。そうすることで、炎血弾を受けても致命傷には至らない。だが、マリアが放った弾丸は氷のような白い塊だった。マリアはバイアスの言葉を思い出す。
「これは俺の呼気に含まれる二酸化炭素を個体にさせたものだ。ヤツがブレスを吐く前、息を吸い込み始めたときに使え、ヤツがいかに硬い鎧をもってようと、これなら関係ねえ」
白い塊は、フロストにぶつかると辺りに拡散した。そして、それを勢いよく吸い込んだフロストは二酸化炭素中毒に陥る。フロストの体は麻痺し動きを止まる。だがフロストは強靭な生命体だ、それだけでは命を奪うに至らない。しかし、フロストの動きを封じた数秒間、その数秒間がキッドに勝機をもたらした。
(マダダ……僕ノ氷ノ鎧ハ刀ヲ通サナイ!動ケルヨウニナッタラ殺シテヤル!)
「鉄血精錬術……」
キッドは折れた刀に硬貨をくっつける。折れた刀にはまだ炎血の炎が纏わり付いており、硬貨を溶かしながら混ざり合っていく。そして、キッドの手には鉄とニッケルの合金でできた短剣が生まれていた。
このとき、奇しくも、キッドが生み出した合金はマルエージング鋼と呼ばれる特殊合金であった。現代においては航空・宇宙分野での構造材として使われ、高い靭性と機械的性質を有している。高強度の合金だ。
「モウ一度叩キ折ッテヤル!」
口元を動かせるようになったフロストは、口の中で氷の槍を作り出すと短剣に目掛けて勢いよく射出した。だがキッドの短剣は真正面からそれを叩き切った。
──マルエージング鋼の特徴として、非常に折れにくいというものがあった。
「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!」
キッドは握った短剣を力強く振り下ろす、混じり合って作られた刃が、フロストの鎧を打ち砕き、肉体の奥深くまで切り裂いた。




