バイバイ
無骨なデザインの魔導車だが中は意外と快適だった
魔女との戦いをなんとか切り抜けた私達は
そのまま私の村まで戻ることにした
行きとは違い、帰りはなんと快適な事か
走り出して早々に疲れて寝てしまったが、
おもむろに叫び出したラヴィさんによって全員目を覚ましてしまった
「あのーアタシ、これ、寝れないじゃん!」
「当たり前であろう
おぬしが寝たら魔力供給が断たれて魔導車が止まってしまうのじゃから」
「うん、さっきから、魔力、絞り取られて、眠い」
「ラヴィ、ガンバ」
「行きで楽したのだから帰りは死にものぐるいでお願い」
「だ、そうじゃぞ
良い仲間を持ったなバカエルフ」
すると魔導車が停まり、
ラヴィさんはそのまま突っ伏して眠ってしまった
「ふむ、限界だったようじゃな
仕方ない、一休みといこうかの」
眠ったラヴィさんをそのままにし、
私とエステルさん、そしてカグヤさんは魔導車を降り、川沿いの草原に腰掛けた
「それにしてもぉ
さっきの戦いは調子が悪かったですぅ」
まるでいつもはもっとやれるといった風なセリフなんだけど、
どう考えてもこの人戦士って感じじゃない
「いつもはこう、剣を振ったらビームがドバァっとぉ」
え、剣からビーム?
「あの村で見せてもらった剣を使ったらってこと?」
「ん〜そうなんですけどぉ
ほら私ぃ免許皆伝なのでぇ、剣は関係ないと思うんですけどねぇ」
いや、それって……
「剣からビーム?…ふむ、確か昔そんなアーティファクトを作った気がするのぅ」
……多分それだ!
「しかしあれは使用者の条件を厳しく設定したはずじゃからな…まぁあり得んな」
「ちなみにその条件って何?」
「ん?あぁ…確か、おおらかな性格で修道服を着て、なおかつ回復魔法の通信教育を初級で挫折するようなタイプじゃったな」
なにそのピンポイントな条件
まさにエステルさんなんだけど
「まぁそんな奴おらんであろうな」
「えぇ、いませんねぇそんな人、うふふ」
これでハッキリした
エステルさんが凄いんじゃなくて、
村に置いてきた剣のアーティファクトが凄いってことが
「あの剣持っていってたらこんな苦労しなかったかもなー」
私は草原に寝そべり無駄な苦労だったとため息をついた……
再び出発し始めたのはそれから数時間経った頃だった
すでに空は真っ暗
私の持ってきたベッドなどはバリケードに使われ、魔女に破壊されたのでまともに野宿も出来ない
なのでラヴィさんのなけなしの魔力を使って村に帰る選択をとったのだ
「ね、眠い」
「ラヴィ、あとちょっとだよぉ」
魔導車の速度はやはり速い
これならあと数分で村まで到着できそうだ
「村に着いたらおチビの家に泊めてもらえるのかえ?」
「ウチはもう家具が無いよ」
「エステルのテントかウチのギルドの二択かな」
テントに四人は無理でしょ
ギルド一択
そんなやり取りをしていると、
すぐに村の入り口まで到着した
疲れ果てたラヴィさんをエステルさんが背負い
魔導車を降りると、
カグヤさんに促され私の腕輪に魔導車を収納した
「……万能」
「で、あろう」
得意げなカグヤさん
この人、本当に凄い人だと改めて感じる
「あらあらぁ」
ふとエステルさんがテンションの低い声を上げる
「どしたの」
エステルさんの視線の先を追うと…
「エステルさんのテントが無くなってる」
それどころか荷物もあの剣のアーティファクトも無い
「おやマリエラじゃないか、
こんな夜遅くにどうしたんか?」
声をかけてきたのは村長だった
「村長、入り口にあったテントと荷物は?」
「んー、
おぉそういや廃品回収の業者が来て持っていったぞい」
この村、そんな業者が来るのか
「参りましたねぇ」
「その割に落ち着いてるね」
「まぁ必要なものは大体身につけていたので問題無いのですがぁ、
寝床が無くなったのはぁちょっと痛いですかねぇ〜」
とだけ言って、エステルさんはギルドの方へ歩き出した
「マイペースなヤツじゃのぅ」
「ふぅむなんや悪いことしたかね」
「ん、別に村長は悪くない
今日はギルドに泊まるから大丈夫だよ」
「そうかい、もう夜も遅いけ気ぃつけてな」
村長に見送られ、私はギルド“スナックあおい”にたどり着いた
「……ギルドなのか?スナックなのか?」
カグヤさんの疑問は最もだがそれに回答できる人は今は夢の中だ
早朝、
私達は少なくなった荷物をまとめて再び魔導車に乗り込んだ
目指すはこの村から少し離れた王都アルカディア
ラヴィさん以外住処を失った私達は、とりあえず王都にあるギルド本部に魔女ロザリアクイーンの件を報告するため出発した
「ま、依頼は達成とは言えないけど、
マリエラの当初の目的は大きな街へ行って宿屋を始めることだもんね
魔導車があればとりあえず大きな街に行くってのは果たせそうね」
そう、大きな街へ行く事はなんとかなりそうだ
村長から少しの餞別と食料をもらい、しばらくなんとかなる
あとは王都で宿屋を始めるためにまたギルドの依頼でもしようかと考えていた
けど……
すると道の反対側から数人の馬に乗った騎士たちが向かってくるのが見えた
「あれ、王都の騎士だわ」
ラヴィさんは魔導車を停めて降りると騎士たちの元へ
「任務ご苦労様です、ギルドのラヴィリスです
……これは何事ですか?」
騎士の一人が馬を降り、ラヴィさんに敬礼をする
「これはこれは、近くの村のギルドの方ですね
実は昨日、王都の裏にある森の方から大きな爆発音がありまして
騎士団長の命令で確認に向かうところでして」
(王都の裏?森の爆発音?
これアタシたちがやった奴かな?)
「それなら今、本部に報告に向かうところでした
実は魔女の依頼の件で色々ありまして……」
「あの魔女の依頼ですか!?
まさか貴女方が魔女の根城を破壊したんですか!?
これはすごい!
これで王都の民は騒音と悪臭から解放されます!」
(え?そういえば依頼書に騒音とか悪臭とか書いてたような…
でも魔女の家はうるさくなかったし、いい匂いしてたよね?)
「あぁ〜えーと、ともかく魔女はロザリアクリーンだったので、
多分まだ生きてるかと、十分注意してください」
「なんと!あのロザリアクイーンを撃退するとは!
了解です、貴女はそのままギルド本部に報告を
我々は現場の様子を見てまいります!
では!」
(うーむこれはもしかすると…)
騎士たちを見送るとラヴィさんは魔導車に乗り込み、
カグヤさんを見つめる
「時にカグヤさんや、ちょっといいかね」
「なんじゃ妙な喋り方しおって」
「アタシ今知ったんだけど、あの森の裏が王都って知ってた?」
「ふむ、無論じゃ
大きな山に隔てられておるから分かりづらい上に、
村から道なりに王都へ行くと随分遠回りになるから知らん者も多かろうな」
なるほど、とラヴィさんは少し考えて再び…
「カグヤさんや、お宅の工房ちょっとうるさかったよね?」
「うむ、工房じゃから多少はな、
しかし魔女に聞こえんように防音面はバッチリじゃったぞ
まぁ材料不足で魔女のいる森の入り口に面した側だけで、
逆の王都側はノーガードじゃったが」
「ほぅほぅ、ではカグヤさんや、匂いとかはしたりしなかったかね」
「ふむふむ、匂い?うむ、
実は当初は物凄い悪臭が立ち込めておったのじゃが、大きな換気扇を開発してのぅ
それ以降、どんな薬品を使っても工房の空気は綺麗なままじゃ
無論、魔女に気付かれてはいかんと、排気口は王都側に向けておった」
(はいアウトー)
「あぁ…これ魔女倒すよりカグヤ倒した方が楽だったなぁ〜」
頭を抱えるラヴィさん
「なんじゃ突然物騒な」
「ううん、なんでもない
本部に着いたら全力で誤魔化すから安心して」
「ぬ?よく分からんが頑張るが良い」
それだけ言うとラヴィさんは再び魔導車を発進させた
王都まではもう少し
するとラヴィさんがおもむろに口を開いた
「…王都に着いたらこの面子は解散って事かな?
寂しくなるわね」
「ん、短い間だったけど楽しかった」
「そうですねぇ」
「ふむ、そうなのか
では妾も王都で次の目的地を決めるとするかのぅ」
「まだどっか行くの?」
「うむ、まぁ贖罪の旅といった所かのぅ」
カグヤさんはそれだけ言って黙り込んでしまった
「エステルはどうするの?」
「そうですねぇ、まずは新しい武器を探さないとですねぇ
場合によってはダンジョンに入ってトレジャーハントですぅ」
「アンタ見た目に反してアクティブよね」
「ラヴィさんは?」
「ん〜アタシはとりあえず魔女の件の報告だね
あとは色々考えてるけど内緒かな〜」
なんかろくな事考えてなさそう…
魔導車に揺られる事数時間後、
ようやく王都が見えてきた
あそこに着けばみんなとお別れ
たった数日の間過ごしただけだったけど
思い返せば本当に充実した楽しい日常だった
寂しくなる
とても……
魔導車を止め降りる
「あ、カグヤさんの荷物どうしよう」
私の腕輪にはカグヤさんの工房で収納した家具やアーティファクト、そしてその材料が入っている
「問題ない、もう一つ同じ腕輪を持っておるのでな
どちらからも取り出せるようになっておる
おぬしも必要なら妾のアーティファクトはいつでも使って構わんぞ」
「ん、ありがと」
「んじゃ、ここで解散かな?
色々大変だったけど楽しかったよ、
連れてってくれてありがとねマリエラ」
「ん、私も楽しかった」
「困った事があったらぁ
いつでも駆けつけますからねぇマリエラちゃん」
「ん、頼りにしてる」
「……では行くとするかのぅ皆の者、達者でな」
名残惜しそうに手を振り、
そして四人それぞれ別々に歩き出す
それぞれの目的、それぞれの道に向かって…
私はふと立ち止まり、振り返る
けれどもうすでに人込みや建物の影に入ったのか、
三人の姿は見当たらなかった……
「……バイバイ、みんな」