第十六話 『アキレアを誓っている』
こんな世界は、嫌いだ。
理不尽な壁が、何枚も目の前に聳え立っている。
乗り越えても、壊しても、次の分厚くて高い壁が現れるだけ。
多くは、壁を前に諦めて跪いた。
何とか、壁に挑もうとする者もいた。
大切な人の想いを継いで、助けたい白髪の少女。
赤毛の少女に一番の笑顔を約束した少年。
でも、壁はやはり理不尽だった。
白髪の少女が助けたいと思った人々は、称号の運命を受け入れて端から助かることを諦めていた。そんな姿を目の当たりにして、少女は凍る。
称号が絶対的に思えて、壁を突破するための答えを見失う。
少年もまた、同じだった。
叶えたい願いがあっても、具体的な答えがない。
絶対的な壁の前で、跪く。
なら、任せてしまえ。
自分にはない、特別を持っている誰かに。
こんな世界は、嫌いだ。
大嫌いな世界で、期待を寄せる。
『――その答えは、きっと誰かが見つける』
◇◇ 沙智
「――ステラのことで、頼みがあるんだ」
舌から、急速に水分が乾いていくのを感じる。声にいつもの調子はなく、何だか声帯で音を出す歯車が空回りしているかのようだった。
それが逆に、俺の真剣さを訴えるのに一役買ったようだ。
レイファの表情が、自ずと真剣なものとなる。
当事者であるステラを置いてけぼりにして、陰で相談を進めるのは悪い事だと思う。だが一度動き出した舌は、止まらなかった。
罪悪感を喉奥に閉じ込めて、また唇が震えて動き出す。
「『魔王』はレベル30に達して羽化すると、魔神による意志統制が行われてしまうらしい。抵抗すれば、人格を持っていかれて暴走してしまう。それを避ける方法がないか、俺はこの二週間ずっと考え続けてきた」
叫び続けてやるよ――。
例え暴走して意識を失っても必ず見つけ出すと、ジェムニ神国で声が枯れるほど叫んだ。あの時はただ、ステラの心を繋ぎ止めようと、必死だったんだ。
だが、今必要なのは、心に訴えかける体の良い言葉じゃない。
具体的な解決案が、必要だった。
「でも、良い方法が何一つ思い浮かばないんだ」
悔しさを喉奥に噛み殺して、俺は肩を震わせる。
そんな様子を、レイファは、ただ静かに見つめていた。
「時間が経って分かった二つ。称号システムが思っていた以上に盤石だったって事と、自分自身が思っていた以上に無力だったって事だけだ」
叫びに具体性が伴わないまま、その時だけが刻一刻と近づいている。
ステラの今のレベルは28。羽化まで僅かだと言うのに、問題の称号システムが千年行使し続けている絶対的なルールを俺は破れる気が全くしない。ネミィから使命称号の話を聞いて、その感覚は増すばかりだ。
目の前の理不尽な壁は、普通な人間には、あまりにも高すぎて。
その高すぎる壁を、乗り越えられる誰かが、きっといる。
彼女こそが、その特別な誰かであると望み。
「だから、さ」
「――――」
「レイファに頼みたい」
掌に爪が食い込むほど強く、拳を握った。
ああ、舌がまた乾く。
数十秒の沈黙が、俺を無性に不安にさせた。
小川の落ち込みで水が大岩に乗り上げて宙を舞い、また水面にじょうろのように流れ落ちる。その音だけがずっと耳に鳴り響き、額を伝う汗と共鳴した。水面には銀色の魚影が数匹群れて映り、流れを残して泳いでいく。
やがて、ポチャンと小川で魚が跳ねて、沈黙は終わる。
レイファは、首を縦にも横にも振らなかった。
まるで小枝で摩るように、聞き心地の良い声で俺に問いかける。
「わしに、預けても良いのか?」
「……あ、ああ」
「本当に良いんじゃな?」
「…………」
彼女は俺の、刹那の躊躇いを見逃さなかった。
穏やかな口調で、俺の心の底を探ろうとするレイファが怖かった。口を半分開けたまま顔は勝手に俯き、喉が凍り付いて声は出口を失った。
喉だけじゃない、全身が怯えて強張っていく。
レイファは、俺にはない強さも、経験も、知恵も、全部ある。何より、赤の国の住民たちが苦しんだ恐怖の五日間を笑顔に塗り替えた実績がある。俺と同じ異世界から来たという境遇の持ち主で、信頼もできる。
出会った時にだって思ったはずだ。
彼女に預けてしまうのが、最良の選択肢だと。
なのに、俺は二度目の返答をなぜか躊躇ってしまった。
その理由を、レイファはもう見透かしていた。
「間違えるのは、怖いか?」
「――――」
今までの、世話焼きで温かい音色はもうなかった。
ジャリジャリと小石を踏む音が耳に届き、黄土色のブーツが俯く視界の端に留まる。清楚な白いワンピースの裾が木漏れ日に妖しい影を作り、忘れかけていた少女の悍ましい正体を浮かび上がらせた。
地面にはためく不気味な影から、視線が離せない。
悪魔は、とうに見透かしていたのだ。
俺の心に吹く、臆病風を。
「ステラだって、レイファの方が安心できるに決まってる」
「どうしてそう思う?」
「だって、俺には正しい答えを出せない」
声は、酷く掠れて、震えて、あまりにか細い音色だった。
心臓はバクバクとはち切れそうなほど暴れ始め、額からダラダラと滝のように汗が流れ落ちる。異常気象とも言うべき炎天下なのに、衣服が肌に密着して、身体がどうしても寒い。
いつしか、泣きそうになるほど表情は歪んで。
俺は、ネミィの悩みに答えを出せない。
俺は、赤の国の危険に答えを出せない。
「――俺は、お前と違って、特別じゃないんだよっ!!」
思いの丈を、力一杯吐き出した。
身体の脇で震える握り拳には力の筋が浮き上がり、強く噛みしめた奥歯がガタガタ軋む。ドロドロと心の奥底にあった激情が、初めて音になった瞬間だ。
吐き出して、なお心の中は荒れ狂う。
だが、必死に叫んだにも拘らず、レイファの顔色が変わることはなかった。
この場所で、彼女はどうしても悪魔だった。
「お主は、特別じゃないから答えを出せんのか?」
「え?」
「そうじゃないと、本当は分かっとるのじゃろう?」
瞬間、心臓がピキッと凍り付く。
暴れていた鼓動が止まり、川や風のハーモニーがピタリと停止した。
停止した世界で、レイファの平坦な響きだけが鳴り響く。
「お主が答えを出せんのは、今まで白紙の解答用紙で満足し続けたからじゃ。目の前に壁が現れる度に、それを自力で乗り越えようとせず、避けて、避けて、避けて、抜け道ばかりを歩いて来たからじゃろう?」
「――――」
「それでは答えを導く力は養われん」
悪魔の鋭い指摘に、俺は俯いて押し黙るしかなかった。思い返してみれば、俺が自分の力で大きな壁を乗り越えられたことが何度あっただろうか。
はずれの町では、サクにヒントを貰って抜け道。
ジェムニ神国では、具体案を先延ばしにして抜け道。
壁を避けてばかりだ。
知らず知らずのうちに、俺はまた妥協だらけの、楽な生き方を選んでいたのかもしれない。楽な方に逃げ続けたから、壁の越え方を学ばなかった。そして、抜け道が見つからない大きな壁の前で、身勝手に望むんだ。
俺にはない、特別を持っている誰かを。
「――じゃが、そんなお主が初めて壁を越えたいと思うた」
小指でツンと突けば崩れ落ちそうなほど脆くなった俺に、悪魔はなぜか止めを刺そうとしない。恐る恐る顔を上げると、そこに温かな微笑みが戻っていた。
世話焼きなレイファの微笑みが、戻っていた。
「答えを間違えるのが怖いと思うのは、当然じゃ」
「え?」
「だって、それが大事なのじゃろう?」
レイファが優しく俺の頬を撫でる。
そうだ。
何が何でもその場所に辿り着きたいと思った。自分に力や才覚なんてなくても、特別じゃなくても、主人公なんかじゃなくても、一人の少女を繋ぎ止めたかった。ようやく見つけた、未来への羅針盤だった。
「それでも、足掻いても駄目な時は駄目じゃ。逃げることも、託すことも、必要な選択かもしれん。武器を持つことだけが全てではないからのう。じゃから、後でじっくり後悔できるよう、言い訳せず選べ」
レイファは、俺に掌を差し出す。
そうして穏やかな口調で、三度繰り返した。
「もう一度聞くぞ?」
「――――」
「本当に、わしに預けてしまっても良いのか?」
彼女の温かい表情に、これが最終確認なんだと理解した。
頷いて手を取れば、レイファは俺から悩みを受け取って、彼女なりの解法でステラを救える手段を試すことだろう。千年の知恵を持ち、あらゆるスキルを扱い得る彼女なら、成功の可能性は高いはずだ。
それが、望んだ展開じゃなかったのか。
だが今、右手と声を俺はどうしても渋った。
その理由を、悪魔は最初から見透かしていたんだ。
「――あ、こんなところにいた!」
「――ッ!」
清廉な赤い声は、唐突にやって来た。
秘密基地の方角に視線を遣ると、木陰から差し入れのお菓子を持って近づいて来る少女が一人。その紅葉にも負けない綺麗な赤い髪を見て、鼓動が高鳴る。
どうして、こんなタイミングでやって来るんだよ。
心の中で愚痴を溢す。
それでも足は、自然と赤毛の少女の下へ向かっていた。
「ステラ」
「ちゃんと怠けずに修行できてた?」
距離にして、およそ三歩分。
その絶妙な距離感で、固まる俺にステラは首を傾げる。
何かを話さなければいけないと思った。
あるいは彼女に内緒で話を進めようとした俺に、今更彼女の救いを求める資格はないのかもしれない。それでも、聞かなければ何も決められない。
必死に声を探そうとする俺に、ステラも只事でないと察したのだろう。
「――何かあった?」
ステラが優しく、寄り添うように、問いかける。
瞬間、心がタガが外れた。
抑えきれなくなった感情が、みっともなく喚き始めた。
「お前は、不安に思わないのかよ? 俺は、叫び続けるって、叫んで、でも……今でも、具体的な答えが、一つも……何一つも、出せないままで! こんな俺に……ま、任せても良いのかって、俺なんかに!」
自分でも、支離滅裂だと思う。
突然の事で、胸の中で整理がついていなかったのだ。自分を否定して欲しかったのか、肯定して欲しかったのか、それさえ分からない。ただ、自分の夢の羅針盤を、称号システムの絶大性の前に、怖気づいて一度は離そうとした俺なんかを、少女がどう思っているのか知りたかった。
そうだ、多分、俺は知りたかったのだと思う。
ステラもいきなりの事で最初は困惑した様子だった。
だが一瞬顔を伏せると、一歩後ろに下がって、俺にこう告げた。
「重荷に思ってたらごめんね」
「――――」
「でも、私が頑張りたいんだよ」
「え?」
小さな茜が、晴れやかな空に背伸びしたような告白。
その言葉がすぐには理解できなくて、頭の中で反響を続けた。その意味を脳細胞が徐々に理解し始めると、浮かんだのは純粋な疑問だった。
ステラも、俺やネミィと同じだったのではないのか。
少女も思っていたのではないのか?
答えは、特別な誰かに――。
「ワガママだけど、あなたにステラって呼んで欲しいから」
「――っ!」
秋風が紅葉を攫い、赤い髪を滑らかに揺らした。
少し恥ずかしそうに頬を赤らめながらも、少女は視線は外さない。
自分が見つけた夢に、羅針盤に嘘はつかない。
それが恥ずかしいことだなんて微塵にも思いたくない。
見つめる先に、純粋な笑顔を――。
言い訳せず選べ、か。
なるほど、確かにレイファの言う通りだった。
「クッソ!」
悪魔は、最初から見透かしていたんだ。
頼みたいと言い出した俺が、本当は一番諦めたくなくて、本当は一番手放したくないと思っていたことを。この胸で暴れる衝動を。
他の誰かじゃ、駄目なんだ。
ようやく見つけられた、未来への羅針盤。
針が指し示す方向は、一つだけ。
「駄目だぁー!」
「え?」
「やっぱり、ステラの一番の笑顔だけは誰にも譲れないや!」
「ななななな何をっ!?」
自分の衝動に気づけた今、もう言い訳はしない。
例え目の前の壁がどれだけ高くても、分厚くても、本当に目指したい景色が、ハッピーエンドがその向こう側にあるのなら、戦うしかない。
持てる全てを、出し切るまで。
「あわわわわわ」
「――よし、決めた」
妙に慌てふためくステラを隣に、俺の心は決まる。
そうしたら、この決意を今すぐにも伝えに行きたい相手がいた。
だから、俺は走り出す。
「サンキューなっ、レイファっ!」
「え? え? え?」
「やれやれ、サクに負けず勝手な奴じゃのう」
真っ赤になったステラの傍で、レイファが苦笑して呟く。
その一言は、もう彼方。
§§§
『――その答えは、きっと誰かが見つける』
どうして走り出したのか自分でもよく分からなかった。
不安を吐き出して、悩みを打ち明けて、思い出した最初の気持ちを声に出したら、体の奥底に残ったのは、自分でも抑えられない衝動だったんだ。
その衝動が、俺を一目散に走らせた。
カラカラと乱暴にドアベルが鳴る。
『――その答えは、きっと誰かが見つける』
胸に帯びた熱が、カフェからまた俺を走り出させる。
朝に出掛けたきりと心配そうに語るセシリーさんの表情が頭から離れない。少女の行き先はどこか、そう考えたら、思い当たる場所は一つしかなかった。
思い当たってしまったから、衝動は収まらない。
この想いを、一刻も早く伝えたいんだ。
『――その答えは、きっと誰かが』
馬車の荷台から飛び降りたら、燻ぶっていた足を宙に放り出す。起伏のせいで酷く疲れる山道だって、体の内の、この熱い鼓動を分かち合うためなら平気だ。やがて空にまで渓谷の紅葉が広がって、ようやく足が止まる。
呼吸は乱れたまま。
それでも、第一声はもう決めていた。
「――その答えは、必ず俺が見つけ出す」
§§§
「どうやら勘は当たったらしいな」
「――――」
額に汗を浮かべて腰を折り、小さく安堵の溜息を溢した。
ここは、谷底を挟んだ向かいにある、渓谷の墓地。
色付く落ち葉を着飾った灰色の石畳の上には、同じく灰色の墓石が、町の温度から最も遠い場所で寂しく並んでいた。その中でも一番ピカピカで真新しい、白や青といった控えめな色合いの花が添えられた墓石がある。
その墓前で、少女は俺の吐息に気づいて振り返った。
「ミシェルの墓か?」
「そう」
たった数秒のやり取りでも、痛いほど伝わってくる。
世界への葛藤と絶望に、暗く沈んでいる。
ミシェルが危惧した危険は、恐らく魔神信仰会の企みとして実在している。しかしそれを訴えたところで、国境を越えてはならないと定める使命称号を絶対とし、赤の国の住民は遵守するだろう。
少女は、理不尽な称号の壁の前で、凍っているのだ。
生温かい山颪が、楓の葉を巻き込んで音を立てる。
そんな中、少女は静かに口を開いた。
「さっきの、どういう意味?」
「昨日、この世界のことをどう思うって聞いたろ?」
「――――」
「その返答だよ」
しっかりとした口調で応えると、少女の眉がピクリと反応した。だが様々な感情を閉じ込めた万年雪は未だ頑丈で、氷解する気配を見せない。
ただ、分厚い内部で、氷結を繰り返しただけ。
この解けそうにない氷に、どうしても響かせたい。
だから拳を震わせ、打ち明けた。
「俺は、この世界が嫌いだよ。大魔王とか裏切者の勇者とか、人を悩ませる事ばかり。――クソったれだ。称号システムが夢や自由を奪ったせいで、普通に生きてみたかったって涙を流した女の子まで知っている」
胸の紅いお守りを、強く握り締める、
あの月夜の涙を、俺はきっと一生忘れない。
あの月夜の偽物の笑顔を、忘れない。
「はっきり言うよ、こんな世界嫌いだ」
冷たい独白を、少女は相変わらず無表情で聞いていた。
だが、氷は揺れる。
「でも、今の感情を答えにはしたくない」
そう続けた途端、怪訝そうにピクリと揺らいだのだ。
届くだろうか。
届けばいいな。
「トオルにはいろんな夢を叶えて欲しいし、ステラには一番の笑顔で笑って欲しい。いつかそんなゴールテープを切った時に、振り返って、大変な道のりだったねって、みんなと一緒に笑い合いたい。だから――」
この想いが、本当に高い高い壁を越えられるのかなんて分からない。結局のところ、誰かを助ける具体案なんて見つかっていない。
でも、スタートラインに立つことは、もう恐れない。
本当に願うものがあって、そのために頑張りたいと心の底から思えたなら、それはきっと何よりも幸せなことなんだと思う。自由に未来を選べない人々に失礼だ、なんて謙遜はしたくないけれど、せめて、胸を張って生きていたい。
壁を乗り越えたいと叫べる衝動があることを、誇りに思いたい。
だから――。
「戦ってみようと思う」
「――――」
「いつか、この世界を好きだと言えるように」
地面に吐き出した声が、寂しい墓石に木霊する。
思いの丈は、これで全部出し切った。
俺は答えたぞ。
雪解けの時が来たんだ、ネミィ。
凍り切るには早すぎる。
「ヒーローでもないのに、本当に戦える?」
「主人公も、特別な誰かも、夢見るだけで我慢するよ」
腰に手を当てて微笑むと、突然また山颪がやって来て、欅や楓の葉々を赤く奏で始めた。この異常な夏の終わりの暑さを一瞬忘れるほど、清涼に、麗しく、山風は世界を優しく鳴らしていった。
その音色に惹かれた、その時だった。
「――ふふっ」
小さく漏れた、温かい声。
俺は最初、その笑い声が目の前の少女から発せられたものだと気づかなかった。慌てて視線を遣ると、冷たい瞳の中に、一筋の光。
氷が解け出して、閉じ込めていた感情が溢れ出す。
ああ、驚いたのは俺の方だったよ。
ついでに、嬉しくて泣きそうになったのも。
「あなたって意外にロマンチストなんだね」
「そう形容されるのは二度目だな」
雪解けの少女はすっきりした様子で、表情も柔らかい。
何となく想像した通り、年の割に大人びてサバサバした性格なのは変わらなかったが、それも含めて、目の前の温かい少女を尊く思う。
少女は、足元の落ち葉の隙間から、白い花が数粒咲く茎を千切り取った。
その茎を握った拳を、俺に向ける。
「私も、抗ってみたい」
「ああ、やってやろう」
俺も同じように茎を千切って握り締め、少女と拳を交わす。
それぞれが向き合うべき課題は別々で、立ち塞がる壁の厚さも高さもきっと違うだろう。今日、俺たちは誓いを交わして、背中合わせに歩き出す。
凛々と力強く輝く瞳で、明日を目指して叫び出す。
もう、この衝動は抑えられない。
白いアキレアが花言葉でそう告げるように。
戦うと、誓え。
「俺は俺の未来のために」
「私は私の未来のために」
『挑んでやる――!』
【『抗う者』】
『店員』や『イズランドの決まり』みたいな、人の自由を縛る使命称号にはそれぞれ細かい制約があるの。例えば『店員』なら一日の何時から何時まで店から出てはいけないとか、『イズランドの決まり』なら一年のある五日間の間は国境を越えてはならないとか。その制約を破った者には『抗う者』の称号が送られる。その効果は――。
※加筆・修正しました
2020年5月9日 加筆・修正
表記の変更




