故郷に帰る 14
「………………………だ…」
「………ん…………………」
「………………………じゃ…」
……声が……聞こえる…
……誰かの…話し声……
「………………でね、
その変なエルフに会ってから数日後にあたしもめでたく時空の歪みに飲まれちゃってねー」
……この声は…サエコ……?
いや……ヒスイさん……か…
「ん、そのエルフってラヴィさ……」
「はい、そこのモフモフ怪獣!
余計な詮索しない!お持ち帰りするわよ!」
……マリエラの声も聞こえる……
そっか、アタシ帰ってきたんだ……
「あ、皆さぁんラヴィが起きたみたいですぅ」
目を開けて、ゆっくりと起き上がる
見渡すとそこはアンナマリー号のアタシたちの船室だった
「良かっただよ、転移した瞬間気を失ったけぇビックリしだだよ」
「そうか、アタシはメグルの能力で転移してきたんだね」
なんか記憶が曖昧だな
最後にサエコの顔を見た所までは覚えてるんだけど……
そういえばサエコ、最後に何が言ってた様な……
「まぁ原因のほとんどは酒の飲み過ぎじゃろ、そんな状態で時空転移の揺らぎには耐えられんかったという所かのぅ」
言われてみれば二日酔いみたいな頭痛がするわ
滅多に二日酔いにならないから、ちょっとしんどいな
「時空転移なんてスゲーな
その力があれば、異世界漂流者を元の世界に戻してやることも出来るんじゃないか?」
クロードのオッサンもいるのか
「それは無理ですねぇ、メグルさんはぁ自分の知ってる場所や人を思い浮かべないとダメなのでぇ
行ったこともない次元には行けないはずですぅ」
なるほど、今回はアタシがあっちの世界にいたから、
アタシを思い浮かべてメグルが来れたのか
「いや、それにさー
私の場合、猫の獣人のまま元の世界帰ったらかなりヤバいヤツ扱いされるからムリ」
「…………え、そこのネコミミ誰!?」
「やだなぁ、私ですよラヴィリスさん
桐谷霧香!」
え、これキリキリなの?
なんでネコミミ?なんで尻尾生えてんの!?
……いや、そんなことより
「ごめんキリキリ、アタシ結構お金使っちゃったんだけど……」
そう言ってキリキリにハンドバッグを返す
キリキリもそれを受け取ると中身を確認した
「あーいいのいいの、元の世界に帰るつもりないし、
役に立ったんなら良かったニャ」
「語尾まで変わってる!?」
「ん、そのクダリもうやったから」
……あ、なんか色々置いてけぼり食らった感じがする
そんなやり取りの中、ヒスイさんがアタシの所に近づいてきた
……そういえばサエコに言われたっけ、“お母さん”て言うようにって
練習もしたんだよね……
思い出したら少し恥ずかしくなってきた
「全くあんたはすぐ変なことに首突っ込むんだから……」
アタシの側まで来ると、ヒスイさんは両膝を着き、アタシの頬を両手で包んだ
「……お帰り、ラヴィリス」
そして今度は思いっきり抱きしめてくれた
……今だ、言わなきゃ……
「ただいま……お、おかぁ……」
「……あったーーーー!」
…………へ?
抱きしめられたと思ったのだけど、
よく見るとヒスイさんはアタシの後ろにあるコンビニの袋の中身を漁っていた
「いやぁそうそう、これこれ!
あっちの世界のビール!久しぶりだわぁ」
それサエコが一押しのビールだって言ってたヤツ!
「ちょ!ヒスイさん、それアタシの!
つうかなんでそれが入ってるって知ってんの!?」
「ん?そりゃあねぇ…秘密!
……うーむ、流石に冷えてないかぁ」
な、なんなのよ!
この人ホント訳わかんない!
せっかく思い切ってお母さんって言おうとしてたのにぃ!
「あとで一緒に飲もうね、“ラヴィ”」
満面の笑みをアタシに向けるその顔は、
何故かサエコにソックリだった……
あぁ…そうか、そう……なんだ…
「……ヒスイさん、もしかして……」
「ん?」
気恥ずかしさで視線を少し下に下ろす
……あ
「………でも、胸の大きさが違うな
サエコもっと小さかった」
「あんたケンカ売ってんの?」
すると今度はオッサンがみんなをかき分けて近づいてきた
「おい、今なんて言った?」
「え?胸が小さかったって話?」
「やだヘンターイ、ラヴィこの変質者知り合いなの?」
胸を隠す仕草をし、ヒスイさんはオッサンに軽蔑の眼差しを向ける
「いや、ちげーよ!名前、今サエコって…」
「ラヴィ、知り合いは選んだ方がいいよ
この人絶対ヤバい、あたしの勘がそう言ってる」
なんか知らないけどオッサン完全に変質者扱いされてる
「…オッサン、セクハラ反対」
「ん、おっちゃんアウト」
「クロードさん最低ですぅ」
「王様がセクハラで訴えられたらシャレにならんぞ」
「だ・か・ら!ちげーってば!」
うむ、この感じ
元の世界に帰ってきたって感じがする
あの世界も面白かったけど、やっぱりアタシにはここが、この仲間たちのいる所が居場所なんだね
「よーし!ラヴィが無事生還したわけだし、飲みに行くわよー!」
「「「「おーーーー」」」」
「ん、おっちゃんのオゴリで」
「えーちょっとまって、奢るからさっきの話をだなぁ……」
こうしてまた賑やかな飲み会が始まろうとしていた
サエコと二人で飲んだあの時間を思い出す
懐かしく楽しかったあの空間……
「……ぉか……ん」
「…ん?今なんか言った?」
「なんでもないよ、ヒスイさん」
……ちゃんと言うのはまた今度でいいよね?
バーへと向かうみんなの後を追いかける
……あ、そういえば
「アタシ、今、二日酔い中なんだけど!」
第3章 故郷に帰る 完