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15話 Dr.ヴォルト

 『炎血』の真祖、アグニを前にしたヴォルトの行動は迅速であった。前方に電気のバリアを作りだし、アグニの手のひらから放たれる火炎放射から自分とレディの身を守った。

 アグニは自分の攻撃が防がれたのをみて、首を捻ってうなっている。


「『雷血』と闘う時はいつもこうだ。何故か電気に阻まれて炎が届かない。いったいどういうことなのだ?」


 ヴォルトはため息をついて解説し始めた。


「炎とは電子の遊離、プラズマだ。そして『雷血』は電子を操作することで電気を操っている。故に電子を操作して火を防御できる『雷血』は、『炎血』に対して有利を取れるのさ」


「……いや、『でんし』とか『ぷらずま』だとか、何を言っているのか全然わからんぞ。『雷血』全体に言えることだが、自分の知っている知識を相手も知っている前提で話すのはよくない」

「初めから分からせるつもりで話してないよ脳筋(バカ)


 ヴォルトの辛辣な言葉にアグニはいら立ちを覚える。


「……ワレが無知蒙昧な愚者であることはワレ自身がよく理解して──」


 ──瞬間、ヴォルトの投げた針がアグニの脳天から頭の奥深くまで突き刺さる。ヴォルトの挑発に気をとられたアグニは、上から落ちてくる金属の針にまったく気がつかなかった。


「それは避雷針、いやアンテナだな。ただの高電圧が効かないことは知ってる。だからキミ自身の馬鹿力を利用させてもらう」


 ヴォルトがそう言って指から微弱な電気を発すると、アグニの体が歪に動き始めた。


「なんだ?体が勝手に」


 アグニは自分の意思とは関係なく動く体を興味深そうに眺めていた。すると突然、アグニの腕がアグニの頭を、正確には鼻から上の部分を粉砕した。


 そのまま腕を垂れて硬直して立つアグニに、ヴォルトは吐き捨てるように言った。


「脳の運動分野を電気でジャックして操った。まあラジコンみたいなものだな。脳味噌まで筋肉で出来てる戦闘狂キミに対しては有効な戦いからだろう」


 ヴォルトがアグニに背を向けると、殺したはずのアグニが、吹き飛ばされた頭のまま声を発した。


「──らじこん?それは言うなれば()()()のようなものか?」


 ヴォルトがやっぱりかという顔で振り向く。そして呆れ気味にいった。


「──ああそうだね、肉体を遠隔で動かすダミーとよく似ている。いい加減『闘争』したさにほぼ不死身のダミーの体で暴れ回るのはやめてくれませんかね。大抵のダミーは脳や心臓を破壊されたら崩壊するんですよ?」


 アグニは再生を完了させると自慢するように言う。


「ふん、ワレと貴様らとは体の鍛え方が違うのだ」

「体の鍛え方どうこうでできる芸当じゃないだろう脳筋(バカ)


 冷や汗を垂らしながらヴォルトは言う。再生ができるアグニを相手に、今の自分は殺し切れる手段を持っていない。女を抱えたまま逃走に移ろうとしたとき。


 ──ヴォルトの片足を赤熱した石が貫いた。


「ぐぅあっ!」


 そして地に膝をついてしまった。


「愚鈍なワレなりに『雷血』を相手にする手段を考えたのだ」


 アグニは道路を砕いて石にすると、それを炎で熱し赤熱化させていた。それをヴォルトにぶつけたのだ。


「炎ではなく熱の攻撃をすれば良いと。」


 アグニは第二投を準備し始めた。その隙を狙ってヴォルトは胸元から、ある()()を放り投げる。


脳筋(バカ)にしてはよく考えたね!はなまるマークとコイツをプレゼントだ!」


 ヴォルトが放り投げたモノは空中で激しい閃光を発した。アグニは思わず手で顔を覆い隠す。


「太陽の光だと!?夜明けにはまだ早いは……ず?」


 閃光は一瞬だけで、すぐに夜の闇があたりを包んだ。アグニの傍には壊れた電球が落ちていた。


 ──そしてヴォルトと傍らの女は影も形もなくなっていた。


 アグニは大声で笑いながら言う。


「これだから戦いは面白い、愚かなワレには考えつかぬような作戦を次々と見せてくれる」


 そして狂気に満ちた笑顔を作ると言った。


「もっと見たいものだ……もっと……もっと」



 遠くに逃げたヴォルトは女を抱えたまま壁にもたれかかる。


「くっ戦闘狂が……電気で筋肉を無理矢理動かして逃げたけど痛いねこれ……もうやりなくない……」


 そしてヴォルトは地面に座り込む。


「たしか今、この街の近くにあの『英雄』サマが来てるんだっけ、ハア、あの脳筋(バカ)の次に取りそうな行動が手に取るようにわかるよ……」


 ヴォルトは女の首元に口を当てる。


「この街を滅ぼさせはしない……この街には私の病院が……そしてそこで治療を受けている人々がいるんだ……」


 そうつぶやき、血を飲み怪我した足を回復させた。


「……酒くっさ」


 ヴォルトは腕の中でグースカ眠る女を抱えて夜の闇に消えていった。


 *


「検問でチェックは済ませました!どうして入れてくれないんですか!?」


 夜明けごろ、『北都』の門の前で、キッドとアンナは荷物を載せた台車を傍らに門番に詰め寄っていた。門番は二人を睨みつけながら言う。


「あ?忌血なんざこの街にいれるわけないだろ。ただでさえ吸血鬼が近くに来てるんだ。俺たちを巻き込むんじゃねぇ!」


 門番の言葉にキッドは怒りを覚える。そして反論しようと口を開いた瞬間。


「──入れない?それは私たちもか?」


 キッドたちの後ろから声がかかる。冷たい声でそう言ったのは『忌血の英雄』ネールであった。


「こりゃあ大変だ。街に入れなかったら吸血鬼が街に侵入したとき、俺たちも助けにいけなくなっちまうなー。いや、門番さん達がこうして絶対に吸血鬼を入れないから大丈夫か」


 そうニヤついて言ったのはもう一人の『英雄』ニールである。だが目はまったく笑っていなかった。


「えっ……あの……その……」


 門番達はたちまち口ごもると、黙って門を開けた。


 *


 キッド達はネールたちとともに街の中に入った。街の中はたくさんの人で賑わい、様々なものが売り買いされていた。


「あ、ありがとうございます!台車を押すのまで手伝ってくださって」


 アンナが二人に深々と頭を下げる。それに対しネールが穏和な表情で返す。


「気にするな。同じ忌血のよしみだ。私たちのことを知っているかもしれないが改めて自己紹介させてくれ。私はネール。この兄のニールと共にヴァンパイアハンターをやっている。『忌血の英雄』という名は聞いたことがあるだろう?」


 立て続けにニールも笑みを浮かべながら言う。


「それ、この二人が俺たちのこと知らなかったらめっちゃ恥ずかしいヤツじゃない?ま、いいや。よければ君たちのことも俺たちに教えてくれないかな?同じ忌血の人間と会うのは珍しいからさ」


 キッドがニールの質問に答える。


「あ、あの僕たちは行商人をやっています。僕たちの関係は……」


 そう言いかけたところでキッドは考え込む。目立つことを嫌って家族でもない忌血同士が集まることはないからだ。下手に探られるとフリーダやエルマのことがバレるかもしれない。


(二人みたく兄妹って言ったほうが親しみをもってくれるかな)


 そう考えてキッドは答える。


「僕たちはきょうだ「夫婦です」


 アンナが割り込んできた。

 キッドが驚いてアンナの顔を見る。アンナは赤面しながら目で


(兄妹より夫婦のほうが自然でしょ!)


 と言っていた。


 だがネールがポカンとした顔で訪ねる。

「ん?君たちはまだ結婚できるような歳には見えないが……」


 それに対しキッドは慌てて取り繕う。


「フィ、フィアンセです!結婚できる歳になったら式をあげようかと!」


 ドギマギとする二人にニールがものすっごい笑顔で話しかけてきた。


「ヒューヒュー!お熱いねぇ。式には是非呼んでくれよ」


 いたたまれなくなった二人はお礼を言ってその場から離れようとする。そうして台車を押す二人にネールが後ろから


「待ってくれ」


 と声をかけてきた。何かボロをだしたか!?と二人はビクっとして振り返る。ネールは少し悲しそうな顔をして二人にこう言った。


「さっきは辛い思いをさせてしまってすまない。彼らも吸血鬼におびえているのだ」


 そのことか、と二人は胸を撫で下ろす。


 近づいてきたネールがキッド達を両手で抱きしめる。そして二人の耳元で言う。


「私が必ず吸血鬼達を滅ぼしてやる。そして君たちが差別されない世界を作ってやるからな」


 そして一回キッド達に笑いかけるとニールと共に去っていった。

 キッドたちは何とも言えない顔をして二人を見送った。


 *


 昼間、『ヴォルト診療所』と看板のついた建物に一人の男の子が飛び入ってくる。

 そして何回か奥へ続くドアを開けると、真っ暗闇の部屋の中にこう叫んだ。

()()()()様!ヴォルト様の言っていた忌血の子どもがやってきました!」


 男は暗闇の中で何かの薬品を調製しているようだった。そして男の子にこう返事をした。


「ご苦労ボルタ。あとは口八丁におためごかしを言って、その子をなんとかこの診療所まで連れてきてくれ」


 ヴォルトは指をパチンと鳴らす。

 すると電球が光り闇の中にヴォルトの姿が浮かんだ。


「彼こそが……アグニに対抗する唯一の切り札になるのだからね」

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