竜の花嫁 6
魔族堕ち……
その言葉に反応したのはカグヤさんだけだった
まぁつまりそれ以外の人は全く知らない言葉なわけで…
「魔族堕ちか、
噂程度には聞くが、実際になった者はおらぬはずじゃが?」
「はい表向きは…
魔族堕ちが初めて確認されたのは、
およそ100年ほど前になりますが、確かに起こり得る現象として各国の重要機関が機密文書に記してございます」
クレアさんはさっきからメモを取っていた手帳を確認しながら話している
…それ日記っていってなかった?
「いや、ちょっと待って
なんでアンタがその機密文書の内容を知ってんのよ
普通、そういうのはお偉いさんしか知り得ない情報でしょ?」
すると、少しだけ視線を逸らしたクレアさんは
小さく「…しまった」と漏らしたのを私は聞き逃さなかった
「…ワタクシ、派遣メイドとして様々な場所にてご奉仕させていただいておりまして、
まぁその、各国の王族様からの依頼も多々ありまして」
要するにご奉仕ついでにその国の情報を片っ端から入手するという、およそメイドがやっちゃいけない事をやっていたらしい
「……あくまで趣味にございます」
「うん、それダメだよね?ダメなやつだよね?」
するとクレアさんは深々とお辞儀をして……
「…と、言うわけでございまして
魔族堕ちは存在するのでございます」
図太い、この人相当図太い神経の持ち主だ
「だってさ」
ラヴィさんが深く考えるのをやめたっぽい
「う、うむそうか…それなら、まぁそうなのじゃろうな」
カグヤさんも深入りを避けた
「で、その魔族堕ちってなに?」
「はい、魔族堕ちとは魔族以外の種族が何らかの影響でその本質を歪め、魔族へと変質する現象にございます
特に人間種が陥りやすく、当時魔族堕ちした者たちの九割は人間種であったとも記載がございました
なお、その症状としまして
身体の変質、記憶障害、精神不安定が極めて目立ち、
元の人格からかけ離れた者もいたそうでございます」
ロザリアクイーンは沈黙したまま何かを考え込んでいる
もし、クレアさんの言う通りだとすると……
「じゃあなに?ロザリアクイーンは…」
「元は…人間だったのではと、言いたいのじゃな?」
クレアさんが無言で頷く
そしてみんなの視線が一斉にロザリアクイーンへと注がれた
「ワタクシとしましては、現在のネフェニル様の状態が魔族堕ちの症状に近いと言うのもございますが、
それ以上に気になる事がございまして…」
「気になる事?」
クレアさんは手帳を確認しながら説明を始める
「よろしいですか?
魔女ロザリアクイーン様がこの地に現れたのが2年前、
そしてエステル様のご友人方が巻き込まれたのも2年前にございます
どちらも同じ戦にて起きた事象として捉えれば自ずと答えは出るのではないでしょうか?」
「…そうか、先生が教会とエステルたちが巻き込まれたのを知って逆上し、それが引き金になって魔族堕ちした
そして記憶も精神もおかしくなった先生はその戦に関わったであろう勇者たちを皆殺しにした…ってことか」
王子の推測は確かに当たってるかもしれない
何よりロザリアクイーンからは先生の匂いがしていると王子は言っていたのだから…
「……私が…人間?
なにをバカなことを……」
頭を抱え、ロザリアクイーンの表情がみるみる険しくなっていく
まるであの森で戦った時のように
「カグヤ!」
「わかっておる」
超強力虫除けスプレーをロザリアクイーンの間近で起動させる
その強力な効果でロザリアクイーンは再び気を失った
「記憶もないですしぃ、精神の不安定も…
確かにぃ魔族堕ちの症状ですねぇ」
「クレアさん、魔族堕ちは治せないの?」
「申し訳ありませんマリエラ様
これまでワタクシが見てきた機密文書に魔族堕ちの治療法は記載されておりませんでした
恐らく魔族堕ちから元の人間に戻られた方はお一人もおられないかと」
そこまでで一旦話を置き、
気を失ったロザリアクイーンを再びベッドへ
その後、これからについての話し合いのため、
ロザリアクイーンから少し離れた位置にテーブルセットを配置して、みんな席に着いた
「さて、どうしたものかのぅ」
「あんな状態で連れて歩くのはアタシ反対よ?」
ラヴィさんの言うとおり、
いつ怒り出すか分からない上に、
暴れそうになる度に気絶させてたら時間がいくらあっても足りない
王子の依頼も遂行しなければならない以上、
ロザリアクイーンだけに時間は掛けられない
「ならまず先生の依頼から片付けるってのはどうだ?」
さすが王子、自分より他人を優先させる中々の器の大きさだ
「ぶっちゃけオイラ、今は嫁探しより先生が心配だからな」
「そういえばロザリアクイーンの依頼ってのは、この森で誰にも見つからない住処を探してるってことなの?」
「まぁ恐らくは左様にございましょう
依頼内容は森の案内とだけでしたが、今までの話の流れで言えばラヴィリス様の仰る通りかと」
これは困った
ロザリアクイーンの依頼を優先と言っても、
それはそれで時間が掛かりそうな案件だった
安住の地を見つけるまで終わらなそう
「あのぅ
昔、エステルから聞いた事があるんですけどぉ
ノーフォビアにはぁどんな病気や怪我も治療できる“森の病院”があるって…」
「そういえば……えぇ、ワタクシ存じております
なんでも耳長族が運営する病院があるとか
しかしあまりにも分かりづらい場所にあることから、
幻の病院とも呼ばれておりますね」
森の病院
この広い森のどこかにあると言われている病院だそうで、
詳しい位置も分からなければ、そもそもその存在を疑問視する人も多いとか
けれど、治癒能力の高い耳長族の運営する病院であることから、
どんな病気や怪我もたちまち治るという噂もあるという
もしかしたらロザリアクイーンの魔族堕ちも治せるのかな?
「それ、場所が分からないなら意味なくない?」
「それならぁ、うってつけのぉ人物がいるじゃないですかぁ」
「……ん、メグルさんだ」
何処でも行けるディメンションブレイカーのメグルさんなら、
もしかしたら森の病院にも行けるのかもしれない
私はすかさず通信機でメグルさんに連絡を取ることにした




