故郷に帰る 1
沢山の豪華なシャンデリア、高級なテーブルにイス、
そして高級なお酒が並ぶバーカウンター
なんて場違いな所にいるんだろう
出来るだけ隅っこの方にイスを持ってきて座り、
いつ終わるとも知れない飲み比べの行く末を見守っていた
「アンタやるじゃない!」
「お前さんもな、エルフの姉ちゃん!」
ラヴィさんと競っているのはいい感じに無精髭を生やしたおじさんだった
身なりもいいし、端整な顔立ち
どこかの金持ちだろうか?
ちなみにこのおじさんの前にも数人ラヴィさんに挑んだ酒豪がいたが、見事に撃沈していた
見れば辺りに色んなお酒の空瓶がそこかしこに転がっている
なんて迷惑な客だろうという他の周りのお客さんの心の声が聞こえてくるようだ
「ここの従業員さんて耳長族ばっかりだね」
飲み比べに全く興味がない私は暇つぶしに人間観察し始める
「まぁこういう場所にはバニーガールと相場が決まっておるからな
それに万が一客が怪我や病気になった時、
治癒能力を持つ耳長族がおればすぐに対処できるという利点もある」
「ノーフォビアでもぉその理由で病院を運営してましたもんねぇ」
なるほどなぁ
そんな風に人間観察をしてると、
近くの女性客がこっちを見てなにやらコソコソ話している
「見て、あの耳長族小さくて可愛い」
「バニーガールの誰かの子供かしら?
お母さんのお仕事終わるの待ってるのね、偉いわぁ」
……全然違いますが
とはいえ、そう思われても仕方はない
なぜなら今私が着ているのは、ウサギの着ぐるみ
どうやらラヴィさんがハルカさんに発注して作らせたらしい
「やっぱり子供の耳長族は人型にはなれないのかしら?」
……これでも人型ですが
すると女性客の1人が私に近づき、話しかけてきた
「ねぇお嬢ちゃん、あっちに高級なニンジンがあるの、一緒に食べない?」
「ん、ニンジン嫌いですが」
「カーワーイーイー」
ガバッと抱き抱えられ、お持ち帰りされる私
そして女性客2人に全力でモフられる
「やめれぇー」
そんな姿を微笑ましく眺めるカグヤさんとエステルさん
……助けて欲しいのだけど?
「マリエラも楽しんどるようで良かったのぅ」
「ですねぇ〜」
こら〜
ここは豪華客船アンナマリー号
なぜ私たちがこんな場違いな船に乗っているかといえば、
それはそうだな、約2日前まで遡る
…………………………………………
「おっ邪魔っしまーす!」
アルカディア王都の宿屋
そこに宿泊している私たちの部屋のドアを勢いよく開けて、
やたらテンションの高いお姉さんが入ってきた
「何事じゃ!?」
「ラヴィじゃないんですかぁ?」
「ん、ラヴィさんハルカさんとどっか出かけてる
当分帰ってこないよ」
3人して突然入ってきた人物に注目する
茶髪の長いポニーテールが印象的だけど、
それ以上に目を引くのが、頭部に生えた二本の…ツノ
……多分オーガ族の人だと思うけど、
全く知らない人だ
「あれ?ラヴィリスいないの?」
どうやらラヴィさんの知り合いらしい
「ん、ラヴィさんの友達?」
「違う違う、あたしあの子の母親よん」
…………ん?
「「え!?」」
いやいやいやいや、それはどう考えてもおかしい
だって…
「ラヴィさんエルフのはずでは!?」
「あやつ本当はオーガじゃったのか!?」
「どーりでおバカだったんですねぇ」
エステルさん、それこの人にも失礼だよ
「あ〜そうじゃないのそうじゃないの
ホントの親じゃなくて、育ての親的な?」
「どーりでおバカだったんですねぇ」
だから失礼だから
「こらエステル、さっきから何知らん顔してるのよ
あんた昔からちょくちょく会ってたでしょうが」
オーガのお姉さん、いやお母さんの視線がエステルさんに向けられる
なんだ、エステルさんも知り合いだったのか
「昔というかぁ、数ヶ月前ですぅ
私が前にいた教会にたまに遊びに来てお酒飲んで帰っただけですよねぇ」
「あそこの神父は飲み仲間だから、ね!」
神様に怒られるぞ
「それにさぁ、色々遊んであげたジャン!
教会の裏庭に剣刺して、聖剣ごっこ〜とかやったジャン!」
「あぁやっぱりあれ“ヒスイさん”の仕業だったんですねぇ
子供たちがぁ剣抜けなくてぇ半泣きしてたんですよぉ〜」
なに、あの話の関係者だったのか
「バカエルフの母親だけあって、やかましいのぅ
で、ヒスイとやら、ラヴィリスなら今はおらぬぞ」
「おっとそうだった
いないんじゃしょうがない、待たせてもらうわよん」
そう言ってズカズカ部屋に上がり込み、
テーブルの上にお土産として持ってきたお酒やらお酒やらお酒を乗せて勝手に飲み始めた
「遠慮なく飲んじゃっていいからねー」
あなたが遠慮してください
「あたしゃ嬉しいのよ!
あのやる気のないバカ娘が真っ当な仕事に転職したって聞いてさ〜
宿屋だっけ?いいじゃない、いいじゃない!
小さい村の酒場なんて儲かるはずないんだから」
「ん、酒場じゃなくギルドですが
さらに言えば宿屋より収入のいい仕事ですが」
「あと別に転職しとらんぞ、ギルドの受付のままじゃ」
それを聞いて一瞬固まるヒスイさん
しかし再び酒を一気飲みしてプハーっと…
「…細かいことはいーのよ
それよりも、あんたらみたいな良い友達が出来たことが何より嬉しいのだよ母は!」
やだ、この人面倒臭いタイプの人だ
いわゆるラヴィさんタイプだ
「女手一つで育ててきた甲斐があったってもんよ」
「ラヴィと一緒に住んでたの3年くらいですよねぇ?
というか、数年前に突然現れてぇ“あたしの娘になんなさーい”って言って強引に親子になったってぇ聞いてますぅ」
「押し掛け母親だのぅ」
「ん、迷惑さんだね」
するとピタっと動きを止め、俯くヒスイさん
悪い事言っちゃった?
「デスヨネー!んまぁなんてか、人生勢いも大事なわけだよ、そこは見習っていただきたい!」
私の一瞬の反省返して下さい
なにこの人、完全な酔っ払いだ
手がつけられない
そんなデタラメな長話を延々と聞かされる事数時間、
私たちのメンタルが崩壊する寸前でようやくラヴィさんが帰ってきた
「ただいま〜って……ゲッ!
なんでヒスイさんがいるのよ……」
思いっきり顔が引きつっている
隙あらばドアから逃げ出しそうな勢いだ
「お、やっと帰ってきたわねバカ娘!
てかさ、あんたいい加減“お母さん”て呼びなさいよ!
はい、ぷりーずこーるみー・マンマ」
「だから、んな歳じゃないって言ってんでしょうが!
つうか酒臭い!どんだけ飲んだのよ!?
これだからオーガ族ってやつは……」
いや、あなたも大概大酒飲みでしょうに
収拾のつかないこの状況、
静まったのは、酔い潰れてヒスイさんが寝静まった真夜中だった




