竜の花嫁 10
草むらから現れた半竜半人の女性は、
歩きづらそうにノソノソとこちらに近付き、一息ついた
「はぁ〜
この格好はさすがに疲れますわね」
膝に手をつき、呼吸を整える
「あのぉ一体あなたは?」
「あーえっと、何というか通りすがりの竜族ですわ」
なんかおかしい
セリフが完全に不審者のそれだ
「そんなことより、この辺りで宿屋さん見かけませんでした?
確かマリアベルとかいう名前でしたわ」
「…え?
それウチだよ」
互いにキョトンとして顔を見合わせる
この人なんで私たちのこと探してたんだろ?
「良かったですわ!
散々探し回りましたのよ!
クレアったらいつまで経っても現れないから、“作戦”を忘れてるのかと…」
随分と気になる単語をおっしゃる自称竜族のお姉さん
本当に怪しい
「クレアさんのぉお知り合いですかぁ?」
「それに作戦って…」
「いえ、こちらの話ですわ
えっと、この宿屋さんにミーシャという方がいらっしゃるはずですわね?」
さっきからキョロキョロと休憩所を見てるのは王子を探してたのかな?
「ん、でも今はいないよ、クレアさんも別行動」
「えーー!話が違いますわ!
聞いてませんわ!私どうしたらよろしいのですの!?」
慌てふためく自称竜族のお姉さん
するとネフェニルさんが見かねて話に加わってきた
「あなた、竜族ではないわね?
ましてや半竜半人ですらない
その格好はなんの真似かしら?」
するとギクリッ、と身体を硬直させた偽竜族のお姉さんはその場に力無くへたり込んだ
「徹夜で作ったんですのよ?
ファイアリザードの尻尾とジャイアントバットの翼、魔界鹿の角を集めるのに苦労しましたのにー!」
え、それ魔物の部位だったの?
通りでちょっと臭いと思った
「どこをどう見ても竜族ではありませんの?」
ヒラリと一回転して見せる偽竜族のお姉さん
見た目も所業も悪魔にしか見えません
そしてふとネフェニルさんの顔を見るや、
偽竜族のお姉さんは驚きの表情と共にピタリと止まる
「……あら?あらあらあらあら?」
すると今度はマジマジとネフェニルさんの顔を見つめてグイグイ寄って行った
「な、何かしら?」
「あらいやですわ、…“お姉様”ではありませんの?
まぁまぁ!やはりご無事でしたのね!」
お姉様!?
いきなり何言い出すんだこの人
「あなたにお姉様と呼ばれる覚えはないわ
一体何者なの?」
「ん?
おかしいですわね
まぁ確かに髪の色が違うようですけれど…」
「あの、あなたは誰?」
いつまでやり取りが終わらなそうなので、
すかさず割って入る
「…そうでしたわね、自己紹介がまだでしたわ
私は“セシリア・アーデンフェルト”
このノーフォビア国の第二王女ですわ」
王女?
というか竜族設定きれいに捨て去ったな、この人
一方、森の病院ならぬ森の牢獄
「さて、クレア
この状況、アンタなら少しは把握してるんじゃない?」
閉じ込められてる小部屋の一角に集まり、これまでの状況を整理する
「はい、少しどころかほとんど理解出来ております
とはいえ、よもやこのような事態に遭遇するなど思いもよりませんでしたので…」
クレアの話はこうだ
さっきのチョビ髭はグラハムというノーフォビア王の側近とされる人物だった
彼は人間種以外の種族を認めない完全人間主義を唱える人物で、
かねてより王都側が他種族と交流しないよう画策し続け、王都の人間たちにその思想を植え付けてきた
しかし7年前
白薔薇の姫によるノーフォビア国内の全ての種族と同盟を結ぶ提案が出されたことにより、
国内のムードは一気に傾く
王族でありながら勇者として戦場に立つ彼女の人望はグラハムなど足元にも及ばず、
流れは確実に同盟締結の方向へと進んでいった
だけどその翌年、
人間種以外の種族たちの暴動が起こる
理由は不明、恐らく同盟に反対する少数の者たちの仕業と考えられた
これにより王都内では他種族への不信感が募り、
結果、同盟は見送られることとなったらしい
「7年前にミーシャ王子が里に戻されたのは、
竜王がその暴動を予期して、王子が巻き込まれないようにしたのじゃろうな」
「恐らくはそうでしょう
すでに様々な里や村でその予兆があったと推測されます
そしてそれを画策したのが…」
「チョビ髭か…」
頷くクレア
全てはあのチョビ髭が招いた事態ってことね
「それならば白薔薇の姫を探し出し、復権を企むというのは不自然じゃな
彼女は同盟を結ぶ側であろう?グラハムにとっては邪魔な存在のはず……」
そこまで言ってカグヤは何かに気が付いたみたいだった
なるほどと一言呟いてウンウンと頷いた
「……見つけ出して確実に始末するつもりか」
「はい
そもそも2年前の魔族との戦闘も彼の影があったように思われます
なんの兆候もなく魔族が侵攻してくるなどあり得ません
恐らくはグラハムが手引きし、姫を亡き者とするつもりだったのでしょう」
けど、姫の遺体は見つからず、
彼女が逃げ延びたと考えたチョビ髭は、
クーデターを起こすと同時に、国の危機に現れるだろう姫の殺害も企てているってことか
「でもホントに白薔薇の姫は現れるの?
そもそも生きてるかどうかさえ……」
するとクレアはいつになく真顔でこう言った
「生きております
ワタクシも最近までは皆様と同じ考えでしたが、
これまでの皆様と、グラハムの話を統合した結果、
そして何より“ご本人”に出会った事で確信致しました
……白薔薇の姫こと“ロゼリア・アーデンフェルト”様は生きて、今この地におられます」




