22話 式典
キッドたちが王都へ向かうことになったのはパーティーが終わった朝であった。
協会支部に到着した馬車に、キッドは寝ぼけまなこを擦りながら乗り込む。
そばでは騎士団長のゾルドと英雄二人が話していた。
「ゾルドどの、護衛は不要だ。『炎血』の真祖との戦いで多くの騎士達を失ってしまったのだろう?残った騎士達は街の警護に当ててくれ」
「心遣い感謝します。ですが万が一のことを考えて数人の騎士を同行させなければなりません」
「騎士達より俺たちのが強いって」
ニールの言葉にゾルドは苦笑する。そのあと二人を見据えて言った。
「あなた方だけならそうかもしれません。ですがあのような子供も一緒に行くのです。それを守らないというのは騎士団の名が泣くことになりますので」
二人は仕方ないなという顔をして、後はなにも言わなかった。
突然、支部の扉が開いてアンナが顔を出した。
「キッドーーーー!!!準備が済んだら私たちもすぐに行くからね!」
キッドもアンナに手を振って応じる。英雄二人も馬車に乗り込み、王都に向けて悠々と出発した。
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アグニ討伐は表向き、ヴァンパイアハンターだけによる討伐ということになっている。そしてキッドにはただの一般人でありながら勇敢にもアグニに立ち向かい、アグニの隙を作って討伐の手助けをしたという筋書きが与えられたのだ。
「協会も焼きが回ってきたな。こんな嘘八百の発表をしなくちゃいけないなんて」
ニールが馬車の中で皮肉を言う。ネールも反論しようにも出来ないようであった。
「でもこれで僕たち忌血への迫害が少しでも収まったら……」
「変わらねぇよ」
「え?」
「何をしようが忌血を恐れる心は簡単にはなくならねぇ。吸血鬼がいる限りはな」
「そのために、人々に危害を加える吸血鬼は滅ぼさなければならない」
悲しい目をした二人に、キッドはそれ以上なにも言えなかった。
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二日ほど経って王都にたどり着いた。キッドはこんなに長く家族と離れ離れになったのは初めてだったので少し寂しさを感じていた。
「母さん達はどうしてるかな……」
「キッドおおおおおおお!お母さん寂しいよおおおおおおお!」
「血が!血がのみたいいいいいいいい!!!!!!!!」
ヴォルト診療所にフリーダとエルマの叫びがこだました。診療所内では二人が暴れまわって物が散乱し、あちこち傷だらけであった。
ヴォルトはげっそりとした顔でアンナに言う。
「準備が終わったら早く出発してね……?」
「は、はい……」
*
王都の門をくぐったキッドの目に飛び込んできたのは巨大な城であった。キッドは目を輝かせて城を見上げている。
「これが国王ツェペシュ様の住むお城……」
呆然としているキッドにニールが後ろから声をかける。
「キッドは王都は初めてか?俺たちは何度か呼ばれたことがあるぜ。式典は今夜、その前にこの国のお姫様とお話しだ。そのだらしない顔は今のうちに直しとけよ」
顔を両手でパンと叩き、気合を入れるキッドにネールが声をかけてくる。
「姫様──エリーゼ様は王位継承権1位の姫で心の優しい方だ。周りの国の王子や姫と手紙を交わし、平和外交に努めている。だが国王ツェペシュは周りの国に圧をかけたり不穏な動きが目立つ。噂では吸血鬼と繋がっているという話もある。心の読めん男だ、気をつけろ」
「きゅ、吸血鬼と!?」
キッドはいっそう緊張感を高めて王城へ向かった。最もその緊張感はすぐに打ち砕かれることになる。
「皆さま!お待ちしてましたーーー!!!!」
出会い頭にエリーゼ姫に抱きしめられたからである。急な出来事にキッドは赤面して固まってしまった。
エリーゼはキッドを抱きしめながら英雄二人に話しかける。
「二人ともお久しぶりですね!アグニの討伐、心より称賛いたします!」
そしてエリーゼは再びキッドを見つめてこう言う。
「キッドさん、あなたに会えるのを首を長くしてお待ちしておりました」
キッドもエリーゼを見つめる。エリーゼに自分と似たような雰囲気を感じ取った。エリーゼはつぶやく様に言う。
「──キッド……貴方は、私の腹違いの弟なのです」
*
「カンチョーーー!!!!」
「アーーーーーッ!!!?????」
エリーゼの言葉に放心していたキッドのお尻に、何者かがいきなりカンチョウをした。
「トイ王子!人にカンチョウをしてはいけないと何度いったでしょう!?」
トイ王子は怒られても知らん顔で、笑いながら辺りを走り回っている。
「王位継承権2位のトイ王子さ、ワガママな子でああやって人にカンチョウを仕掛けてくる。女の子にはしない分別はついているようだがね」
ネールが自分のお尻を『五血の盾』で守りながら言う。防御は万全のようであった。
「いったい何なの騒々しい」
騒ぎを聞きつけて、美人だがキツそうな性格の女性が現れた。トイ王子は彼女を見つけるとすぐに抱きついた。
「トイ王子の母親、エミリー王女だ。エリーゼの母親ではないがね」
ネールがキッドに耳打ちしていう。
エミリーは状況を把握するもエリーゼに向けてガミガミと言い始めた。
「エリーゼ姫?トイを勝手に叱らないでもらえる?私には私の教育方針というものがあるのよ。トイには抑圧されず、伸び伸びと育ってほしいの」
「貴方のやりかたはただの放漫です!このままじゃ暴君に育ってしまいますよ!」
「ふん!何を言うのかしら、どうせ王位継承権1位の貴方が国を継ぐんでしょう?暴君どころか君主にもならないわよ。」
「私は人間としてかくあるべきという話をですね……!」
エミリーはそっぽを向くとトイを連れて行ってしまった。エリーゼはため息をつくとキッド達に向き直った。
「申し訳ありません。見苦しいところをお見せしましたね」
「いや、それよりエリーゼ姫、さっきのキッドがアンタの弟って話しだが……」
ニールがそう尋ねると、エリーゼは真剣な顔になって話始めた。
「お父様……国王ツェペシュ陛下が、昨日私に伝えたのです。キッドは記録を抹消された第二王妃──アンネとの間に産まれた忌血の子だと」
キッドはいきなりの話に茫然自失としている。
「キッド、いろいろといきなりな話が多すぎて上手く飲み込めないかもしれません。そこで今夜、式典が終わった後、会食をしたいと思っているのですが……」
「……う、うん!わかった!……じゃなくてわかりました!」
「そこで話し合いましょう。これまでのことを、そしてこれからの事を」
*
式典はつつがなく行われた。キッドは突然告げられた衝撃的な事実に、式典中も上の空であった。ただ自分を見つめる国王ツェペシュの目がやけに不気味だったことは覚えていた。
会場をチラリと見渡したがフリーダたちはまだ来ていないようだった。豪華な衣装を身にまとった貴族の中に、二人ほど異様なプレッシャーを放つ人物を見つけた。そのうち一人はキッドの見覚えがある人物であった。スーツを身にまとい、誠実さと自信が同居した顔をしている。
間違いない、その男はあの闇の中で見た男。──『凍血』の真祖、アイズその人であった。
そしてその隣に似たようなプレッシャーを放つ人物が一人。金髪の髪をなびかせ、着物を身に着けている少女であった。『毒血』の真祖、ネロである。キッドはネロと会ったことは無かったが、漂うプレッシャーからアイズと同等の存在であることは読み取れた。
なぜ吸血鬼の真祖がここにいるのかキッドにはまるで分らなかった。だがネールの言葉が頭の中で反復した。
「国王ツェペシュは吸血鬼と繋がっている」
*
王城の廊下をツェペシュは一人で歩いていた。これからエリーゼの開く会食に参加するためである。そのとき前から黒色のローブを被った人物が歩いてきた。その顔はローブに隠されている。
すれ違いざま、ツェペシュはその人物から瓶を受けとった。男がツェペシュにささやく。
「『毒血』の真祖より、『鬼血』を賜りました。無味無臭の毒で確実に──お姫様を殺せますよ」
ツェペシュはその瓶を受けとったのちまじまじと見つめてつぶやく。
「──さて、鬼がでるか邪がでるか」




