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青空キャンプ

村から森までは徒歩で五時間はかかる

普通に歩いてそれなのだから

荷車を引きながらとなると更に遅くなる


「…ぜぃ…ぜぃ…」


出だしはよかったが、坂を登った辺りから体力の消耗はピークに達していた


「そんな大荷物で来るからだよ

旅ってのはいかに必要最低限で荷物をまとめられるかが重要なわけよ」


ギルドで支度してた時に海外旅行気分だった人に言われるのはなんと屈辱なことか

まぁいい

この荷物の真価はここからだ


「とりあえずここで野宿しよ」


「そうですねぇ

あまり森に近すぎると魔物に襲われる危険もありますからぁ」


そうなんだ、さすが熟練の冒険者

旅慣れている


「さて、それじゃ焚火の用意でも…」


「ん、必要ない」


私は手早く荷台の荷物を降ろし、慣れた手つきで次々とセッティングしていく


「お、なになに?

なんか凄くない!?」


「あらあら〜

小さいのに力持ちさんねぇ」


簡易ベッドを三つ、折りたたみ式のテーブルとイス

そして…


「見慣れない小さなランプの様なものがあるわね」


「ん、携帯型の焚火装置

これを中心に囲いを作って…」


ラヴィさんの手を装置の上に掲げさせる


「あぁなるほど、これに魔力を込めるのね」


「ん、種火程度の小さい魔力を一瞬込めればいい」


するとあっという間に装置全体から炎が立ち上る


「あらぁ便利ねぇ〜」


「ぬぁ…!あ、熱い、熱い

マリエラ!もう火付いてるから!

手、手を離しなさいってば!

アンタワザとやってるでしょ」


えぇワザとです


「火力は自動調整、安全装置も付いてるから火事にもならない」


「ふーふー、熱かったぁ

しっかし初めて見たわ

これ、上級ダンジョンにありそうなアーティファクトね」


ありそうな、ではなく実際そうなのだ


「祖父が冒険者で、世界中のダンジョンに入って持って来たものだから

でも手に入ったのが戦闘向きのアーティファクトじゃなかったから

有効活用するために宿屋を始めたって聞いた」


更にもう一つ荷物からアーティファクトを取り出す


「テテテテッテッテ〜

どこでも蛇口〜」


どこにでもある水道の蛇口の形をしたアーティファクト

これをどこでもいいのでくっ付けると…


ジャーーーーー


「簡単に水が出る」


「「おぉ〜」」


完璧にセッティングを終え、一息つく


「ふぅ、終わった」


「宿屋の名は伊達じゃなかったわけね」


「しかも便利なアーティファクトまであるなんてぇ」


野宿というより、とても快適な豪華なキャンプ

ラヴィさんもエステルさんも気に入ってくれた様で

それぞれにくつろぎ始めた


「なら次はアタシの出番ね」


ラヴィさんは自分のキャリーケースから食材と調理道具、

更に食器や数々の飲み物を次々と出し始めた


「え、そんな大量の荷物が入る様には見えないけど」


「このキャリーケースもアーティファクトなのよ

人呼んで…“異次元ポケット”〜」


「やめろ」


人の事言えないけど


「まぁ無限に入るキャリーケースね」


実はギルドにあったものはほぼ全てこの中に入っているらしい

必要最低限がどうたらこうたら発言はなんだったんだ


「どうよ、役に立つって言ったっしょ?」


「ん、ナイス

私料理出来ないから助かる」


「あ〜アタシも出来ない」


……は?


「ほら、アタシ食べるの専門だから」


「ラヴィさん、そのキャリーケースだけ置いて帰ってください」


「酷くない!?

大丈夫大丈夫、料理はエステルが出来るから」


見ればエステルさんが手際よく調理を始めていた

見事な包丁捌き、高く食材が踊るフライパン返し

あれよと言う間に美味しそうな料理の数々がテーブルに並べられていった


「一家に一台野良シスター」


「別に野良シスターが全員万能とは限らんぞマリエラっち」


「さぁさぁいただきましょう〜」


野菜炒めにチャーハン、パスタに鮭のお刺身!

…って、統一感がない

でも


「美味しい」


「さすがエステル!酒が進むわぁ」


「食材がどれも新鮮でしたぁ

異次元ポケ…いえ、キャリーケースのアーティファクトは入れた瞬間に中の物の時間を止める効果があるようですねぇ」


なるほど、確かに野菜も水々しくシャキシャキ

お刺身もまるで今釣って来たかの様な新鮮さ

欲しい、このキャリーケース


「ふふ、アタシの偉大さが分かったようね!」


分かったのはこのキャリーケースの偉大さだ


食事を終え、後片付けも済ませた後、

ベッドに体を投げ出しくつろぐ三人

視界いっぱいに広がる夜空と時折流れるそよ風に包まれ、

言葉にならない満足感に浸る


「まさか野宿でちゃんとしたベッドで寝れるとは思わなかったわ〜」


「ですねぇ〜

本当に豪華なキャンプをしてる様で最高ですぅ」


「これなら旅も悪くない」


今まで実家の宿屋以外でこういう事はしたことがなかった

普通のキャンプも経験はない

さっきのアーティファクトだって、ちゃんと使ったのは初めてだった

考えてみればあれはこういう野宿とかにこそ価値のあるアーティファクトなんだと確信する


「ん、これは…悪くない」


そんな風にボンヤリ考え事をしていたら、

いつのまにか深く眠りについてしまっていた…



チュンチュン チュンチュン


小鳥のさえずりが聞こえる

まぶた越しでもわかるほどの日の光

そう、朝だ

……朝?


「朝!?」


ガバッとベッドの上で三人一斉に体を起こした


ゆっくり顔を見合わせて空高く上ったお日様を確認する

どう考えても昼だ


「「「快適過ぎたー!!」」」


慌ててベッドを飛び降り片付けた始める

まだ森にも辿り着いてないのにのんびりし過ぎた

今から出発して、森に入ったら魔女に会う前に再び夜になってしまう


「こりゃ森でもう一泊かな」


「さすがにぃ魔女のいる森の中でキャンプはちょっとぉ」


「ラヴィさん、そのキャリーケースにベッドとか入らないかな」


「大きさ的に無理」


「……」


三人の片付ける手がピタリと止まる


「…実はぁこのちょっと先に綺麗なお花畑がありましてぇ」


「いいね、うん、いいと思う

ほら、これ急ぐ旅じゃないし、ないよね?マリエラ」


「ん、問題ない」


そんなわけでしばらくキャンピングライフを満喫することになりました



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