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故郷に帰る 12

目的の駅に到着し、ようやく満員電車から解放された

さすがにあんな人混み経験がなかったのでアタシは駅を出るなりその場にへたり込んでしまった


「しんどい…吐きそう」


「いや〜思ったほど人減らなかったね

日曜でも多い時は多いわ、アハハ」


なにを呑気な…

いや、こっちの人にとってはこのくらい普通なのかな?


「すぐそこにコンビニあるからちょっと寄ろうか」


コンビニ……うん、知ってる

なぜだろう、時間が経つにつれてアタシの眠っていた記憶が呼び起こされてるような…


「やっぱ夏はアイスだよね」


「グリグリ君のストロベリー抹茶味あるかな?」


……は?

今アタシなんて言った?

無意識に口走った自分の言葉に驚いた

グリグリ君?なにそれ?いや知ってる、知ってるけど…


「……ぷっ…はははは」


笑われた

なにが可笑しかったのか、サエコは少し間を置いて笑っていた

その目には薄っすらと涙が見えたような気がした


「…サエコ?」


「ごめんごめん、何でもないよ

あとストロベリー抹茶味は期間限定だから今はないかもね」


それだけ言ってコンビニへと歩き出す

とても楽しそうなのに、さっき一瞬寂しそうだったのは気のせいなのかな?


……………………………………………………


「おースゲー」


コンビニに入るなり、出た第一声がそれだった

王都の市場でも見たことない食べ物や飲み物の山だ

物珍しげにアレコレ手にとって観察する

手にした最初こそ驚くのだが、

見ているうちにやはり“これ知っている”という風に思ってしまう自分がいる


「アタシこの世界来たことあんのかな?」


「え、なにまだ設定続いてんの?」


いや、そうでなくて……

まぁいいや、みんなのお土産に色々買っておこう

……いつ帰れるか分かんないけど……


「カップラーメン、オニギリ、お菓子、ジュース」


手当たり次第に買い物カゴに入れていく

元の世界にはない珍しいモノが沢山で楽しい


「遠足か」


そう言ってサエコは更にカゴに商品を投入する

……お酒だ


「これあたしの一押しのビールだから」


そしてアタシからヒョイとカゴを取り上げてレジへと向かっていった


「ここはお姉さんが奢ってあげよう」


「ありがたや〜」


さっき服にお金使ったし、そもそもアタシのお金じゃないから正直助かるわ

とりあえず両手を合わせて拝んでおく


コンビニを出てしばらく歩く

日が落ちても蒸し暑さは変わらず

こんな暑さはアルカディアではまずあり得ない

コンビニの涼しさが早くも恋しくなった


「あづいぃ〜飲み屋さんまだ着かないの?」


「うん、もうすぐだよ

そこの角曲がった先だから」


およそお店がなさそうな雰囲気の住宅地

日も落ちると所々にある街灯だけが頼りの薄暗い場所だった

サエコの言う角を曲がってもなお薄暗さは変わらず、

とても飲み屋があるようには見えない


「ほら、あそこ」


彼女の指差す方、

店の明かりなどまるで見えない

……が、よく見ると立て看板がある


「……スナック……九郎兵衛(くろべえ)?」


変な名前だ

いやしっかしアタシなんでこっちの世界の文字が読めるんだろ?


「てかさ、どう見ても営業してないよね、これ」


「そりゃそうよ、あたしの店だもん

店主がいなきゃ店なんかやってるわけないじゃん」


アンタの店かい!

家の近くの飲み屋って言うからさすがにそのオチは読めなかった


「ま、最近は全くやってないんだけどね

………さ、入った入った」


鍵を開けて電気を付ける

アタシを店の中に入れると、店の入り口に“貸切”のプレートを下げサエコも中に入った


「おー」


それほど広くはない店内

けれど綺麗に整えられた調度品や座り心地の良さそうなイス

何よりカウンターに並ぶ美しいグラスの数々が目を惹く


「いいお店じゃない」


「まぁ、ね」


棚に並べられている数多くの種類があるお酒

どれも元の世界では見たこともない代物だ

思わず喉を鳴らしてしまった


「適当に座って

軽いつまみ出すからちょっと待ってて」


「お酒見てもいい?」


「えぇいいわよ、へぇ〜お酒好きなんだ?」


好きなんてもんじゃない

とりあえずここにあるお酒全部一通り味見したいくらいだわ


「こっちが…ウイスキー

で、こっちがワイン……分かるアタシにもこの世界のお酒が分かる!」


大きな酒瓶は……ニホンシュ、そう日本酒!

で、これは焼酎!


「あ、ビールサーバー!」


「残念、それは入ってないわよ

言ったでしょ、最近は営業してないって

だからビールは業者に注文してないのよ」


……残念、キンキンに冷えたビールが夏場は美味いって“母さん”言ってたんだけどなぁ……


「……え?なんだろ、今の」


母さんって誰のこと?

今無意識に誰かの事を思い浮かべたような…


「ん?どしたのラヴィ?」


「……へ?あ、ううん何でもないよ」


程なくしてサエコは枝豆やサラミなどお酒のおつまみテンコ盛りの大皿を運んできた

大雑把な盛り方だけど、その豪快さがまた堪らない

これはお酒が進みそうだ


「ホントならとりあえずビールっていきたいとこだけどねぇ

今回はハイボールで乾杯ってことで」


「いやいや、充分充分!」


「「カンパーイ!」」


夏の暑さでカラカラの喉を、

氷で冷えたハイボールが潤していく


「ウハァ〜最高!」


「いい飲みっぷりね、飲みたいお酒あったら言ってよね、ジャンジャン出すから」


なんと気前のいい話だろうか!

………あ、ダメだ


「アタシそんなお金無いよ?」


「あぁいいのいいの、ここにあるのはお客用じゃなく旦那が集めたコレクションみたいなもんだから」


「旦那?……サエコ結婚してたの!?」


随分と見た目若いし、コスプレイベント1人で行ってるから独身だと勝手に思ってたわ


「してるしてる、しかもあんたと同じでグリグリ君のストロベリー抹茶味が好きな娘もいたよ」


………“いた”?


「とても聞きにくいんだけど、ズバリ離婚デスカ」


「聞きにくいどころかストレートに来たな

……まぁ違うけどね」


軟骨唐揚げを頬張って、グビッとハイボールを流し込むサエコ

プハーッと一息つく


「……死んじゃったのよ

旦那は交通事故、娘が小学校に入学する前日にね

で、その娘もその2年後に病気で……

全く、あたしだけ残して逝くんじゃないわよって話でしょ?」


おもむろにワインの栓を開け、大きめのワイングラスにたっぷりと注ぐ


「そっか……」


「旦那の奴、いつか娘と酒を酌み交わすのが夢なんだぁとか言っといてさ……」


…ん?なんか最近聞いたような夢だな


「娘も娘よ、大きくなったらあたしとコミケ行って一緒にコスプレする〜って言ってたのよ?

それが親より先に逝くんじゃないってのよ!」


フライドポテトを鷲掴みして頬張る

そして空になったグラスに更にワインを注ぐ


「……ま、そんなわけでこの店も閉めることにしたのよ

だから店のお酒ぜーんぶ飲んじゃっていいからねー」


すでに顔が赤くなってるサエコ

こりゃあんまりお酒強くないな


「で?ラヴィはどうなの?いい人いないの?」


そんなヘヴィな話の流れで恋バナとかおかしくない!?


「あーえーと、アタシの知り合い曰く、

エルフは恋愛感情ないらしいので

……うむ、特にいないッス」


「凄い、まだその設定崩さないのか」


「だーかーらー

本物ですが、リアルエルフですわ」


そう言ってサエコの手を取り、自分の耳を触らせてみる


「………凄い、やっぱ外国の特殊メイクレベル高いわぁ」


ダメだ、信じてくんない

ならば……


「サエコ、そこのマッチ棒を持ってて」


言われるままにマッチ棒をつまんでアタシの前に掲げる

アタシはそのマッチに向けて手をかざす

……魔法は得意じゃないけど、火を付けるくらいなら…


「うーーーーはぁ!」


ボッ


見事にマッチに火が灯る


「……ラヴィさんや、マッチってのは火が付くように出来てるんだよ、どうやったかは知らないが、チョロっと擦れば火は付くんだよ」


……無茶苦茶な理由で完全否定されてしまった


「ちぃ!……んならこれならどうよ!」


カウンターに置いてあったオレンジの底の部分に親指を突き刺し、天辺部分をサエコに向ける


「どう!?浮いてます!」


「おーーーーすげーーーー!」


サエコ、バカだった

物凄いバカだったわ


「マジかぁ……ラヴィはホンマもんのエルフだったのかぁ」


なんだろう、信じてくれたみたいなのに物凄く複雑な気分になったわ



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