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16話 五血同盟

 アンナとキッドは台車を押しながら街中を歩いている。なんでもこの街には忌血や子ども相手であっても対等な立場で取り引きしてくれる商人がいるらしく、その人と品物の売り買いをするらしい。だが目利きのプロ、かつ交渉上手でなかなか手強い相手だそうだ。


 キッドが落ち着かないようにあちこちを見渡していると、アンナが気づいて言う。


「商談が終わったら一緒に色んな所みて回ろうね。お小遣いもあげるからね」

「う、うん」


 ヒモみたいで情けないなぁとキッドは自分で自分を思う。

 フリーダから小遣いを貰うこともあったが、大抵が古代の王冠や、様々な宝石のついたアクセサリーなど到底キッドの手に余るようなものばかりだったので、郵便配達などをして小遣いは自分で稼いでいたのだ。

 もっとも絶賛無職中のキッドはアンナに頼るしかないのだが。


「賃金と……これは賃金と考えよう……」



 *


「母さん達のお土産に何を買おうかな」 


 目的の店の前でキッドはそう考えながら黄昏ていた。なぜアンナと一緒に商談の場にいないのかと言うと、アンナと店の主人の商談時の気迫にビビって出てきたのである。


 そして店内はというと。


「ウッデンのアクセサリー、一つで銀貨三枚!」

「いや一つで銀貨2枚だ。まとめて売るなら金貨10枚」


 アンナと店の主人は互いに睨み合って一歩も引かない。


「……まとめ売りなら金貨12枚」


 主人はアンナの言葉に黙って首を横に振る。


「金貨10枚だ、そうじゃなかったらこの商談は不成立だな」


 アンナはうなだれるとポケットから()()()を取り出して呟いた。

「はあ、フリーダさんにまた()()を込めてもらったのですが、力及ばず……ですね」


 そのとき、そのお守りを見た主人が目を丸くして言う。


「そのお守り……このアクセサリーを作った人と同じ作者のものか……?」


 そのとき、アンナの脳内に電流が走る。


「ご主人、金貨15枚でどうでしょう」

「なっ!?ここにきて値上げだと!?」


 うろたえる主人にアンナは笑みを浮かべて言う。


「ご主人さんも思ったんでしょう?この木のアクセサリーに着色して売れば見事な芸術品になると……」

「だ、だが、だとしてもお前さんがさっき言った金貨12枚だ!いきなり値上げだなんて!」


 アンナは勝ちを確信した顔で言う。


「──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。わたしはウッデンの店主さんから色々なことを教えてもらいました。それゆえ、アクセサリーのイメージにあったデザインをお教えできますよ」


 主人はアンナをまっすぐ見て言う。


「……わかった。金貨20枚で買おう」


 主人の発言にアンナが逆に取り乱した。


「いや、あの、えっと金貨15枚でいいんですけど」


 だが主人はフッと笑っていう。


「なあに、これからアンタと商売していくことで生まれる利益に比べたら些細なもんさ、これはいわばアンタへの投資だな。あの局面での切り返し、見事だった。これからも()()()()()()()


 アンナは顔を朗らかせて答える。 


「こ、こちらもよろしくお願いします!」


 *


「そろそろ終わったかな?」


 キッドが店の中を覗き込もうとすると、勢いよく飛び出してきたアンナに抱きつかれた。


「キッド聞いて聞いて!商談は大成功だったよ!」

「く、苦しい苦しい。よ、よかったねアンナちゃん」


 二人がそんなやりとりをしていると一人の男の子が声をかけてきた。


「──そこのお兄さんたち!『()()()()診療所』で今流行りの医療、『瀉血(しゃけつ)』をしてみませんか!」


 *


 キッドは訝しげな目でその男の子を見つめていた。


「瀉血って……なに?」


 キッドの疑問にアンナが答える。


「聞いたことがあるよ。体の悪い血を抜いて病気を治すんだって」


 男の子は胡散臭い笑顔で続いて言う。 


「瀉血をすればどんな病気もたちどころに治りますし、健康になれますよ!それも今なら無料(タダ)!」


 キッドはますます怪しさを感じ、そっぽを向くように言う。


「悪いけど、血を抜くのはもう間に合ってるんで。それにお母さんの言いつけで万病に効くって謳い文句と無料(タダ)って言葉は信じないようにしてるんだ」


 男の子はキッドの言葉にあわあわとしながら言う。


「で、でも『()()』のあなたたちをヴォルト様のとこまで連れてかないと僕が怒られちゃ──」

「今、君なんていった?」


 男の子はしまったという顔をして口を手で覆う。

 キッドは真剣な面持ちで言う。


「連れてってもらおうじゃないか。そのヴォルト様って人のところに」


 *


 そのヴォルト診療所で、二人の男女が言い争っていた。


「なによヴォルト!あんなに熱い夜を二人で過ごしたっていうのに!」

「いや……君の勘違いだよ。君が酔い潰れたから診療所のベッドに寝かせただけで」

「じゃあ私の首についたこのキスマークはなによ!」

「いやそれはキスマークじゃなくて……いや似たようなものかもしれないけど」

「遊ぶだけ遊んでポイってわけ!この最低男!」

「レディ落ち着い……」

「ミランダって呼んでって言ったでしょ!」


 女の平手打ちが診療所に響いた。そしてミランダは怒りを露わにしながら、いくつものドアを乱暴に開けて出て行った。


「やれやれ、こんなみっともない顔でお客様を相手にしなくちゃいけないとはね」


 ヴォルトは顔に真っ赤な手のマークをつけながら、唖然としてその光景をみていたキッド達に向かっていう。


「ようこそ『鉄血』の諸君、『ヴォルト診療所』へ、ちょっと暗いけど気にしないでくれ」


 *


 キッドはアンナを庇うように立ちながら、ヴォルトに向かって警戒しながら言う。


「単刀直入に聞きます。貴方の目的はなんですか?」

「『炎血』の真祖、アグニを倒すのに協力して貰いたい」

「な!?」

「嫌とはいえないよ?アグニはすぐにでもこの街を滅ぼそうとするだろうし、そうなれば君のフィアンセの商談もオジャンだ」


 色々言いたいことはあったが、キッドは今一番聞きたいことを問いただした。


「なぜ、僕が『鉄血』だとわかり、そしてこの街に来たと知ったんですか?」


 ヴォルトは苦い顔になりながら答えた。


「『雷血』にとって『鉄血』は数少ない天敵であると同時に、あることがきっかけで、僕は『鉄血』のとある人物に苦手意識を持っているんだ。だから街一帯に電磁波を放って常に動向を見ていたのさ。それに、君たちの真祖様が昨日あんな派手な真似をやったのにバレてないと思っているのかい?」


 キッドは「うっ」と思いながらヴォルトに言う。


「真祖相手には真祖をぶつけて倒してもらうと言うことですか?母さん達は、今街の外に待機していますが……」


「──い、いや、ヴォルトは『鉄血』の真祖の力に頼らず、わ、私たちの力だけでアグニを倒そうと考えてるみたい」


 いきなり、机の下から女性の声がした。


「きゃ!だ、誰!?」


 アンナが驚いて下を見ると、机の下からボサボサの髪をした目の隠れた女性が出てきた。


「わ、私は『毒血』のギフト、この診療所で薬剤師として雇われてるの、よ、よろしくね」


 ヴォルトはギフトを自慢気に紹介する。


「彼女の血を使って病原体だけを殺す抗生物質を作り出すことができるのさ、毒も使い方次第で薬になるってね。ちなみに僕のアイデアだ、すごいだろう」


 するとヴォルトの自慢話を遮るように、別の部屋から男が出てきた。いかつい顔をしたスキンヘッドの男だ。その男も吸血鬼のようであった。


「おいヴォルト、そろそろ状態がやべぇぞ、火傷患者への薬はできたの……誰だ?その忌血のガキは」


 キッドはその男の顔に見覚えがあった。()()の吸血鬼としてフリーダに似顔絵を見せてもらったことがあったからだ。


「──吸血鬼のヴァンパイアハンター……『冷槍のバイアス』!」


 バイアスは感心したように言う。


「へぇ、俺の名前を知ってくれてるなんて光栄だな。だがヴォルト、なぜ吸血鬼でもない忌血のガキをここに呼んだ?アグニは忌血の血を飲んだくらいで勝てる相手じゃねえぞ?」


 ヴォルトはバイアスに向かって言う。


「そのことはおいおい話す。あ、ちなみにその子の血が薬がわりだから」

「ちっ、サボりやがって……まあいい、お前、ちょっとこっちに来い」


 そう言うとバイアスはキッドの腕を引っ張って別の部屋に連れて行こうとする。

 

 それをアンナが大声で制止した。


「まってください!忌血の血で治そうとするってことは、火傷患者は吸血鬼なんですよね?それは……貴方達の仲間なんですか?」


 ギフトがおどおどとした声で答える。


「い、いや……アグニと戦って敗れたと思われる吸血鬼で、昨日の夜運ばれてきたの……誰も知らない人物だけど、せ、戦力になるかなって」


 するとアンナはキッドに激しい口調で言う。


「だったら助ける必要なんてないよ!人を襲って血肉を喰らう、悪い吸血鬼かもしれないんだよ!?」


 だが、キッドはアンナに向かって優しく微笑みながら言う。


「アンナちゃん、僕もね、生まれたときこの人と同じだったんだ」

「え?」

「忌血として嫌われ、捨てられ、今にも消えそうな命だった。……でも母さんが僕を拾って育ててくれた。救ってくれたんだ。だから僕も、目の前で今にも消えそうな命を見捨てるような真似はしたくない」


 そう言ってキッドは手のひらに傷をつけ、流れる血を患者に飲ませた。


「なあに、悪い吸血鬼だったら俺がハントしてやるさ」


 バイアスが笑いながらそう言った。


 血を飲まされた患者の男の火傷がみるみる治っていく。そしていきなり起き上がりこう叫ぶ。


「よっしゃかかってこいオラァアアアアアアアアアアア!!!!!!!!真祖様だからって手加減しねぇぞオラァアアアアアア!!!!!!!!!……あ?」


「……この人はやる気満々のようだね。」


 ヴォルトが苦笑しながら言った。


「口上を言う間もなく焼かれたらしい。」


 バイアスも呆れたように言った。


 *


「……俺は『炎血』の吸血鬼、フレイだ。ストリートファイトをして倒した相手からこっそり血を吸ってた。殺しはしてない。そんなことしたらもう相手と戦えなくなるからな」


 フレイは体に鎖を巻いた若い男である。バイアスから首元に氷の槍を突き付けられながらも、表情を変えずそう答えた。


「あんたたちアグニと戦うつもりなのか?微力ながら俺も協力するぜ?」


 バイアスは深いため息をつくとヴォルトに向かって言う。


「『凍血』と『雷血』の上位吸血鬼(エルダーヴァンパイア)が俺とヴォルト、『毒血』と『炎血』の吸血鬼にギフトとフレイ。そして『鉄血』の枠は吸血鬼でもない忌血のガキときた。こんなんでダミー相手とはいえ真祖に勝てると思ってんのか?」

「勝てるかじゃなくて、勝つんだよ」


 ヴォルトはそう言い切って見せる。さらに続けて言う。


「こんなことわざを知ってるかい?『いがみ合う五系統の吸血鬼が互いに協力すればどんな相手も倒せる』と」


 バイアスは苛ついて言う。


「いや知らん、誰の言葉だそれは」

「僕が今考えた」

「てめぇ!」

「まあまあ」


 ボルタが間に入ってバイアスを止めた。


「──僕はいいと思います。今の言葉」


 そういったのはキッドであった。


「みんなが力を合わせれば、どんな相手にも勝てるはずです!きっと」

「いや、自分で言っておいてなんだけど、語呂も悪いし長いしで諺としてはいいと思わないな僕は」

「ええ!?いや僕は諺としてじゃなくて言葉の意味をですね……」


 梯子を下ろされたキッドがアワアワしながら言う。ヴォルトはキッドの発言に静かに笑みを浮かべるとこう言った。


「『五血同盟(ブラッド・フォース)』の結成を、今ここに宣言する」

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