第十五話 『メニューをカキカキできるはずがない』
◇◇
少女は息を呑んだ。
もう終わりだと覚悟した自分の鼓動が続いている。視線を下ろせば、自分が「お兄さん」と慕う少年の手に血の付着した包丁が見える。それが自分の血ではないことは、満タンのままのライフゲージが証明していた。先程地面で擦り剝いて作った少年自身の傷口から、血は流れているようだった。
少年は砂地に出来た血溜まりに包丁を落とす。痛みで思わず手放したのか、それとも、もう必要ないと意図的に放したのかは少女には分からない。
少女に分かることと言えば、今は一つだけ。
二度と、鉄の首輪に煩わされなくていい。
「お、お前はっ!」
驚愕で顔を歪めるビエールに、そっと少年は向き直った。そう。この事態は全て少年が引き起こしたものなのだ。
あの悪徳商人は疎か、少年の味方であるはずの勇者の仲間たちも状況を呑み込めていない。当然、少女も同様だ。
そっと拳を上げる少年を前に少女は思う。
「――――」
ここはディストピア。
人々の暮らしは称号によって管理され、自由と権利は制限される。
魔神が支配して千年。
数多の勇者が魔王に挑み、そして破れてきた。
だから、いるはずがなかった。
だから、いてはならなかった。
「――ぶっ飛ばされる覚悟くらい、あるよな?」
その称号を書き換えられる存在など――。
◇◇ 数分前 沙智
「ごめんな」
「ありがとうございました」
葛藤の末にタイムリミットはやって来た。悔しさに満ちた俺の声に、少女はあくまでも穏やかな笑みで応える。
それが、また一段と悔しかった。
俺にはこの少女を救えなかった。
最後の瞬間に俺は何も考えたくなかった。感じたくなかった。この世界に色も温度もいらない。感情もいらない。あらゆる思考を手放して、左手に握った包丁の切先をまっすぐ少女の心臓へと向かわせた。思考を殺したのだから、利き手である右手に持ち替えようとすら思わなかった。
少女にはもう未来は書き換えられない。だから壊すのだ。せめて少女の意図しない未来へ続かないように、俺が。
それが、俺にできる最後のことで――。
――待て、「書き換える」だって?
「――――」
思考が息を吹き返したのは突然だった。
少女が途切れ途切れの声で必死に紡いだ言葉が、このギリギリの場面になって俺に一つの可能性を与えるのだ。
視界に紫苑色の半透明な板が現れる。――分かっている。魔力を指先に込めて四角をなぞるという動作をしていない以上、これはまやかしだ。それでも、まやかしを見るほどに、浮かんだ可能性は劇的だった。
それは、自称女神サクがくれた謎のスキル『キャラ依存』と一緒に、メニューに刻まれていた。『Undelivered』なる未解禁らしい残り二つの表示とは違って、この異世界の言語「共通語」でしっかり示されたユニークスキル。
ユニークスキル『編集』。
なぜかは分からない。ただこのまやかしの二文字が、左手に構える包丁などよりもずっとキラキラ輝いていた。
このスキルが何か特別な意味を持っている気がして。
「――――ッ」
と同時に、その希望から目を逸らすようにグッと目を瞑った。
それは現実逃避だと思ったから。無駄な思考だと思ったから。
それでも、それでもだ――。
もしこのスキルでメニューの内容を書き換えられるのならどうか。ユニークスキルは普通のスキルや魔法より希少で高位。まさかペンや消しゴムを持っていなくても手帳のメモを書き換えられるなんて陳家な能力ではないだろう。
この「編集」という文字列とユニークという特異性が俺に期待させる。
だが、そんな偶然があって良いのか?
ここは優しい世界などではなかったはずだ。
それに俺たちは悩み抜いて決断した。
目を開く。
――なあ、そうだろ!?
「――――っ」
「――――!」
再び少女を視界に収めて俺は言葉を失う。最後に俺を悲しませまいと微笑んでみせた少女は、ナイフを持ったその手を押さえようと必死で、もはや俺を視界には捉えていなかった。今も、全力で戦っていた。
救えない理由ばかりを数えようとしている俺とは違って、俺を助けるために、できることを全力でやっているではないか。
世界を、ゆっくりと黒い霧が包み込む。
――その時、凛とお鈴が鳴った。
お線香の香りだ。伊吹らとの勉強会を終えて玄関を開けると、いつもこの鼻に違和感を残すような香りがしていた。
霧が晴れる。目の前に広がっていたのは懐かしい光景だ。乳白色のタイルが並ぶ靴の脱ぎ場に立っている。そこから鹿が描かれたマットがあって、フローリングの床と二階へ続く階段が視界の奥へと続く。視線を右に遣れば、いつも俺の帰宅を迎えてくれる霞んだ鏡が。視線を左に遣れば、殺風景な畳の部屋。その奥にはシックな色合いの仏壇があって、お鈴の残響が微かに残る。
どこからともなく声がした。
『お前はいっつもそうだ。面倒に思ったらすぐ投げ出す。できないと思ったらやる前から諦めて、仕方ないんだって言い訳する』
――『霧の怪物』か?
何となくこの声の主はあの甘えの化身ではないかと疑った。しかし視界に黒い霧も赤い目も見当たらない。
探すこともできなかった。金縛りだ。白黒模様のスニーカーの靴紐が蛇になって脚を絡め取る。半袖ポロシャツのボタンが虎の牙になって獰猛に体を拘束する。
ズキンと左肩に痛みが走った。肌の弾力を突き抜けて零れ落ちた赤い雫が、乳白色のタイルの上に水溜りを作り出した。
水溜りに、過去の甘えが浮かび上がる。
もういいやと勉強を投げ出した。
充分やったと部活も投げ出した。
どうせ何もと明菜を残し逃げた。
身から零れ出た甘えがポタポタと水面に投影されていった。されど、いつかのようにその水溜りを踏み潰すことはできなかった。
肩からこれ以上零れなくなると、今度は逆再生したかのように、足元の水溜りから一滴、また一滴と、重力に逆らって血飛沫は上昇する。左肩の傷口に溶け込む時に伴う痛みが、ここにいるよと主張している。
そうだ。俺はいつも投げ出してばかり。
頑張ったところで何になるんだよって。
『また投げ出したいのかよ?』
――どこにいるんだ?
『それとも助けたいのかよ?』
――分からないけど。
また金属の音色が鳴った。でも仏壇のお鈴のように美しい響きではなく、錆び付いた鎖が擦れ合うような嫌な音だ。
その音が鳴った畳の部屋へと視線を向ける。そこには件の少女が立っていて、今も必死にナイフを持つ右手手首を握り締めていた。部屋全体に鉄の鎖。蜘蛛の巣のように広がる鎖の部屋。少女に未来はない。なのに少女は俺に気付くと、泣きながら笑みを浮かべるのだ。作り笑いだ。そのくらい分かるよ。
思わず拳を握り締める俺に、姿の見えない怪物は――。
『なあ、どっちだ?』
――悔しそうに嘆くんだ。
強い視線を感じてハッと後ろを振り向く。
そこにやっと『霧の怪物』を見つけた。
『どっちなんだよ?』
怪物は、俺を映すべき鏡の中に立っていた。
――あ。
その悔しそうな赤い両目を見て、俺はようやく分かったのだ。
過去に犯した数々の甘えが積み重なってできた弱さの集合体『霧の怪物』。お前が現れるのは、俺の後悔を突いて苦しませるためではなかった。お前が現れるタイミングはいつだって決まって、投げ出すか否かの分岐点だった。
お前は見張っていたのだ。過去の後悔から奮起して、俺が心から何かを成し遂げたいと思えた時に、また甘えて逃げ出さないように。
ずっとずっとその赤い両目で見張っていたのだ。
お前は、弱さの象徴であると同時に――。
――心の中で頑張りたいって思っていた俺だったんだな。
気付けた瞬間、激しい旋風から足の指先から吹き上がって、鏡の中の黒い霧を晴らした。もう蛇も虎もいない。いるのは俺と、鏡に映るもう一人の俺だ。赤い衝動を瞳に映して、悔しそうに奥歯を軋ませるもう一人の俺だ。
もう一人の俺が、鏡の中から最後の問いを投げかけてくる。
『お前はどうしたいんだよ七瀬沙智! いつまでも言い訳して投げ出そうとするんじゃない! 昨日の夜、そして今日! あの子を助けたいって思った気持ちは本物じゃなかったのか!? 答えろ七瀬沙智、お前は――ッ!!』
そうだ俺は。
『――あの子が夢を叶えて笑ってるところが見たいんだ!』
――あの子が夢を叶えて笑ってるところが見たいんだ。
声が重なって鏡の中で怪物が笑った。それに俺も笑顔で返したら、瞼を閉じて拳を胸に押し当て決意を新たにする。
なあ、女神様。
俺、罰ちゃんと受け入れるよ。
そして始める。
始めなければいけないんだ。
今度こそ本気で。
どうにでもなるでは駄目だ。どうにかするんだ。
自分が主人公の物語を始めて――。
――もう一度、凛とお鈴が鳴った。
ゆっくりと瞼を開く。皮膚を焼き付けるような暑さが戻り、左肩の痛みもジクジクと蘇った。それだけで現実だと理解できる。
俺はグッと奥歯を噛んで、少女へと向かっていく最中だった左手の包丁を力づくで引き戻した。代わりに今度は右手を伸ばす。
この世界は優しくないから?
偶然なんてあるはずがない?
本当に性根が腐っていると今では笑える。助けたいと本気で思えたなら、投げ出すための方便なんていらない。
成功するか否かは分からない。でもそんなのは関係ないのだ。
ただ全力でこの一瞬に賭けるだけだ!
「――――!」
この世界でスキルを発動する時は大抵魔力を込める必要がある。常時発動系のスキルはそうでない時もあるそうだが、少なくともメニューにある『編集』は黒字だった。能動的にスキルを発動するタイプだ。
俺は指先に魔力を込めてみる。このユニークスキルを使うのだと意識しながら指先に込めると、何となく発動を感じられた。
魔力が、本来の紫苑色と違って青色だ。
――覚えてる? スキルを発動する条件ってやつ――
いつかのステラの問いに、その時と同じように「対象に触れること!」と心の中でニヤリと返して右手の指先を向かわせる。
しかし、ならば少女に触れられれば良いのだろうか?
――いや、違うな。
俺が『編集』したいのは少女自身ではなく、少女のメニューだ。もっと言うなら少女のメニューにある称号だ。
それを思い出した俺は瞬時に瞳に魔力を集める。他人のメニューは『鑑定』スキルを使わなければ詳しく見られないが、レベルとライフゲージの二つの情報だけは誰でも見ることができる。それもまた間違いなくメニューの一端だ。本当に書き換えたい称号まで見えないところで繋がっているはずなのだ。
魔力を込めた瞳なら見える。少女の正面に半透明の板。そこに「レベル8」という表示と少女の生命力を示すライフゲージバー。
その魔力の板へ俺は青く光る指先をぶつけた。
瞬間、激しい閃光が――。
「――――!!」
まるで電脳世界に肉体を捨てて飛び込むかのような感覚があった。メニューという魔力の小さな海の中へと意識を潜り込ませる。
この板状の支配領域から幾度も反発を受けた。深く潜ろうとする俺を浮上中の泡が立ちはだかって押し上げようとするのだ。その泡に触れる度、泡の曖昧な輪郭を粉々に散らすような不思議な感覚があった。俺という存在との相撲に負けて消滅していく泡を見送りながら、より深く潜っていく。
この狭い海のどこかにあるはずなのだ。
だから、しっかり辿っていけ。
――あった!
紫苑の海の底。そこに一際禍々しい黒い光。『奴隷』の効力を持つ称号だ。俺にはそれが鉄の首輪に見えてならない。
首輪に繋がる鎖を辿って行けば、この支配の中枢まで行けるのだろうか。そんな風に一瞬思ったけど、今はこの黒い光を消すのに集中すべきだ。消し方は、ここに至るまでの無数の泡が教えてくれた。
青く光る五本の指先を、その黒きに伸ばす。
海底に忌々しく光る黒い称号を捉えると、それを壊すのは難しくないと俺はすぐに悟った。するとどうだろうか、このまま消すのは面白くないと思ってしまう俺だった。ユニークスキルの名は『編集』――ならば、すでにある文字を消しゴムで消すだけではなくて、新たに書き足すのも一興ではなかろうか。
そう感じた時、俺はすぐに書き足したい文字を見つけた。
間違いない。ここはディストピアだ。
こんなふざけた称号があるから、一人の女の子が夢を叶える未来を諦めて死を選ぼうとしたのだ。
こんなふざけた称号があるから――。
――ご自由にお呼びください――
ずっと考えていた。幾つか案は浮かんでいたけれど、今浮かんだ三文字が一番良い。俺は頬を緩めて文字をなぞる。
青色ではない綺麗な星色が新しい称号を祝福する。
でも、この名を呼ぶのはみんなを驚かせたあとで。
その方が面白いと思わないか?
なあ『トオル』――!
「――ふ」
こうして静かにユニークスキルの奇跡は終幕を迎えた。
§§§ そうして現在
これは物語の定番だ。一番熱くて愉快な展開だ。負け戦でもちゃぶ台でも、ひっくり返すのは気分が良いもの。
何が起きたのか誰も理解できない表情だった。そのことに優越感を覚えつつ、もう失敗する訳にはいかないと。
――諸悪の根源を睨みつけた。
「もう一度聞くぞ」
「ひ!」
「ぶっ飛ばされる覚悟はできてるよな?」
ビエールが鼻水を垂らして後退る。彼は、俺のような矮小な存在に心から恐れを抱いているように見えた。俺がそんな大層なタマかよと呆れるが、人はどの時代でも未知というものを恐れる生き物なのかもしれない。綺麗な蝶の鱗粉にも毒があるように、俺のような矮小な存在にも毒があるのではと怯えているのだ。
半狂乱に陥った彼は、みっともなく声を荒げる。
「何で首輪が割れる!? それは『奴隷』の称号をなくならない限り絶対に外れないはずだ! そう魔神が設定した! 壊したってのか!? 称号を!? ありえねえあるはずがねえ! おい小娘、さっさと小僧を殺せ!!」
「――ぁ」
「トオル、こっち来い」
面倒くさいあの男は一旦放っておいて、俺はおどけた声で少女に手招き。呆然としていた少女はコクリと頷いて俺との距離を詰めると、不思議そうな表情で自分の掌を開閉していた。
次第にその表情は、何とも言えないものになって。
「お兄さん」
ただそれだけの言葉で、少女の思いが心に染み渡る。
でもお礼を言われても困るのだ。こんな時に何と伝えてあげればいいか、言葉が上手く見つからない。きっとコミュ障のせいだ、俺はそう思うことにした。
卑怯だとは思うがこの場は誤魔化させてもらう。
「トオル。ナレーションさん会心の命名だ。気に入らなかった?」
「い、いえ、そういう訳ではなくて!」
これで語られるはずだった感謝の言葉はお蔵入りである。言い足りなさそうな少女を引き寄せてポンと頭に手を乗せてやると、妥協してくれたのか少女は小さく頬を緩めて俺の袖口を掴んだ。
その可愛らしい反応に満足しつつ、俺はアリアへ視線を送る。それだけで仕事人は俺と少女の前へ踏み出る。
トオルを引き寄せたのは、ここがアリアの防衛範囲内だから。
これで安全確保はオーケイ。残るは――。
「さて」
「ひ」
落とし前だけだ。
「宣言通りぶっ飛ばしてやる。ということでデイジー様!」
散々格好つけたが戦闘は最初から俺の領分ではないのだ。ここは勇者の仲間に任せるのが筋というもの。
だから断じて土壇場で怖気づいた訳ではござらん。
――おいアリア、三割増しの無表情で俺を見るな。
そんな中、俺がバトンを託そうとする戦闘凶は。
「ふふ、ふふふふふ」
「何ですか!」
「ふはははははははは!」
桑色髪の少女トオルが思わず身震いするほど、気色の悪い笑み。
託す相手、間違ったかもしれない。
「良いだろう良いだろう! 喜んで応えてやるさ! お前ら二人の怒りを、我が愛刀アレクサンダーに乗せて!」
バトルジャンキーのスイッチが入った瞬間だった。
ビエールとの間合いは十メートル。デイジーは両手で大剣を支えて、まるで弓を引くように背中に回した。
自信に漲る表情で名乗りを上げる。
「勇者ヤマトが切り込み隊長デイジー!」
「クソがああああ!」
「――尋常に、参る!」
勝負は驚くほど一瞬で片がついた。
長い黒髪を旗のように靡かせて最高速度。ヤマト程でないにしても驚くべき速さでデイジーは敵の懐に潜り込んだ。それに驚嘆の声を上げたビエールは、持っていたエメラルドグリーンの大剣を苦し紛れに盾代わりにする。
しかしデイジーの思い切りの良い踏み込みに対して柔すぎた。力強い一撃は柔い防壁を簡単に押し退け、見事に敵を切り伏せる。
「お、おおお」
舌を巻くほど鮮やか。思わず声が漏れる。
「私の真骨頂は剣術の腕ではなくシンプルな腕力なんだ。頑丈な壁で防ごうとしたようだが悪手だったな。――『一連花』」
大剣を背負い直し、デイジーは技名と一緒にこの戦線を終わらせる。そしてくるり振り向くと、にっかり笑顔でピースサインを掲げるのだ。
俺の中で、彼女がお茶目な頼れる人に昇華した瞬間だった。
「ふふふ、これでお前の怒りは足りたか?」
「ああ。――っていうか! 一撃ノックアウトできるくらい強いなら面倒なことになる前に終わらせといてくれよ!」
「お前の『暴れ出す宣言』がどうなるかつい気になってな。すまん!」
「回り回って俺のせいだった!!」
つまり俺が何かやらかすかもしれないと内心ワクワクしていた訳だ。とんだ迷惑である。まあデイジーへの制裁はメイリィにでも任せよう。こちらがこんなことになってしまった以上、ステラサイドがどうなっているか気がかりだ。
今後の方針を話し合おうと思って歩き出す。
「――っとその前に!」
パッと振り向くと視線が合う。
蝉も鳴き止む暑さ。風車が熱気を運んで麦色の町をホカホカと茹でる。肩の上で靡く桑色の髪は少し汚れていて、それが少女の頑張った勲章だった。年相応というには落ち着いた雰囲気。その容姿はマスコットのように愛らしく、可憐な顔立ちを邪魔するような金属の輪は今度こそなかった。
こちらを仰ぐ瞳は、一瞬、碧色にキラリと煌めて。
どちらともなく手を伸ばす。
言いたいことは多分一緒だ。
「ちょっと手伝ってくれよ、トオル」
「手伝わせてください、お兄さん!」
少女の笑顔を前に俺はそっと望む。
――この少女が色とりどりの夢を「通れ」ますように。
これは一時ばかりの心休まる時間だった。
【霧の怪物】
沙智「『面倒だ』『もういいや』って甘えて投げ出そうとする時に、怪物は現れて一番に言ってくれるんだよ。それで良いのかって」
ステラ「頑張りたいって気持ちの裏返しなんだね」
沙智「逃げた過去を突き付けて、罪悪感を煽って、それでまだ頑張れるだろって奮い立たせてくれる。諦めたくないって思うもう一人の自分」
ステラ「そんな怪物、私の中にもいるのかな」
※加筆修正しました(2021年5月21日)
表記の変更
サブタイトルの変更




