故郷に帰る 8
ヘビの死体を捌くと中からヘビの体液でヌルヌルになってるミハエルさんが出てきた
「ヘビは基本丸呑みだからな
消化される前に助けてやればどうってこたぁない」
体は問題ないけど、ミハエルさんの精神的苦痛は計り知れない
放心状態のミハエルさんをおっちゃんとラルゴさんで引きずり、
私が簡易シャワー室を設置する
しばしのミハエルさん洗浄タイムだ
「あんなバケモノまでいるわけ?
マリサメリサ恐るべしね」
「別にあれはこの国の原生生物じゃねぇよ
時空の歪みから出てくるのは何も人間だけじゃねぇってこった」
つまりあのデカイヘビも別の世界から来たってことか
「とにかく早いとこ船に戻りましょう
またあんなの出てきたら洒落にならないわ」
そしてヌルヌルのミハエルさんをようやく洗い終えたおっちゃんたちがシャワー室から出て来た時、
助けた女性がようやく目を覚ました
「…………ここ、は?」
「ん、おはよ」
「マリエラ、アンタもうちょい語彙力上げようね」
ラヴィさんが女性の上体を起こすのを手伝い、
女性も困惑したまま周りを見渡す
「あの……ここはどこですか?あなたたちは?」
「簡単に言えばここはあんたの知らない異世界で、
あんたは時空の歪みに飲まれてこっちに来ちまったってわけだ
そんでオレらに助けられた」
「異世界?え?時空の歪み?は?」
まぁそうなるよねー
おっちゃんの説明が簡単過ぎて女性は理解が追い付かない
仕方ないので順を追ってラルゴさんが説明し直す事で、
なんとか女性も納得し始めた
「お姉さん、名前は?」
「……ウサギっぽい…子供?」
私を凝視したあと、ラヴィさんの方を向く女性
「触っていいですか?」
「好きなだけ」親指ビシッ
いや、断り入れる人間間違えてない?
まずは私に言うべきなのでは……
「なーーーーー!」
これでもかというくらいのハグでモフモフされる
……………………………………
「あ〜堪能した〜」
スッキリした顔の女性と、グッタリ倒れこむ私
今までで一番長いモフモフタイムだった…
「私の名前は“桐谷 霧香”
東京で看護師やってます」
うん、ちょっと待って
さっきまでのモフモフタイムがなかったかのような話の繋ぎ方やめてほしい
「え、キリ?え?きりか?
………めんどいからキリキリでいいか」
「ん、キリキリさん後でモフモフ代請求するので」
「嘘!?あれ有料なの!?」
桐谷 霧香さん23歳
東京という所にある小さな病院で看護師をやっていたそうなのだが、
毎日の仕事に疲れ果て、お酒を飲み歩いて帰る途中、
川沿いで足がもつれて倒れ、そのまま川に落ちたそうな
で、気づくと私たちが目の前にいた、という事らしい
「そのトウキョウってのがよく分かんないんだけど、とにかくその川に時空の歪みがあったって事で間違いないわね」
「東京か、やっぱオレのいた世界の人間だったか」
おっちゃんは何か知っているような口ぶりだ
顎に手をやり考え込んでいる
「毎日毎日キツイ仕事して、帰っても寝るだけ
小さい病院とは言え患者さんの数は多くてね…
それなのに看護師の数は足りないわ、夜勤は多いわで……ブラックよブラック」
キリキリさんの愚痴は数十分にも及んだ
ようやく愚痴り終えたかと思えば大の字になって倒れ、
空を仰ぎながら深呼吸していた
「異世界、か……
それも悪くないかな〜」
「ん、元の世界に帰りたくないの?」
「帰っても同じ事の繰り返しの毎日だもの
それにさ、異世界転生って言えばそりゃもう主人公って相場が決まってるじゃない?
……ヤバい、あたし、勇者って奴じゃ!?」
案外ポジティブな人だった
「残念ながら異世界転生は珍しくないのと、この世界は勇者って国ごとにいるからね
アンタだけ特別枠では無いと思う」
ラヴィさんは容赦なく現実を叩きつける
おっちゃんも近くに座り、キリキリさんに色々と説明し始めた
「あんたの場合は転生ではなく、漂流な
元の世界の体のままだからこっちで戦闘するにはちと向かないと思うぜ
あんたの世界…まぁオレもだがあの世界の人間は貧弱だからな」
「…えー、じゃああたしどうしたら良いのかな」
途端に目標を見失い、途方にくれるキリキリさん
「看護師やってたんならこっちでも需要はある
元の世界と違ってこっちは人口が少ない
だからそう忙しくもないと思うぜ」
「こっちでも結局看護師かぁ…
まぁ好きでなった職だしね
……異世界で看護師か、まぁ悪くない、かな」
どうやら方針は決まったらしい
休憩所を片付け、小型船目指して出発する
一応荷物の確認をして……と
「あら、キリキリ
これアンタのバッグじゃない?」
それは小さめのハンドバッグ
ラヴィさんが気付いて拾い上げたその時だった
「ラヴィさん後ろ!」
私が叫ぶも遅かった
ラヴィさんの背後が大きく揺らぎ、振り返ったラヴィさんを吸い込むように飲み込んでいく
「ラヴィさん!」
「よせ!危ない!」
ラヴィさんを助けようと駆け出そうとした私をおっちゃんが引き留める
キリキリさんたちは驚きの表情を浮かべたまま動くことができない
「……嘘…でしょ」
ラヴィさんも信じられないという表現のまま歪んだ時空の穴へと消えてしまった……
「………そんな」
「くそ!油断した!
もっと早く移動しておけば……」
おっちゃんは助けられなかった後悔と苛立ちで近くの岩を殴り砕く
そして膝をつきうなだれる私の肩に手を置くキリキリさん
………受け入れがたい現実を目の当たりにして、
私はその場を動けないでいた……




