再会病棟 花
病室の男
# 再会病棟
その男の残したものは
数枚のピンクのタオルだけだったかも
知れない
その朝
既に男の姿はなく
片付けられる前の病室には
可愛らしい色の新しいタオルが
数枚 不似合いに残されていた
# 裸の男
男はいつも
裸に近い状態で
マットが敷き詰められた病室の床を
のたうち回っていた
坊主頭で その表情は苦痛に満ち
時に呆けているように空を見ていた
耳の後ろの首筋あたりから
まだ若さが残されている
男の年齢が感じられた
# 苦闘
何に苦しみもがいているのか
病気ゆえの動きか
しかし 襲いくる悪魔も
耐え難い苦痛も男にとっては
本物だ
毎朝毎晩 来る日も来る日も
病室での孤独な闘いは
続いていた
# 女
ひとりの見舞客があった
まだ20代前半くらいの
どことなくその仕草に
いじらしさが残るような
女だった
女は病室に入り
隅でしばらく男の様子を
黙って見ていた
無言のまま顔を落とし
床を見て やがて極端に殺風景な病室を
見回した
# タオル
女は病室を出て
近くのスーパーへ行った
そこで3枚入りで198円の
安物のタオルを買った
とても可愛らしいピンクのタオルだった
病室に戻り窓の手すりに
きれいに並べて掛けた
男は女に気付く風もなく
床のマットに頭を付けて
目を閉じていた
首筋の短い髪の毛は
汗で縮れていた
# 話
病院の中庭で
女がぼんやり空を見ている
私は女の短い打ち明け話を聞いた
自分は母の子供で、兄は父の子供だった事
自分がまだ3つくらいの時
一緒に暮らし始めて
父は厳しかったが 兄は優しい
少年だった事
それから何年か過ぎたが
いつのまにか父母はいなくなり
しかし 兄はずっと可愛がってくれたと
女は空を見上げていた
# 花
数日後
男はこの世を去った
男がこの世に残したのは
三枚のタオルだけだった
それは殺風景な病室に
可憐な花のように
窓辺に残った
病室の花




