4.猫又のクロ
■前回のあらすじ
・全裸の女の正体は愛猫のクロが猫又となった姿だった。
・クロは人の言葉を話せないらしい。
猫又、目はネコのごとく、体は大きい犬のようだ。
一晩で数人の人間を食い殺した。
「にゃー」
クロ、目はネコのごとく、体は小柄な人間のようだ。
一食で三合の米と大量の肉を食い尽くした。
「にゃ、にゃー」
現在の猫又は可愛らしい女の子に変わったらしい。
いや、普通の女の子は猫用の遊具で遊びはしないのだろう。
姿は変わっても中身は猫のままらしい。
言葉も話せない……のか?
「にゃんうー? にゃぁうーにゃにゃぁー」
……話せそうになさそうだ。
これから色々教えていかないといけないのだろう。
箸の使いかたとか手の使い方とかトイレの仕方とか色々と……。
「うにゃぁ~……」
遊具に飽きたのか、クロがこちらにやってきた。
今は夕食を食べ、お風呂に入り、二階の作業部屋でゲームのデバックの続きをしている最中である。
「にゃっ」
「おっ、どぉ!!」
クロがこちらにやってきたと思った瞬間、俺の膝に激痛が走る。
何の迷いもなく、クロが俺の膝に飛び乗って来たのだ。
「にゃー?」
クロの顏が目の前にあり、俺の苦悶に歪んでいるだろう顏を覗いている。
首を傾げ、俺の苦悶の表情を不思議そうに眺めてやがる。
クロの膝が俺の太ももを圧迫し、ズキズキと痛む。
「にゃ、にゃ」
そんな涙目になっている俺の事など余所に、クロはどのように膝に座ろうかと体勢を変え続ける。
そのたびに俺の太ももに激痛が走り、涙が出る。
丸まったり伏せたりと面積の少ない太ももの上で器用に体勢を変え続けたが、最終的にはパソコンの方を向いて普通に俺の膝に座った。
人間の形をしていては、今の体勢か逆にこちらを向くかのどちらかしかないのだろう。
そんなことよりも痛い。
太ももが裂けそうだ。
「ぐぅ……ク、クロ、ちょっと降りて」
「にゃー?」
クロを降ろし、痛む膝を押え鼻水をすすりながら床に座った。
俺の膝に乗ってきたのはクロなりに理由があることは知っている。
猫の時のクロの定位置は常に俺の膝の上だったため、また丸まりたいのだろう。
俺が床に座ればなんとか膝に丸まれる……だろうか……あぐらをして座った俺の膝の上に、クロは猫のように丸くなろうとしている。
「にゃー?」
だが丸くはなるが、体が大きくなってしまったので俺の膝からはみ出てしまっている。
上半身を膝に乗せれば下半身がはみ出し、下半身を乗せれば上半身がはみ出る。
どう頑張っても無理そうだ。
ついでに俺の足も激痛でそろそろ無理そうだ。
「にゃぁ……」
丸まる以外にも色々な体勢になってみるが、どれもしっくりこない様子だ。
「にゃ!」
嬉しそうな一鳴き。何か思いついたようだ。
「にゃんうー」
「まて! 服は脱ぐな!」
「にゃー?」
上手くいかないのは服を着ているせいだと解釈したようだ。
服なんか着たことないから、違和感があるのだろう。
ごわごわするとか、くすぐったいとかだろうか。
だがそれが今まで通りに丸まれない原因ではないのだぞ、クロよ。
「いいかい、クロ!」
「にゃ」
「今、クロには毛皮が無い! だから、お外からの温度に守られてないんだ!」
「にゃ」
「だから、服は毛皮の代わりで脱いじゃだめなんだ!」
「にゃ」
「分かったかな?」
「にゃうー!」
「だから、脱いじゃダメだって!」
嬉しそうに鳴きながら脱ぎだすってのはいかがなものかと思う。
「にゃ?」
「はぁ~……」
昼間のこともあり、疲れからか無意識に寝転んでいた。
ご飯は大量に食べるし、言葉は少ししか伝わらないし、どうしたらいいのだろうか……。
「にゃ、にゃ?」
というか、なぜクロは猫又になったのだろうか。
猫又という妖怪は長生きをした猫がなるとされている。
確かに十八年というのは猫の平均寿命よりかは少しばかり長いのだろう。
だが、それよりも長生きしている猫は多く存在している。
それらが全て猫又になっていたらそこら中に猫又がいそうだ。
いや、それ以前に本当にこの者はクロでいいのだろうか。
クロに雰囲気は似ていたため、昼間は感極まってクロだと断定してしまった。
冷静になって考えるとそれ以外の存在の方が可能性としては高くないだろうか?
本当は人間の突然変異だったりしないだろうか。
猿に育てられた人間がいたということを聞いたことがある。
この者も猫に育てられた人間という可能性はないだろうか。
外見は……人体実験とか……可能性としては十分ありえる。
むしろ、妖怪というオカルトよりもそちらの方がまだ現実味を帯びている。
妖怪ではない可能性はいくらでもある。
突然変異、耳と尾を人工的につけられた人間、これ自体が俺の見ている夢。
冷静に考えてみればいくらでも可能性は出てくる。
「にゃぁうー♪」
……まぁ、俺に危害が出るような気配はないので、しばらくの間置いてといても大丈夫だろう。
可愛いし。
寝転びながらそんなことを考えているとクロが俺の上に乗ってきた。
「クロ、重いよ」
身長百五十センチほどの小柄のわりに重い。
それに体温が高く熱い。
重く、熱いが嬉しそうなクロを見ると退けようという気も無くなってしまう。
俺の上から退こうとしないクロの頭を仕方なく撫でてやると、喉を鳴らす。
どうやら、俺の上に乗っているこの格好が気に入ってしまったようだ。
撫でる手を少し横にずらせば猫の耳に当たる。
日中も確認はしたが、この猫の耳はやはり本物なのだな。
温かいし、ピコピコと動く。
耳の中も猫のものと何ら変わりない。
普通の猫の耳が頭についてる。
「ふにゃっ」
「ごめんごめん」
耳を触られるのは猫の時と同じように嫌いらしい。
それにしても人肌なんていつぶりだろうか。
彼女などいなかった俺にとっては……幼い頃に感じたお袋以来だろうか。
そんな事を思いながらクロの頭を撫で続ける。
「にゃうにゃうぅ……」
熱い温もりを感じている俺を余所にクロは、何度も顏をこすり付けたり、俺の匂いを嗅いだり、しまいには俺の顏を舐めたりとありったけの愛情表現を見せた。
しかしな、クロよ。
「にゃうにゃう♪」
「んんー……んーん……」
鼻の中と口の中は舐めないで頂きたい。
■登場人物紹介
【猫又のクロ】
・大食いで甘えん坊で素直。
・身長が百五十五センチなのに対し、筋量の影響で体重が六十キロ以上と重め。
・体温は猫の時と同じように高めである。
・大食漢なのは、妖怪になったが故の理由がある。