故郷に帰る 2
全員グッタリだった
何が悲しくて日がな一日酔っ払いの相手をしなきゃならないのか
ノーフォビアの一件の後、
アルカディアに戻ってすぐ、私たちへの依頼が殺到していた
勇者たちの宣伝効果もあって、ここしばらく休みがないくらいに…
最初の一週間は小さな仕事がいくつか
次の一週間にはノーフォビアでの出来事がアルカディアにも知れ渡っており、
クーデター阻止に関わった事が公になると、
ベテラン冒険者たちからの依頼も増えてきた
そんな忙しさもひと段落し、ようやく久々の休日を満喫しようとした矢先、
あのオーガ族のおっかさんが現れたのだ
「いや〜みんなゴメンね
ヒスイさん、気分が良いとやたら飲むのよ
多分アタシが今の仕事やってるのが嬉しかったみたいでさ…
ホント変な人だよ」
寝てるヒスイさんに毛布を掛けて、ラヴィさんはお酒を片付ける
「一体何しに来たんだか
この人いっつも突然なんだよねー」
恐らく押し掛け母親の時の事も含めてってことだね
色々謎は多いけど、
とりあえずヒスイさん疲れの私たちもそれぞれ休む事にした
詳しい話は明日かな……
……………………………………
明朝、起きてきたヒスイさんは物凄い二日酔いに見舞われていた
「あーなにこれ、あたし酒飲んだ?飲んだっけ?」
えーそこの記憶ないの!?
めちゃくちゃハッキリ飲んでたじゃん
「あたし、酒、超、弱い、のよ……」
ラヴィさんとは正反対なのか
けどお酒が好きなのは一緒らしい
昨日は相当楽しかったようだ
「ヒスイさん、水持ってきたよ
しっかし何しにきたのよ、アタシに用があったんでしょ?
なのにアタシが帰って来る前に潰れるとか笑えないんだけど」
「無理矢理に妾まで飲まされたぞ、お陰で妾も二日酔いじゃ」
「ゴメ……うぷっ」
話の途中も途中でヒスイさんは口元を押さえてトイレに駆け込む
こりゃ収まるまで話は出来ないな……
それから小一時間
ようやく落ち着いたヒスイさんが話し始めた
「いやぁごめんごめん
つい嬉しさと楽しさで飲みすぎちった、テヘ」
テヘじゃないテヘじゃ
「用っていうかさ、まぁ頑張ってるあんたたちにご褒美持ってきたのよ
いつもウチのラヴィリスがお世話になってるお礼も兼ねてね」
そう言って取り出したのは4枚のチケットだった
「豪華客船アンナマリー号の乗船チケットじゃない!」
そう、予約数ヶ月待ちと言われるアンナマリー号のチケットだった
一瞬偽造じゃないかと疑ってしまった
「どうしたのこれ?盗んだの?」
「張っ倒すわよ!
……ウチ飲み屋やってるじゃん?」
「まさかスナックあおい?」
「あらよく知ってるね、ってラヴィリスがギルドでも同じ名前使ってるんだっけか」
あーやっぱりあのギルドの元ネタはヒスイお母さんだったのか
「でね、そこのお客さんに凄いお金持ちの人がいてさぁ
飲み比べして勝っちゃったのよ、そしたらこれくれたの
いやぁ〜あの人私より弱くてさ〜」
「で、その飲み比べ、なに賭けたの?」
冷ややかなラヴィさんの視線がヒスイさんに向けられた
これきっと嫌な予感したんだな
「ラヴィリス」
「アンタそれでも母親か!?
つうかアタシ丸ごと賭ける?普通?」
「さすがぁヒスイさん、ラヴィのお母さんを名乗るだけはありますねぇ」
「おぬしも同じ事、勇者一行にやっとったじゃろうが」
……この二人本当に血繋がってないの?
「やーねぇ、丸ごと賭けるわけ無いジャン
軽くお触り程度よん」
「よーし分かった、次の飲み比べにヒスイさん丸ごと賭けるわアタシ」
「ジョークジョーク!もうやらないから!お願い許して!」
なんだかんだで仲良い親子だ
種族は全然違うのに、まるで本当の親子のような雰囲気だった
「んじゃ、そのお詫びも兼ねてのチケットって事でひとつ」
両手を添えてチケットを献上するヒスイさん
偉そうに踏ん反り返って受け取るラヴィさん
親子じゃなく王様と部下に変化した
「ま、そういう事なら仕方ないわね
有り難く受け取っておくわ」
そしてチケットをそれぞれに配ると内容を確認する
アルカディアから西にある国、海上国家“マリサメリサ”
海上国家の名の通り、国全体の八割が海という珍しい国
アンナマリー号はアルカディアとそのマリサメリサとの国境沿いの港から出航し、
マリサメリサを北に縦断した後、その先にある国“ソレイル”との国境沿いの港に到着するというものだった
「ふむ、最終的にソレイルに行くことになるわけじゃな」
「あちらにはぁ行ったことないですぅ」
「ん、ソレイルは今お母さんが住んでる所」
一家離散してから母は自分の故郷のソレイルに帰った
それからはまだ一度も会いに行ってない
これは凄くいい機会だ
「あらそうなんだ
んじゃせっかくだから会いに行ってきなさいな」
「マリエラの母親はソレイルにおったのか
いい機会じゃし、妾たちも挨拶に行くとするかのぅ」
「ですねぇ〜私も会ってみたいですぅ」
「んじゃ決まりだね
でもいいの?ヒスイさん自分でチケット使えばよかったのに」
ラヴィさんの言う通りだ
もしかして本当はラヴィさんと二人で行くつもりだったのかな?
「あーあたし船酔いも酷いから無理
それにさ、アルカディアにも用があってね」
ヒスイさんが荷物の中から一枚のカードを取り出して見せた
それはギルドマスターの証明書だ
確か世界中どこのギルドでも働けるっていう証明書だ
ラヴィさんも私の宿屋に同行する時に取得したやつだね
「実はラヴィリスのやってたギルドの後任を任されたのよ」
「あそこそもそもギルド必要なくない?」
そういえばあのギルド使ったの私だけだもんね
「でも、あんたあそこでスナックあおいやってたんでしょ?
んじゃあたしもそうするつもり
元々のスナックあおい本店も信頼できる子に任せてきたし、
あたしは過疎った村でのんびりやらせてもらうわ」
「ん、老後の田舎生活ですか」
口が滑った
猛烈な突進からの全力モフモフ
ちなみに今日の着ぐるみはヒツジです
「やめれぇ」
絶対この二人、血が繋がってると思う
「お持ち帰りするわよ、このモフモフ怪獣め」
「やめい、それでもウチの宿屋の女主人なんだからね」
ともあれ、そんなこんなで私たちは豪華客船アンナマリー号での船旅をすることになったのだ




