竜の花嫁 15
そして翌日……
教会に設営した避難所で朝を迎えた私たちと人質になってた人たち
昨日のゴタゴタが嘘のような清々しい朝だった
エステルさんとクレアさんが作った朝食を得るため、
みんな列になって並んでいる
あの後グラハムとかいうおじさんの手下になってた騎士たちは、
縄で縛り、一つの部屋に押し込めた
もちろん床の脱出口は完全に塞いだので逃げられない
こうして王子の花嫁探しから始まり、クーデター阻止という訳の分からない流れとなった事件はひと段落した
「ところで王子の花嫁探しはどうすんの?
セシリアとくっ付けるのが手っ取り早いと思うんだけど」
元々はそういう筋書きではある
でも王子は人型に興味ないし……
「それが全く見向きもされませんでしたわ…」
「え、なんでよ
バニーガールに目覚めたおかげで人型も守備範囲になったでしょ?」
「ん、そうなの?」
知らなかった
「その言葉を信じて猛アタックしましたのよ!
……そしたら……」
「「「「そしたら?」」」」
みんなの興味がセシリアさんの言葉に集中する
「生臭いから嫌だって……」
「そのナマモノ使った仮装、取りなさいよ」
時間が経つにつれて異常な匂いを放ってたから無理もない
「それだけじゃダメよきっと」
割って入ったのはネフェニルさんだ
ようやく行列から解放されて料理を持ってやってきた
相当エステルさんの料理が気に入ったみたいだね
「あ、自爆姫、お疲れー」
「自爆姫、もう自爆のダメージは癒えたのかえ?」
「ん、ナイス自爆」親指ビシッ
「あなたたち、次それ言ったら斬り刻むわよ」
「「「ごめんなさーい」」」
どうやらネフェニルさんは王子の花嫁探しの件で気付いた事があるらしい
「これまでの話を聞いてミーシャの好みがハッキリ分かったわ」
「ドラゴン体型ではないのかえ?」
確かに最初はその筈だったよね
「分からない?幼い頃のセシリア、一緒に閉じ込められてたバニーガール、そしてあなた達が私と会う前に見つけたという土竜」
……あーそういうこと
「ぽっちゃりさんですねぇ〜」
食事の配給を終えたエステルさんが戻ってきた
「……いや、待って
アタシあの王子に美人とか言われたんだけど?
アタシぽっちゃりじゃないよね?ないよね!?」
「美人と思うのと好みの相手は別ってことじゃないだべか?
オラもよくめんこいけど友達止まりだねって言われるだよ」
「サラッと悲しい自分エピソード挟んでこないでよメグル」
あー起きたんだメグルさん
するとさっきまで王子の所にいたクレアさんもやってきた
「王子の花嫁が見つかりましたのでご報告に参りました」
「「「「「は!?」」」」」
突然の重大発言に寝耳に水の私たち
「やはり一周回って私ですわよね?」
まだ諦めてないんだセシリアさん
「もしやあの土竜ではないのかえ?」
「それは保護者としては見たくない絵面ね」
ネフェニルさんは本気で心配している
確かにあの土竜はないわぁ
「バニーガールではないですかねぇ〜?」
「エステル様、正解にございます
正解したご褒美に王子の生写真をプレゼント致し…」
「いらないですぅ」
即刻の拒否
エステルさんが珍しく真顔だ
「左様でございますか
……まぁ左様でございますよね」
すると写真を破いてゴミ箱へ
ヒドイヒドイ
「ちょーっと!待って下さいまし!
私の立場はどうなりますの!?」
「落ち着きなさいよセシリア!
とりあえずその仮装早く捨てなさい!
変な汁飛んでるから!汚いから!」
セシリアさんが動くたびに物凄く臭い変な汁が飛び散る
ホントにやめてほしい
「いやーホント今回はみんなありがとな!」
ご自慢の花嫁さんを引き連れて王子登場
ぽっちゃりバニーさんも王子と腕を組みニコニコ笑顔だ
「ん、予想外」
「アタシらの苦労はなんだったのよ」
「バカの行動はホントに読めんのぅ」
「興味ないですぅ」
唐突にバニーさんを追いかけ回すセシリアさん
相当悔しいみたいだ
「ん、でもそれじゃ竜族の仲間は納得しないよね?」
「ん?…あー、でもまぁ耳長族って竜族の間でも人気あるんだよなぁ
多分すっげぇ羨ましがられると思う」
「なにこれ、アタシら色々巻き込まれ損じゃないの」
セシリアさんがバニーさんに追いつき取っ組み合いになったところで王子が仲裁に入る
これが……修羅場か
「で、ネフェニルさんはこれからどうするの?」
「私はしばらく森の病院で静養することになったわ
耳長族の医師から魔族堕ちの治療を提案されたの
まぁ人間には戻れないかもしれないけど、
少しでも状態は良くしないとね
また記憶がおかしくならないとも限らないから」
「うむ、それが良かろう」
「王都には戻らないの?」
「勇者が魔族堕ちなんて笑えないもの
あっちはセシリアに任せて、
私は裏からノーフォビアを支えるわ」
今のところネフェニルさん……ロゼリア・アーデンフェルトが生きている事を知っているのは私たちとセシリアさんに王子、そして病院を占拠していた騎士たちだけ
セシリアさんはネフェニルさんの意志を汲んで王様にはこの事実を伏せる事にしたらしい
あの騎士たちは話してしまいそうだが、グラハムおじさんの妄想に付き合わされただけだという事で押し通すつもりだそうだ
本当なら実の父親である王様のところに帰りたいんだろうけど……
「あ、そうだ
そういえばネフェニル自身に血石の効果があったのはなんだったの?」
あーそんな事もあったね
「ふむ、どうやらこの血石の効果は魔女のロザリアクイーンの魔力ではなく、
勇者の血の力による所が大きかったようじゃ
勇者の力で張られた結界なんぞ魔族や魔物にとっては高圧電流の流れる分厚い鋼鉄の壁も同じであろうな
まぁ何というか、勇者の結界に接触した事によってネフェニルの魔族の部分が拒否反応を起こしたというわけじゃ
妾はとんでもない逸品を作ってしまったわけじゃな」
とても満足気のカグヤさん
虫除けどころのアイテムじゃなかったわけだね
「私の血でそんな物作らないで欲しいわ
本当にキツいのよソレ」
心底うんざりといった顔のネフェニルさん
「治療で魔族の力が少しでも弱まれば、多少は耐えられるであろう」
「私がいる時は効果を切ってくれるのが一番ありがたいのだけどね」
そう言ってネフェニルさんは席を立ち、
そばにいたエステルさんの前へ
「ともあれ、あなたたちに巡り会えたのは本当に良かったわ」
「私もですぅ
きっとエステルも喜んでくれてますぅ」
エステルさんは戦いの前にネフェニルさんから預かったペンダントを返した
するとネフェニルさんはエステルさんを優しく抱きしめる
「助けが必要な時は必ず駆けつけるわ
……頑張ってね、私の大切なもう一人のエステル」
「……はい、先生」
一方でラヴィさんはクレアさんと握手を交わしていた
「クレア、アンタ変な奴だったけど中々楽しかったわ、あと尋常じゃない情報力も見事だわ
出来れば仲間にしたい所だけど……」
「申し訳ございません
ワタクシにも派遣メイドとしての仕事がございますので……
あぁそうでした、もし派遣メイドがご入り用の時はこちらをお使い下さいませ」
渡されたのはクレアさんの名前の入ったカードのようなものだった
確かネフェニルさんも持ってた名刺とかいうやつだ
「お客様がこちらの名刺を天に掲げて頂きますと、
ワタクシと連絡が取れるようになっておりまして、
ワタクシの手が空いている場合に限り、即座に参上させていただくようになってございます」
ちなみにお得意様のみに配る激レア名刺なのだそう
これも多分アーティファクトかな?
カグヤさんの通信機みたいだね
「なるほど、これでネフェニルもアンタに依頼してたのね」
「左様でございます
しかしながらネフェニル様のお持ちになっている名刺はノーフォビア王族様御用達の特別製でございまして、
その点から最初にネフェニル様にお会いした時に様々な謎が湧いてしまいまして……」
あの時ネフェニルさんの顔を見て間があったのはそういう事だったんだね
ともかくこれでクレアさんとの繋がりが出来たようなので、ラヴィさんも満足気だ
「ともあれ、今後ともご贔屓のほどよろしくお願い致します」
「オッケー毎日連絡する」
「申し訳ございません、やはり名刺をご返却願えませんか?」
ラヴィさんやめてあげて
その後、みんなで力を合わせてめちゃくちゃになった病院内の片付けと清掃をし、
終わった頃には夜になっていた
その日の夜中、
エステルさんとネフェニルさんが二人で御墓参りに行くのを見かけたが、
邪魔しては悪いので無言で見送った
そうそう、片付けの間に王都に報告へ向かったラヴィさんとセシリアさんにより、
王都の騎士たちがやってきて、クーデター派の騎士たちを連行していった
これにより今回の事件は全て終わったのだった
……………………………………
翌日、ネフェニルさんと耳長族たち、
そして王子とクレアさんと別れ、
私たちは一旦ノーフォビアの王都へ
そこでクーデター阻止に貢献したことを讃えられ、
その褒美が贈られた
思わぬ臨時収入に喜んだのはラヴィさんだ
その日のうちにメグルさんに物資の補給を頼んでいたのは言うまでもない
「さて、とりあえずノーフォビアでやる事は大体終えたし、一旦アルカディアに戻りましょうか」
「そうじゃな、アルカディア王に今回の件、
特に謎の魔王の最期の言葉は伝えねばなるまい」
アルカディアに大きなウネリがどうとかってやつだね
いまだに意味が分からないけど、
警戒はしとかないとね
そうこうしているうちに出発の準備を整え、
いつもの4人は魔導車に乗り込む
散々な目にあったけど、それ以上に良いこともあったし、今回の旅はとても有意義だった
またネフェニルさんたちと会えるかな?
その時は今回出来なかった、ちゃんとしたおもてなしが出来るといいなぁ
第2章 竜の花嫁 完




