表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/49

魔女再び

「……は?

今、なんて言ったの?」


ラヴィさんも私も自分の耳を疑った

対してエステルさんは“ふむふむ”と中を物色し始めている


「だからアーティファクト工房と言ったんじゃ

妾はここでアーティファクトを作っておるのじゃよ」


「いやいや、アーティファクトってそんなアッサリ作れるもんじゃないでしょ

あーあれか、アーティファクトを目指してそれっぽい物を作ってる的な」


「いいや、正真正銘、本物のアーティファクトに決まっておろう

おぬしたちの持ってるアーティファクトも妾の作品ぞ」


驚きで危うく手に持ってたどこでも蛇口と焚火装置を落としそうになった

そもそもこのアーティファクトは祖父が若い頃にダンジョンで手に入れたものだ

しかしどう見てもこの巫女さんは二十代前半の若さだ


「…ふむ、何千年経っても人の反応は変わらんな…

こう見えて齢は五千を越えておる」


「五千て、五千歳!?」


「うむ、その通り

そうそう、名乗りを忘れておったわ

妾の名はカグヤ、女神に属する者ぞ」


魔女の次は女神かぁ

今日だけで凄いレアなのに遭遇してるなぁ


「マリエラ、アンタやっぱレア物引き当てる天才かもね

今度アタシのソシャゲのガチャ引いてくんない?」


え?何言ってんの?

この人もだいぶ混乱してるな


「信じるも信じないもお前たちの自由よ

じゃが、今は信じて貰わぬと困るのでな

なにせロザリアクイーンがすぐそこまで来ておるようじゃしな」


そういえば先程から何かを叩きつけるような大きな音が響き続けている


「大丈夫ですよぉ〜

この人信用しても問題無いですぅ」


何を根拠に?

エステルさんはこの巫女さん、もといカグヤさんを信用したらしい


「数は少ないですがぁ、ここにあるのは本当にアーティファクトのようですぅ」


「なんですと!?」


普通アーティファクトなんてそうそうお目にかかれる代物じゃない

祖父が長く冒険者をやっていても私の持つ2つしか手に入らなかったのだから

それがここにはいくつもある


「材料が足りなくて完成してないものが多いのじゃがな

それでもいくつかは問題無く使える

…と、いうわけでじゃ

まずは妾の引越しを手伝っておくれ

さすればおぬしたちも一緒にここから連れ出してやるぞ」


「ちょっ、引越しってこんなデカイ機械とかどうやって運ぶのよ」


ラヴィさんの言う通りだ

引越しなんて簡単に出来る規模じゃない


「あぁ、そういうのは捨て置け

単なる発電機とか自動でパーツを組むためのものじゃからな

妾たちが脱出した後、跡形もなく自爆させるゆえ心配無用じゃ

それより妾の家具やアーティファクト、そしてその材料などを運んでくれればそれで良い」


「それも無理でしょ、マリエラの荷車も壊れたし

運ぶための足がないわ」


するとカグヤさんは私の腕に黄金の腕輪をつけ始めた


「これをくれてやる

これはそこのエルフが持ってるキャリーケースの改良版じゃ

腕輪に赤い宝石があるであろう?

それに触れると前方に光が出るゆえ、収納したい物をその光に当てれば中に入る

取り出す時は出したい物を頭の中でイメージして今度は青い宝石に触れれば出てくるという仕組みじゃ」


早速実践

赤い宝石に触れ、出た光を近くのイスに当てる

すると吸い込まれるようにイスは腕輪に収まった


「おー」


今度は逆にさっきのイスを頭の中でイメージして青い宝石に触れる

すると先ほどのイスがフワッと現れた


「おおー」


「えーそんなのあったらアタシの存在価値激減じゃん!」


ラヴィさんというかキャリーケースの存在価値ね

…いやラヴィさんもか


「ではおぬしにはこれをやろう

というか今この中ではおぬしにしか使えん代物じゃ」


そう言って工房の奥の大きなトビラを開けるスイッチを押した

ゴゴゴゴゴッと大層な音を立て、開かれたトビラの中から出てきたのは…


「おっきな荷車!」


「人力荷車と一緒にするでないわ

これは魔力で動く、名付けて“魔導車”じゃ」


私たち4人が軽く乗れるほど大きく、

なおかつ雨露が入り込む隙のない密閉性

そして大きな車輪が6つ付いていた


「なにこれすごーい」


「2分で運転法を教えるゆえ心して覚えよ」


その人、通信教育挫折してるレベルだけど大丈夫?


「シスター、おぬしはおチビを手伝ってやっておくれ」


「了解で〜すぅ」


こうして高度なアーティファクトを使った引越し作業が始まった

魔女がここまで辿り着く前に、

私たちは出来るだけ早く作業を済まさなければならなかった




ドゴーン ドゴーン


音がもうすぐそばまで響いていた

あの魔女、一方通行の洞窟でなに暴れてんだろう


「カグヤさん、こっち終わった」


「了解じゃ、しかしこっちがちょっとな…

このバカエルフめ覚えが悪いわ」


「えーそんな事ないですー

通信教育も中級まで読むくらいレベル高いんですー」


いやレベル低い

とりあえずエステルさんと一緒に魔導車に乗り込み、ラヴィさんが動かすのを待つ


「動力は問題無く起動しておる

あとは運転なんじゃが、コヤツ足元のアクセルとブレーキを何度も踏み間違えおる」


さっきからガッタンガッタンしてるのはその“あくせるとぶれーき”とやらのせいらしい


「仕方ないもっと簡単にするとしようか…

しばし待っておるがよい

今、操作方法をコントローラー式に変えるとしよう」


何を言ってるのかわからないが、

どうやらリアルな運転法からげーむのこんとろーらー式に変えるらしい

……げーむのこんとろーらー?なんだそれは


ドガン ドガン


工房のドアが激しく振動している

ヤバい、とうとう魔女がここまでやって来てしまったようだ


「カグヤさん、魔女来てるよ」


「うむ、わかっておる

もうちょいじゃ………この配線をこうして、

確かゲーム用のコントローラーがどこかに…」


「あれじゃないですかぁ?」


エステルさんが指差すのは轟音が響くドアの横、

大きな窓ガラス…え?もにたー?

……という物の前に手のひらに収まる程度の大きさの機械が置いてあった


「………お約束だなぁ」


取りに行ったら魔女も出てくるパターンだなぁ


「今からじゃ操作方法を元には戻せん

なんとかコントローラーを持ってくるがよい」


「じゃぁ私が魔女を引きつけるのでぇ

マリエラちゃんはコントローラーを持ってきてくださいねぇ」


「さすがにそれはエステルさんが危険なんじゃ…」


「シスター、魔導車のそばに木刀があるであろう?

使い捨てではあるが役には立つはずじゃ」


「了解ですぅ」


意を決して魔導車から降り、私とエステルさんが

目標に向かって走り出す


すると…


ドガガシャーン


ドアを破って魔女ロザリアクイーンが現れた


「タイミング早いって」


「普通もうちょい引きつけてからドカァンですよねぇ」


空気の読めない魔女め


「まぁまぁ!こんな面白そうな所があったなんて

今まで気づかなかったわ!

いいわぁ…じゃああなたたちを殺してここに住むとしましょうか」


魔女の目が輝いている

分かる、ここ面白そうだもんね


しかし…

「遠いなー」


魔女の登場が早すぎてコントローラーまでの距離が全然遠い


「作戦はぁさっきの通りでいきますねぇ

出来るだけぇコントローラーから遠ざけるのでぇ、

マリエラちゃんガンバ!」


すると木刀を構えてエステルさんが魔女と対峙する

やや腰が引けてる気がするけど大丈夫かな


「配線はこれでよい

あとはコントローラーを接続すれば使えるはずじゃ」


一方、カグヤさんの方は魔導車の改造をほぼ終えていた


「アタシ、そのコントローラーとかいうの使ったこと無いけど?」


「手で持って指先でボタン押せばいいだけじゃ

おぬしは足の使い方が悪いが、ワイパーとウインカーの使い方が無駄に素早いゆえ、手元は器用だと判断した

あれなら数秒で覚えられるはずじゃ」


言われてその気になったのか、

ラヴィさんは手元のスイッチ的なものを適当にパシパシ動かし始める

魔導車のあらゆる所が光ったり動いたりしている


「えぇい鬱陶しいわ!

少しは落ち着かぬか」


「…怒られた」



そんなバカは置いておいて


一方のエステルさんと魔女のにらみ合いが続く


「そんな棒きれで私を倒せるとでも思っていて?」


「免許皆伝の腕前なので多分大丈夫ですぅ」


通信教育だけどね

なんか心配だけど、魔女の注意は今、エステルさんに向き始めた


「いきま〜す」


「一瞬で終わらせて差し上げましょう!」


振り上げられた魔女の毒爪がエステルさんに襲いかかる

それを木刀で受け流すと、ゆらりと魔女の背後に回り込んだ


「雑な動きの割に素早いのね」


「おぉふ

なんでしょか今の動き、乗り物酔いしたような感じですぅ」


「木刀の持つ身体能力強化魔法じゃ

すぐには慣れんとは思うが木刀に身を委ねればよい

あとは適当に魔女の攻撃を捌いてればそれで良い」


あちこちに動き回るエステルさんに翻弄され、

魔女の意識は完全にエステルさんへと向けられている

……今だ


出来るだけ魔女から距離を置き、コントローラーへと向かって走り出す


「愚かね、行動が見え見えよお嬢ちゃん!」


魔女の左手が植物のツルの様に変化して私の足に絡まった

走ってる最中にそれやられると流石に

「ふぎゃ」

コケる


「あなたの相手は私ですよぉ」


エステルさんが木刀を振りかぶるが、やすやすと魔女の右手で受け止められ、同じくツルのように変化して絡みつく

そしてそのまま高く持ち上げられてしまった


「私を誰だと思っているのかしら?

勇者すら敵わない私にただの人間風情が勝てるとでも?」


持ち上げられたエステルさんが空中でグルグルと振り回され、

そのままの勢いで工房の硬い壁へと思い切り叩きつけられた


「エステルさん!!」

「エステル!!」


轟音と共にホコリが立ち上り、崩れた瓦礫に埋もれてエステルさんの安否がわからない


「まずは1人」


魔女の口元がニヤリと歪む


「なかなかマズイかのぅ」


「カグヤ、なんとかならないの?」


「コントローラーさえ手に入れればどうとでもするわ」


そうは言っても私は魔女のツルに絡まれ動けない

コントローラーまであとちょっとだというのに…


「さぁ次はお嬢ちゃん、あなたの番よ」


そしてついに魔女の冷たい視線が私に向けられ………


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ