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これは俺が勇者になるための物語  作者: 七瀬 桜雲
第一章 はずれの町
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第一話   『異世界転移なんてあるはずがない(1)』

こんばんは。作者の七瀬桜雲と申します。いい名前思い浮かばなかったんで作中のキャラからもらいました。ちゃんとした桜雲ちゃんはそのうち出します。これからよろしく!


 夏真っ盛り。うだるような暑さを蝉は大声で喜んだ。近くの踏切がカンカンと音を立てる。俺は神社裏手の草地にしゃがみ込んだ。面倒な授業も勉強会もようやく終わった。あとはこの暑さだけが俺の敵だ。何となくそんなことを思いながら、茜色の空に旗のような薄い白雲が流れていくのを仰ぎ見る。

 俺のモノローグは、そこで一旦途絶えた。


 もう、蝉の鳴き声はしない。

 熱を感じる余裕もない。


『じゃあ、あなたを異世界へ送ります!』


 世界は、女神を名乗る少女の出現によって凍り付いた。

 幾つかの問答を経て、俺は長い旅を始めることになる。


『行ってらっしゃい!』


 もしもその日、俺を見送った季節外れの花が、足元に咲くイカリソウでなかったら、この突然の旅立ちを受け入れることができたのだろうか。

 例えば、世界が鈴の音に消え去る直前に見えた、青々しい桜の木。俺を見送ったのが、あの新生活を象徴するような綺麗な花だったなら。


 その答えは、きっとどこかに――。





§§§





 ということで、七瀬沙智(ななせさち)の異世界生活一日目が始まった訳だが――。


「なあ赤毛さん、この町本当に宿ってないの?」


「いい加減諦めて、砂漠にオアシスを夢見るような願いだって分かりなよ、嘘つきさん。こんな寂れた町に宿なんてあると思う?」


「これも罰だってか、あの自称女神めえええ!」


 異世界転移なんて碌なものじゃない。そう再確認するような出来事の連続に、ここにはいない女神への苛立ちを募らせていた。

 人を未知の異世界に放り込んでおきながら、ナビすらせず目の前から消え去るなんて、女神とは思えない所業ではないか。


 俺は、ごく一般的な高校三年生の男子である。

 装備も、高校指定のポロシャツに黒ズボン。ずっと愛用している茶色のカジュアルリュックの中を覗いても、重いだけで役に立たない教材と筆記用具が入っているだけ。財布には二千円ほどあるが、この異世界でお金としての価値はない。

 モンスターに襲われでもしたら、あれよあれよの内に肉塊だ。


 いや、実際すでに襲われている。為す術なかった。偶然通りかかった親切な男が助けてくれたのだが、その時、俺は強く思ったのである。

 一刻も早く、安全な寝床を確保しなければならないと!


 だと言うのに。


「あんまりだ! 絶対に元の世界に帰ってやる!」


「まだその設定続ける気?」


 奮起していると、赤毛の少女がニヤリと揶揄った。


 俺との間に絶妙な距離を作って目前を歩くこの少女は、俺がこの異世界で出会った人間第三号である。

 年は俺と同じ十八歳くらいで、元の世界では見ない綺麗な赤毛。その髪の美しさとは対照的に、彼女が着る夏用の薄いカーディガンは、焦げ色で酷くくすんでボロボロだった。服なんて着られれば良いだろと考えるファッションとは無縁の俺からしても、彼女の顔が整っているだけあって、何だか勿体ないなと感じてしまうような格好だ。

 そして多分人は良い。驚くほど良い。嘘つきと邪険にする割に、困っている俺を追い払おうとしないのが、その証拠だ。


 俺は、彼女の名前を知らない。

 だから見た目通り『赤毛さん』と呼んでいる。


「異世界出身だと大変だねえ」


 なお、俺の身の上話は普通に信じていない。


「だから本当なんだって!」


「冗談はそのアホ毛だけにしたら?」


「さらっと酷いな、おい!」


 口では嘘じゃないと反論するけれど、この少女に分かってもらうのは無理だろうなと、俺は内心諦めて、不貞腐れていた。

 俺自身も数時間前までは、異世界転移という現象を、宇宙人の存在やタイムトラベルと同列の夢物語と考えていたのだ。自分でも信じていなかったそれを、出会って小一時間程度の少女に信じてもらおうだなんて無理がある。


 ――それに、本当に信じてもらいたいことなら別にあった。


 そもそも、俺は結構な人見知りである。モンスターから俺を助けてくれた第一号さんは向こうから話しかけてくれたし、第二号さんは店の従業員だったので気兼ねなく業務的な話をすることができた。

 だが赤毛さんの場合は、ちょっぴり緊張しながら俺が話しかけたのだ。

 ナンパしようと思った訳ではない。そんな度胸はない。


 見えたのだ。


「――呪い」


 腐りかけた平屋に挟まれた薄暗い路地で赤毛さんと出会った時に、ふと自分の瞳に目薬を差した時のような違和感を覚えた。

 何か、薄い膜が張られたように感じたのだ。


<『呪い看破』スキルを獲得しました>


 頭の中に、謎の女の声が響いたのはその直後だった。


 スキルというものが果たしてゲーム的なアレなのか。そう言えば自称女神が何たら言っていた気がするが、その時は考えるのをやめた。

 だって、謎の声がしてから、赤毛さんの周囲に、人を不安にさせるような黒い靄が見えるようになったから。


 別に教えてやる理由もなかったのだが、放っておくのも夢見が悪い。

 そんな訳で、ドキドキしながら声を掛けたのだが。


「――――。ごほっ」


「なあ赤毛さん、やっぱり呪いなんじゃないのか?」


「だから風邪だって」


 この少女、これもまた信じなかった。


 その結果が、この少女の背中を追っても宿はないと分かっていながら、この少女から離れられない今の状況である。

 少女が違うと言っている以上、無理やり病院を探して連れていくような真似もできなくて、何となしに歩き続ける。


 異世界転移前と、何ら変わらないな。


「はあ、何やってんだろう俺は」


 道端に見つけた黒猫が羨ましくてならない。枯れ木が植わった素焼き鉢という寝台でも、とても気持ち良さそうに眠っている。

 自称女神なんて現れなければ、俺も今頃――。


 そうして、また女神への苛立ちへと舞い戻りそうな時だった。


「――お、暇そうにしてるアベックを偶然発見したのだ!」


「は?」

「え?」


 突如、目の前に飛び込んできたのは、黒髪のやんちゃそうな男の子だった。俺と赤毛さんの不機嫌な反応を華麗にスルーして、彼は俺たちを両手でいっぺんに指差すと、出会い頭にこんなことを言い始めるではないか。


「少年少女よ、少しこの年寄りに手を貸してくれんか? あと口と耳と目と、あるなら羽も貸して欲しいのだ」


「あるわけないでしょ」


 図々しいにも程がある。赤毛さんも呆れた口調で即答だ。

 しかし異世界と言えど有翼種はいないのか。少し残念。


「人を探しているのだ。ほれ、年寄りには優しく優しく」


「お前、俺らより年下だろ」


 完全にこちらの都合を無視しして調子の良いことを言い続ける男の子に、今度は俺が肩を竦めて対応する。

 年寄りと言うが、見た目は中学生くらいだ。喋りだけ聞いていれば、小学生と言っても通じそうである。


 どう見ても、俺や赤毛さんの方が年上だろう――。

 と考えてふと思い出した。ここは異世界じゃないか!


「まさか、異世界特有のそういう感じの種族!?」


「いや、大人の真似してるだけなのだ」


「だけなのかよ!」


 実際に体験して嫌になったものの、これでもファンタジーには憧れた身。変わった種族や魔法との出会いに、密かにドキドキしていた身。

 そんな少年心を、男の子は年寄りの振りして無慈悲にも真顔で叩き割った。


 ――期待して損したよ、全く。


 だが、これでこの男の子に優しくしなければならない理由はなくなった訳だ。真似をしているだけで実際は元気坊主なのだがら、当然である。

 然しもの赤毛さんも、この元気な年寄り小僧の相手には消極的なようだ。


「私、この嘘つきさんの相手で手一杯なんだけどなあ」


「おい、いい加減その呼び方やめてくれないか? あと名前を教えてくれなきゃお前の呼び方ずっと『赤毛さん』だからな」


「信用できない人には教えませんよーだ!」


 俺がむっと眉を寄せても、赤毛さんはどこ吹く風といった様子。警戒心があるのかないのか、本当に分からない少女である。

 気安く話しかけてきたこの男の子までいくと馴れ馴れしいが。


 そんなことを思っている間に、男の子も俺と赤毛さんの周囲に漂う微妙な雰囲気を感じ取ったようだ。鉢の傍らで寝ていた黒猫をすっと抱えると、その金色の瞳と一緒にきょとんと首を傾げた。


「何なのだ? 喧嘩か? 夫婦喧嘩は猫も食わんぞ?」


「ついさっき会ったばかりだけど!?」


 俺と赤毛さんは声を揃えて叫ぶ。その揃いようがよほど面白かったのか一頻り大笑いすると、男の子は思い出したように「申し遅れた」と頭を下げる。


「僕はローニーというのだ。若い頃にお世話になったハンナという名前のお婆を探しているのだ。お手伝いを頼んだのだ!」


 とりあえず、俺はこの第四号を心の中で『なのだ君』と呼ぶことにした。


【ステラにAsk!】

ステラ「こんにちは!」

沙智「何このコーナー?」

ステラ「私がこの異世界のことを教えるコーナー!」

沙智「ノリノリだな」

ステラ「ということで最前列に着席!」

沙智「一番前はやめてええ!」



※加筆修正しました(2021年5月21日)

ストーリーの分割

サブタイトル変更

スキル称号の変更

・称号『呪いを見破る者』→普通スキル『呪い看破』


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