故郷に帰る 10
サエコは着替えてくるらしく、
アタシはしばらくここで待つ事に…
アタシも着替えたいけど荷物は全部アンナマリー号において来てるんだよねぇ
キャリーケースくらい持ってきとくんだった
「あ、そういえば……」
こっちに飛ばされる前にキリキリのハンドバッグ拾ってたんだった
さすがに小さいし、着替えは入ってないだろうけど、
なんか使えそうなものないかな?
ゴソゴソ…ゴソゴソ…
「…とりあえずお財布あった
………本の売買を見た限り、財布のお金はこっちの世界のお金と同じっぽいよね…」
万が一の時には使わせて頂きます
…元の世界に帰ったら、あっちのお金で返すからねキリキリ
「お待たせラヴィ」
結構早くサエコが戻って来た……って
「ど、どちら様!?」
やって来たのはサエコではなく、黒髪の人間の女性だ
「ヤダなぁあたしだよ、サエコ」
えー、全然さっきと違うんですけどぉ
しかも耳どうした!?エルフ特有の尖った耳!
「そんなに違うかなぁ?まぁ色々特殊メイク的な事してたしね」
「サエコ、エルフじゃなくて人間だったの!?」
サエコ?の肩をがっしりと掴み、前後に揺さぶる
「え、その設定まだ続けるの?」
キョトンとするサエコとアタシ
同族じゃなかったのかぁ…
「とりあえず行こ、ウチの近所に良い飲み屋があるんだよ」
「あ、うん、そだね」
「その前に服なんとかしよっか
さすがにドレスのまま歩き回るのは目立つし」
サエコに促されるまま、アタシは彼女の後をついて行く
立ちくらみしそうなほどの人の群れを押し抜けて、
大きな道へ出ると、
さすがに人の数は減り、息苦しさが和らいだ
「近くにショッピングセンターがあるから、そこで適当に服買って、そっから電車ね」
電車…なんだろう全く知らない言葉のはずなのに、
何故か聞き慣れた感じもする…
こっちの世界に飛ばされてから、なんかアタシの感覚がちょっと変わって来てる気がする…
サエコに手を引かれながら歩く
その間キョロキョロと辺りを見回してみる
魔導車に似た乗り物、車
赤黄青と点滅する機械、信号
さっき貰った飲み物が入った四角い機械、自動販売機
………知ってる
アタシはこれらを何故か知っている
「さて着いた、と
んじゃ早速ファッションショーと洒落込みますかねぇ」
ニヤリと笑うサエコに嫌な予感を感じる
「はい、まずここね
試着室入っててねー、あたしが服持ってくからドンドン試着して」
そう言われて試着室で待つと、サエコが次から次へと服を持ってくる
元の世界じゃ見たことないデザインの服がこんなに…
「……って!これ男物じゃん!しかも着ちゃったよ!」
「あ〜やっぱり似合うわぁ
美形でスタイル良いから似合うと思ったわ!
次のコスプレ、男装とかどうよ!」
いや、そういう目的で来たわけじゃないよね?
「はい、次ここ」
「水着じゃん!完全に目的間違ってるじゃん!」
「いいからいいから〜
試着室でお待ちくださいお客様〜」
完全に着せ替え人形状態だ
あぁ、マリエラの気持ちが少し分かった気がするわ…
そんなやり取りを小一時間して、
ようやく普通の服装へと着替え終わった
……結構お金使っちゃったな、キリキリごめん
「ネイビーのワンピにニットのカーディガン、無難だけどよく似合ってるね
やっぱ素材がいいよねラヴィ」
こんなに褒められたの始めてなんですけど
泣きそうなんですけど
泣いていいですかね?
「ドレスより動きやすいし、なにより涼しいわ」
これなら周りから変な目で見られる事もないかな
「ところでさ、そのエルフ耳、いつまで付けてるの?」
「いや、これ本物だから、取り外し不可だから」
「ラヴィってホントにエルフ好きなんだねぇ」
…いや、エルフ好きとかじゃなく、エルフなんですが?
「やっぱそういう思い込みの強さもコスプレには必要なんだよなぁ
あたしももう少し設定とか深く追求してみるか」
コスプレかぁ…
さっきのデカイ建物にいた人達も全員ただの人間だったのかな
となると、漂流者はやっぱりアタシだけかぁ
「神奈川の方まで行くけど良い?
泊まるとこも決めてないみたいだし、
なんならウチに泊めてあげるからさ」
「あ、うん、それは助かるよ」
「よしよし、それじゃレッツゴー!」
陽気な足取りで駅へと向かうサエコ
楽しそうだなぁ
反面、アタシはこれからの事で不安だらけだよ
元の世界、戻れるのかなぁ?
……………………………………………
「なにこれ、こんなんで電車乗れるの!?」
駅に着くなり溢れんばかりの人混み
さっきのコスプレ会場ほどじゃないにしても多すぎる
「いや〜まぁイベントやってるからしょうがないよね〜
この時間だと帰る人もそこそこ多いし」
駅のホームに着くまでに数十分を要した
しかしここからが大変だ
ホームにも埋め尽くされた人の群れ
こんな数が電車乗ったら事故るんじゃないのかな?
しばらくしてやって来た電車に雪崩のように乗車する人々
その流れに任せるように、アタシたちも電車の中に押し込まれた
「サエコ、一つ聞くけど
アンタが言ってたカナガワってこっからどのくらい掛かるの?」
「ん〜そうだなぁ2時間は掛かるかなぁ?」
嘘でしょ!?
2時間もこんな状態なの!?
絶望した、今すぐ電車の窓から飛び出したい気分だ
「まぁ乗り換えてるうちに混雑からは少しだけ解放されるから、
それまで辛抱だよ〜」
こんな状態なのにサエコはニコニコだ
何がそんなに楽しいのか?
アタシは満員電車で押し潰されそうだというのに…
「ほらほら、はぐれないように手、握っといてあげるわよん」
握られた手が何故か凄く懐かしくて、
アタシの脳裏に何か忘れた記憶を呼び覚ます感覚に襲われる
……ていうか
「サエコ、暑い」
「デスヨネー」




