竜の花嫁 5
目の前に立っているのは間違いなくロザリアクイーンだった
気怠げな表情でこちらを見つめている
「これ、どういう事!?
……は!
まさかクレア、アタシたちを嵌めたわね!」
無表情で私たちを見つめるクレアさん
もしかして彼女はロザリアクイーンの手下で、
私たちをここに連れてくるように命令されてたってことか…
「……?…何のことでございましょう?」
あれ?違った?
そんな私たちを放置して、クレアさんはロザリアクイーンとなにやらやり取りをしている
「ネフェニル様“名刺”を確認させていただきます」
「……えぇ、これね」
どうやら名刺とかいうものの有無を確認しているようだけど
なんだろアレ?
「…………確認致しました…では、参りましょうか」
何事もなく出発しようとするクレアさん
「いやいやいやいや、待ちなさいよ!
ちょっとは説明して、アンタ本当に意味わかんないわ」
「…あぁ、ご紹介がまだでございましたね
こちら先ほどお話しいたしました、ワタクシの次の依頼人、ネフェニル様にございます」
はい、知ってます、でも聞きたいのはそこじゃない
私たちは一気に距離を離して、近くの木の陰に隠れた
「はぁ…あなた達、別に取って食べやしないわ
まぁこの前は随分とやらかしてくれたけれど、傷も癒えたし問題はないわ
……あぁいえ、そうね、
あの後、やって来たアルカディアの騎士団を巻くのには苦労したわね
それとあなた達のせいで住処を失ったのも痛いわね
……どうしましょう、思い出したら少し腹立たしいわ」
綺麗なお顔に苛立ちの表情が伺える
怖い、ホント怖い
「すっごい怒ってらっしゃいますぅ」
「ん、取って食われるパターン」
「なんつぅ余計な客を連れてくるんじゃクレア!」
遠くから野次を飛ばすチキンハートの4人組
一方、王子はロザリアクイーンを見つめたまま黙り込んでいる
「ちょっと、王子
確認だけど、まさかあれが本当に先生なわけじゃないわよね?」
「う〜ん、すまん
ガキの頃だったしよく覚えてねーや、ガハハ」
こっちは鳥の脳みそだった
「皆様お知り合いでしたか
それならば話が早いですね、それでは参りましょう」
「だーかーらー!待ちなさいってば!
危ないの、その人魔女だから、怖い人だから!」
首を傾げるクレアさん
「この方が?魔女?」
「そう!アンタも離れないと、食べられる!」
遠くから身振り手振りで危険を知らせているのだが、
クレアさんは全くの無関心だ
「だから、食べないわ
何もしないからこちらへ来なさいな」
さっきの表情見て行けるはずないでしょ…
ロザリアクイーンは呆れたように腕組みし、深くため息をついた
「そこの巫女の女神、この魔力の感じ…あなた私の血を使って何かしてるわよね?
それの効力で身体がダルいのよ
こんな状態じゃ何もする気は起きないわ
だから、安心して出て来なさい」
驚いた
超強力虫除けスプレーの効果が本人にも効いている
「む?そんなはずはあるまい
本人の血石の効果が本人に効くなどあり得ぬぞ」
「騙されちゃダメよ!
あいつ最初会った時も騙してたもん!」
「あ〜確かにそうでしたぁ」
再び深くため息をつくロザリアクイーン
今度は頭を抱えて困り果てている
「いや、オイラは信じるぜ
この人そんな悪い感じしねーし」
そう言って無防備に近付いていく王子
やめろやめろと騒ぐ私たち
しかし王子は止まらない
「う〜ん
確かに先生の匂いがするな
けど、魔族の匂いもする
どうなってんだ?」
近くに行った事でロザリアクイーンの匂いを感じ取った王子が、とても不思議そうにまた首を傾げた
「先生?何の事かしら?
でもまぁ、あなたは物分かりが良くて嫌いではないわ
……それに比べてそこのビビりさん達
森で戦った時の勇敢さはどこに行ったのかしら?」
そこまで言われては黙っていられない
「ラヴィさんが行くから」
「ラヴィが行くのでぇ」
「バカエルフがいくゆえ」
「「「ちょっと待ってて!」」」
「こらぁ!アンタらねぇ!」
3人で抵抗するラヴィさんの背中を強引に押していく
「裏切り者ー!…あ、ホントやめて、お願いだから!」
「はぁ…仕方ない子たちね」
いつまでたってもやり取りが終わらないと悟ってロザリアクイーンの方から近付いてくる
「え、いや、ちょっと、なんでアンタが来るのよ!?」
「もう、限界、なの……よ」
パタリ
なぜかロザリアクイーンはその場で倒れたまま動かなくなってしまった
「……先ほど皆様がお話なされていた血石?とやらの影響と空腹による気絶ではないかと存じます
一度休憩所を設けて頂けますでしょうか?」
駆け寄って状態を確認したクレアさんが指示を出す
いまだに不安はあるものの、倒れた人をそのままには出来ない
私たちは言われた通りに休憩所の準備を始めた
ベッドにロザリアクイーンを寝かせ、
様子を見る事に
その傍でエステルさんとクレアさんは食事の用意を始めていた
「ホントに苦しそう」
うなされるように表情を強張らせ、額からは大量の汗
どうやら超強力虫除けスプレーは本当に本人に効いている様だった
「カグヤさん、超強力虫除けスプレー切ってあげて」
「そうじゃな、あと魔除けの血石じゃ
いい加減覚えよ」
しばらくして効果が消えたのか、ロザリアクイーンの表情は穏やかになった
こうして見るととても魔族とは思えない
普通に綺麗なお姉さんなんだけど…
…………………………………………
周囲にエステルさんたちの作った料理のいい香りが広がっていく
それに反応したのか、ロザリアクイーンがゆっくり目を覚ました
すかさず物陰に避難
「……ベッド?
こんなところに?」
「お目覚めですかネフェニル様
お食事の支度が整っておりますので、テーブルまでお越し下さいませ」
ゆっくりと立ち上がり、ヨロヨロと力なく歩く姿に以前のような迫力はない
不意に足から力が抜けたように倒れそうになったので、
思わず私は駆け寄りロザリアクイーンの手を取り、肩を貸す
「あらお嬢さん、ありがとう
……あの変な効力も消してくれたのね、助かるわ」
それを見て少し安心したのか、エステルさんとカグヤさんも側に駆け寄り手を貸してくれた
ラヴィさんはいまだに警戒中
「とても美味しそうね
食事を取るのは何日振りかしら……」
席に座るとホッとしたようにスープを口に運んだ
「……美味しい」
あの日とは全くの別人の様に優しい表情で食事を続ける彼女は、
魔女ではなくただの人間のようだった
「ロザリアクイーン、アタシらが聞くのもアレだけどさ、何があってここに来たのよ」
「ホントにそうね、そもそもはあなた達のせいよ
あの爆発で致命傷を負って、騎士団に追われ、何とかノーフォビアまで来たはいいけれど
頼れる人もいないから落ち着ける場所もなくてね…」
なんとお気の毒な
けども……
「そもそもおぬしが襲って来るからではないか」
「アルカディアの追手だと思ったのよ
……もう2年になるかしら、この辺りで勇者たちとの戦いの後にノーフォビアとアルカディアに追われるわ、魔族からもつけ狙われるわで散々だったわ
1年も逃げ回って、ようやくあの森に逃げ込んだのよ」
お上品に食べてはいるけど、ペースの速い事
相当お腹空いてたんだね
「まぁ自業自得じゃな
それに妾はおぬしのせいで工房を失ったわけじゃし」
「それはあなたが自分で爆破したんでしょ」
「私はぁ投げ飛ばされてぇ壁に叩きつけられましたぁ」
「完全無傷だったじゃない」
「転んだ」
「あれはちょっと可愛かったわね、ウフフ」
おかしい
あの時と全然違う
何なんだろうかこの雰囲気の違いは…
「ちょっと聞きたいんだけどよ、
あんたオイラに見覚えはないか?」
そうだった、ロザリアクイーンが先生なのかという問題がまだ未解決だった
「……さぁ?全くないわね?」
「じゃあミーシャという名前、もしくはエステルの名前はどうだ?
聞き覚えはないか?」
右手を口元に当て考え込む
しかし記憶にないと首を振った
「記憶が無いのか?
いや、そもそも本当に先生なのか?
確かに匂いは先生だけど、先生は紛れもなく人間だった
けどあんたからは魔族の匂いがするんだよな」
するとさっきからまたメモってたクレアさんが割って入る
「ネフェニル様、もしかしてでございますが……
あなた様は“魔族堕ち”なさってませんでしょうか?」




