竜の花嫁 13
突然アタシたちの目の前に現れた白薔薇の姫、
あまりにもいきなりだったのでその場の全員が硬直してしまった
「……びっ、くりしたぁ」
「ごめんなさいね、ミーシャの危機と聞いて急いで来たの」
「突然飛んでと言われただで、失敗するかと思っただよ
まぁラヴィさん思い浮かべながらだったけぇ
なんとかなったねぇ」
それ、どういう意味よ
インパクトありすぎとかそういうこと?
「で、ロザリア…いやロゼリア?
あーなんと呼べばいいのじゃ?」
「ネフェニルでいいわ、その二つの名前は過去のものだもの」
その言葉にカグヤは大きく頷いた
「ではネフェニル、マリエラたちはまだ教会には着かぬのであろう?」
「ええ、まだ少し掛かりそうなの、だから出来るだけ私が時間を稼ぐわ」
「ってもさ、ここ牢屋代わりの部屋の中よ?
どうやって扉の向こう側に出るのよ?」
するとネフェニルはアルカディアの森でやったように、腕を植物のツルのように変化させ、思いっきりドアへと叩きつけ破壊する
「……あー記憶戻ったのにソレやっちゃうんだー」
「あら結構便利なのよ、これ」
さすがは勇者、神経図太いわぁ
「な、何事だ!?」
突然の事に驚きを隠せないチョビ髭
驚き過ぎて尻餅をついている
「ミーシャ、無事ね?……全くあなたは昔からトラブル引き込むタイプなんだから…」
「ネフェニル先生!あんた記憶が戻って……」
王子が喜びの声を上げる
「何者だ…いや、その顔、まさか…」
ネフェニルの顔を確認したチョビ髭が目を見開く
そして周りの騎士たちは彼女の姿を見てざわつき始めた
その中の一人が呟く「姫様」と
「そうだ!あのお顔は間違いない!
ロゼリア様だ!」
「ついにご帰還なされたぞ!」
歓喜に沸き立つ騎士たち
…いや、半数の騎士たちは鋭い眼光で彼女を見つめている
「こりゃチョビ髭に騙された奴が半分、チョビ髭の配下が半分ってとこかな」
「そのようじゃな」
チョビ髭の配下たちはジワリとネフェニルを取り囲み始めている
「グラハム様、これで我らの悲願は達せられましたな!
お早く王にご報告を……」
喜び勇んでチョビ髭に近付いた騎士は、しかしそのチョビ髭に押し退けられ、勢いのまま倒れ込んだ
「な、なにを」
「悲願か、あぁこれでわしの悲願は叶った!
ふむそうだな、王にはこう報告せよ…」
チョビ髭の視線が王子に向けられている
「残念なことに姫様は竜族の王子に殺され無念の死を遂げられ、このわしが仇を取った、とな!」
ニヤリと、笑う
王子を利用するつもりか
どこまでも卑劣な奴ね
「我が騎士たちよ、その女の髪を見よ!
黒くすんでなんと汚らしいことか!
我らの白薔薇の姫はその名の通り、白銀の美しい髪であったのだ!
……今、この時ばかりはアレは姫ではない
魔族堕ちしたただの魔女だ!躊躇う必要はない!殺せ!」
チョビ髭の配下たちが剣を抜く
対して騙された騎士たちは状況が飲み込めず困惑したままだ
「よく言ったわグラハム、なれば逆に殺されても文句は言えまい!
こちらも容赦はしないわ!」
「武器も持たずにノコノコと…
いくら勇者とは言え丸腰でこの数、やれるものか!」
チョビ髭の言葉を合図に、ネフェニルの真後ろの騎士が斬りかかる
しかしその刃がネフェニルを捉えようとする寸前に身を翻し、騎士の腕を捻り上げネフェニルは勢いよく騎士を投げ飛ばした
そして同時に騎士が持っていた剣をいとも容易く奪い取っていた
「武器がなければ現地調達なんて基本でしょ?」
クルリと剣を回し、構えを取るネフェニル
さすがは勇者、この場の騎士たちとは格が違う
「くっ!だが剣があったとてどうということはない!
魔族に堕ちた貴様では神の加護である“エーテライト”は扱えまい!
エーテライトの使えぬ貴様など魔力の低いエルフも同義よ!」
「あのチョビ髭、今、アタシのことディスった?」
「たまたまじゃろ、あやつはおぬしのことなど知らんわ」
…の割には随分ピンポイントな例えだったような?
「……古い書物によればエーテライトは勇者だけが扱える神秘の力
けれど確かエステル様のお話にも出てございましたね」
「うむ、勇者とエステル、そしてエーテライト
一体これらにどんな繋がりがあるというのか……」
ネフェニルは動じない
呆れたようにため息をついた後言い放つ
「王都にいた頃、話さなかったかしら?
エーテライトはそういう類の力じゃないわよ」
すると剣を眼前に掲げて集中する
「速度強化、斬撃強化、属性強化……」
呪文のような言葉を唱えるとネフェニルの体に光が宿る
「ば、ばかな!魔族風情がエーテライトを扱うなど!」
「……奥義解放!」
ネフェニルの周囲に尋常じゃない力の渦が巻き上がる
「……灰燼と化せ……」
【我が剣に斬れぬモノなし】
ほんの一瞬の出来事だった
騎士たちの周囲を光がほとばしったかと思うと、
次の瞬間には彼らの剣も鎧もまるで砂のように崩れ去っていった
「なにあれエゲツな!
勇者ってみんなあんなチート技使えんの?」
「だからこその勇者なんじゃろうな
しかしロザリアクイーンの時にあれをやられとったら、
妾たちアウトじゃったな」
確かに
魔導車も木刀アーティファクトも粉々になって逃げらんなかったわね
あの時ネフェニルが記憶失くしてて助かったわ
「武器や鎧だけ壊すなんて…
スゲーや先生…」
しかしネフェニルの持つ剣の刃には小さな亀裂が……
「……やはり普通の剣じゃこの技は負担が大きいわね……
ミーシャ、ラヴィリスたちの所まで下がりなさい」
その言葉に王子は従い、私たちの元へ
すでに勝負はついたように思えるけど、
ネフェニルはまだ構えを崩さない
「まさかこれで終わりじゃないわよね?」
「くくっ、ハッハッハッ!
無論だとも、貴様の技は百も承知だ!
エーテライトが使えようと使えまいと、次の手を打つのは戦いの基本!」
するとチョビ髭の影が揺らぎ何かが這い出してくる
「……魔族と契約を交わしたのね
2年前のあの戦い、おかしいとは思ったのよ
あれだけの数の魔族が突然国内に現れるなんて…
ダグラス、あなたは自分の身体に召喚魔法陣を刻んだのね
もうそれは人間とは言えない、ただの魔族の道具だわ」
チョビ髭の影から次々と現れる魔物の大群
これ結構やばくない?
「なんとでも言うがいい!
魔物どもには貴様の技など意味はないぞ
コイツらは人間と違って武器に頼らずとも戦えるのだからな!
……さて、無能な騎士ども!
貴様らはさっさと人質を殺してこい!誰一人として逃すな!」
武器を失った配下たちは適当な鉄くずや木材を手に取り散らばった
「まずいのぅ、早く人質を外に出さねば巻き込まれるぞ」
「さぁ白薔薇の姫……いや、黒薔薇の魔女よ!
続きをやろうではないか!」




