森の工房
魔女に追い詰められ、
エステルさんの取った行動は完全な力技だった
テーブルを蹴り上げ魔女の注意を逸らしたあと、
ドアを開けて私を小屋の前に置いてある荷車の上に放り投げ、
ラヴィさんを背負って小屋を飛び出した
更にラヴィさんも荷車の上に乗せ、
火事場の馬鹿力で荷車を引き猛ダッシュ
この人普段ののんびりさが嘘のような力持ちだ
「これからどうしましょうぅ〜」
「いくらエステルがバカ力でもこのままじゃ逃げ切れないし、
かといって森の外じゃ隠れる所もないよね」
「ん、ダメ元で森の奥に行こ
洞窟かどこかに身を潜めてやり過ごそう」
後ろからは魔女が浮遊しながら追いかけてくる
ずるいわー
走り回る事数十分
なんとか魔女から距離を離せたがそろそろエステルさんの体力も限界だった
「あぁ〜
もう無理ですぅ〜足の感覚がなくなってきましたぁ〜」
「お、洞窟あるよ!
ほら、あそこ!」
痺れ薬の効果が大分解け、ラヴィさんがようやく動ける様になると、
周囲を見渡して洞窟を見つけ出した
「とりあえずそこに入りますぅ〜
……あ」
洞窟の入り口まで来てエステルさんは足がもつれて転倒
勢いの収まらない荷車もろとも洞窟の奥まで転がり込む
「ふぎゃ」
「ぬぬ」
「痛いですぅ」
体のダメージも我慢して、ラヴィさんとエステルさんは荷車に積まれたベッドやテーブルなどを洞窟の入り口を塞ぐ様に積み上げた
「う〜まだ動けない」
私の体の小ささがアダとなったのか、いまだに痺れが解けない
洞窟の入り口を塞ぎ終わるとラヴィさんが私を背負い、エステルさんは私とラヴィさんのアーティファクトだけを持って洞窟の更に奥へと歩き出す
入り口から離れると洞窟はどんどん暗くなったので
途中、ラヴィさんが焚火装置を使い、壊れた荷車の木片に火をつけて灯とした
「広い洞窟ね、どこまで続いてるのかしら?」
「はぁ…はぁ…
ちょっと、休憩…しませんかぁ?」
さすがにエステルさんは
限界を超えたらしくその場にへたり込んだ
「そうね、少しなら時間も稼げるでしょ」
「マリエラちゃん、アーティファクト使わせてもらいますねぇ」
「ん、自由に使って」
エステルさんは近くの壁にどこでも蛇口をくっつけて水を出した
「…んん…んん…ぷはぁ
生き返りましたぁ」
「マリエラ、体はどう?」
体の状態を確認する
どうやら少しは回復して来たらしく、微かに腕が動いた
「もう少し、かな」
「そう、アンタも水を飲みなさい
喉乾いたでしょ?」
ラヴィさんが私を抱えて蛇口の側まで運び、自分の手を洗った後、その両手に水を溜めて私の口元へ静かに流し込んだ
「喋れるから大丈夫だと思うけど、ゆっくりね」
いつものダメダメなラヴィさんとは違い、頼れるお姉さん感がすごい
「にしても参ったわねー
まさかこんな辺鄙な所にロザリアクイーンがいたなんて
ギルド本部に知らせないと大変なことになるわね」
「そんなにヤバい相手なの?」
「そうですねぇ
数年前に勇者数名、そして多くの英雄や名のある冒険者たちが一夜にして全滅した事件がありましてぇ、
その相手がロザリアクイーンだったそうですよぉ」
なんでそんなのが村の近くにいるんだろ
それに村が襲われたりしたこともなかったし…
「考えても仕方ないわ
あれはアタシたちの手に負える相手じゃない
どうにか脱出してギルド本部に連絡しないと」
その時だった
「誰じゃ?
勝手に妾の工房に入ってきたのは」
洞窟の奥から声がする
一瞬魔女に追いつかれたかと焦ったが、どうやら違う様だ
出てきたのは黒髪の和装の女性
確か巫女さんというやつだ
「アンタこそ誰なの?
こんな洞窟が工房?ちょっと意味分かんないんだけど」
「不法侵入な上に態度がでかいのぅ
ここは妾が作った工房じゃ
洞窟の中に作ったのは、森の入り口にロザリアクイーンがいるゆえ見つかると厄介でな」
どうやら敵というわけではなさそうだ
あの魔女に見つかりたくないという点では私達と状態は同じわけだし
「そのロザリアクイーンに追われてましてぇ」
「それでここに入った、と
最悪じゃな、それでは間違いなくここが奴に見つかるではないか」
「ん、ご丁寧に入り口をベッドとかで塞いだから多分チョー目立つね」
「「oh…」」
「そこまで考えなかったんだね」
「そりゃまずいのぅ
と、なるといよいよ潮時か
……おや?そのアーティファクト」
巫女さんが私のどこでも蛇口に興味を示した
「懐かしいものを持っておるな
しかもそのランプも…
む、もしかしてその見覚えのあるキャリーケースもアーティファクトであろう?」
「一目見てこれをアーティファクトと見抜くなんて、ただ者じゃないわね」
「まぁの
……ふむ、これもなにかの縁か」
何かを納得したように巫女さんは私たちにアメ玉を差し出してきた
「それを食べたらついてくるが良い
なに、悪いようにはせぬ」
恐る恐るそのアメ玉を観察する
見た目はただのアメ玉のようだけど…
「まずは私が食べますねぇ」
そう言ってエステルさんがアメ玉を口に含む
ヤバい薬関係は効かないらしいから大丈夫だと思うけど…
「おお〜」
「エステル、どうしたの?」
「体力が少し戻ったみたいですぅ」
特に問題ないようなので、私とラヴィさんもアメ玉を口に含む
「これは…」
「すごい」
アメ玉を舐めた瞬間、痺れも取れ、体に力が戻ってくるのを感じる
「簡易回復薬じゃ
そっちのシスターはどうやら薬に耐性があるようじゃから効き目は薄いかもしれんが、少しは動けるであろう?」
「あ、はいぃ
助かりましたぁ」
みんなが回復したのを確認して巫女さんは洞窟の更に奥へと歩き出す
私達も立ち上がるとそのあとをついて行った
どれほど歩いただろうか
長い洞窟を抜けると1つの頑丈そうなドアが現れ、隙間から光が溢れ出していた
「ここがアンタの家、工房ってわけ?」
「うむ、そうじゃ
ようこそ小さな冒険者たち
ここが妾の……」
ガチャりとドアを開けると、そこには数多くの機械が引っ切り無しに動き続ける大きな部屋が…
「アーティファクト工房じゃ」