竜の花嫁 4
「……と、言うことがあったんですよぉ〜」
教会に戻ってきた二人は私たちにエステルさんの過去についての話をしてくれた
エステルさんはいつも通りのニコニコ笑顔だ
「……話の内容とおぬしのテンションに違和感があるのじゃが、実話なんじゃろうな?」
私もそれは思った
「ホントですよぉ〜
この話し方がクセになってから、この話は誰も信じてくれないんですぅ
何がいけないんですかねぇ?」
ズバリその話し方がいけないんだと思います
「これで分かったのは、あの大型アーティファクトが重要ではなく、その中身、
つまりはエステル本人が重要だったわけじゃな
他の研究者がお手上げなのも最もな話じゃ」
「なるほどな、今の話で合点がいったぞ
オイラの知ってるエステルとここにいるシスターは、
名前は同じでも顔も性格も違うからどう言うことかと思ってたんだ」
エステルさんたちが森へ入っていた頃、
私は王子から教会での話を聞いていた
王子は子供の頃、
家庭の事情、つまり半竜半人の件で一時的にこの教会に預けられていたらしい
その時、元エステルさんも一緒にいた様なのだが、
当時はまだ小さな子供で修道服も着てはいなかったそうな
なので私たちのエステルさんが教会の関係者と言われてもピンと来なかったらしい
「まぁそれからすぐに里に戻されたから、
あんたが経験してた事態も知らなかった
もちろん教会が魔族と勇者たちの戦いに巻き込まれてしまったことは知っていたし、すぐに助けにも行ったが、間に合わなくてな…」
「時間軸をまとめますと、
エステル様が目覚め、教会が襲撃されたのが2年前
王子が里に戻されたのが更に5年前、つまり今から7年前という事で間違いごさいませんね?」
隅の方で話を聞いていたクレアさんがなにやら手帳の様なものにメモを取っている
「……ふむふむ、2年前、なるほど
……そして7年前、ほぅほぅ」
とても怪しい
「クレア、アンタさっきから何書いてんの?」
するとついさっきまで寝てたはずのラヴィさんが、
クレアさんの真後ろに立つ
バタン!
光速の速さで手帳を閉じるクレアさん
……とても怪しい
「日記…の、ようなものでございます
お気になさらないようお願い致します」
慌てた様子もなく無表情
さっきの行動は何かありそうだけど、それに関して全く動じない態度が逆に怖い
「あからさまに怪しいわねぇ」
動じない、全く…動じない
「んまぁいいわ、
で、王子はその先生って人には会ったことあるの?」
寝てたと思いきや、ちゃんと話を聞いていたらしい
「あぁもちろんだぞ
先生って言ってもほとんど歳は離れてなくてな
お姉ちゃんってな感じだったな
先生は事あるごとにやって来てはお金や食べ物、服なんかを持ってきてくれたんだ
マジでいい人だったよ」
「ちなみに、その方は“人間”だったのでしょうか?」
再びクレアさんが話に加わる
「種族のことか?
あぁ間違いない、人間だったぞ
オイラは匂いで分かるからな」
「……ふむふむ、これは興味深い」
またメモってる
「となると、最悪その戦いに巻き込まれている可能性もあるのぅ」
確かに
自分の誕生日を子供達が祝ってくるのならば行かないわけがない
そうなるともう……
「困りましたねぇ
もしそうだとしてもぉ、お墓とか分かればこのペンダントを渡してあげられるんですけどねぇ」
元エステルさんから託されたペンダント
エステルさんはそれをどうしても先生に渡したいようなのだ
「いえ、そうとも限らないかもしれません
ワタクシ色々と見えてまいりました」
その言葉にクレアさんへ一気に注目が集まる
……が
「あ、申し訳ございません
調理の途中でしたのでこのお話はまたの機会にお願い致します」
「なんなのよ、そこまで言ってお預けなんてアリ?」
しかしクレアさんは迷うことなく吹きこぼれんばかりの鍋の元へ
「ともかく、アンタの事情はよく分かったわ
ご飯食べたら、まずはお墓に案内しなさいよ
アンタの友達に挨拶くらいさせなさい」
「ラヴィ……」
「ん、私も行く」
「ありがとうマリエラちゃん」
すると空からパラパラと雨粒が降り始めた
それをエステルさんは悲しげな顔で見上げて…
「………今でも、雨は苦手、ですねぇ」
…………………………………
翌朝
夜営の片付けを済ませ、ドラゴン探しを再開しようとした矢先
「皆様、少しお話がございます」
クレアさんがそんな事を言うものだから、
てっきり昨晩の続きかと思ったんだけど…
「実はワタクシ、もう一軒依頼を受けておりまして」
「んじゃ、ここでお別れってこと?」
「いえ、そうではございません
依頼人の方はすぐ近くで合流する手はずとなっておりまして、
不躾なお願いなのは重々承知の上で申し上げますと、
どうかその方もご同行させてはいただけないでしょうか?」
「それって一人だけ?
なら別に構わないんじゃない?」
「感謝致します
その方もこの森の案内を希望されておりまして、
今回の王子の依頼と同時進行可能と判断致しました
更にはマリアベルの方々が一緒であれば、なお快適な森の探索が可能なのではと思いまして…
もちろんその方の分の宿泊費などはミーシャ王子にご請求いだだければと存じます」
「なんでオイラなんだよ!?」
唐突なお願いではあったけど、一人増えた所で問題はない
むしろ今回の依頼は人数が少ないくらいなので、
こちらとしては大歓迎ではある
「では合流場所までご案内致します」
そう促され、クレアさんの後を追う
…………………………………………
歩くこと2時間弱、結構な距離を歩かされた
まぁ魔導車が使える場所ではないから仕方はないけどね
「あーそうだ
アタシ肝心なこと忘れてたよ」
「なんじゃ突然」
「ほら、昨日の話の先生さぁ」
そう言われて私も気付いた
…肝心な事聞き忘れてた
「名前よ、名前!
エステルは知らなくても、王子なら知ってるはずでしょ?」
すると私たちの少し前を歩いていた王子が振り向いた
「あぁ言ってなかったっけか?先生の名前は…」
足場の悪い森の中を抜け、ちょっとした獣道に出る
そこにはこれまでで一番大きな巨木がそびえ、
その下に人影が…
どうやらクレアさんの依頼人のようだ
「先生の名前は…“ネフェニル”って言うんだ」
「「「「え」」」」
あれ?その名前何処かで……
「ネフェニル?なんか聞いたことあるわね?」
「え〜とぉ、それってぇ」
「まさかとは思うがのぅ」
その時、クレアさんが依頼人の前に到着する
クレアさんは少し困惑した顔でしばし依頼人の顔を凝視し続けたあと、いつも通りの無表情に
今の間は何だったんだろう?
「……お待たせ致しました、“ネフェニル”様、でございますね?」
「えぇそうよ
本当に、随分と待たされたわ」
「「「「えぇ!?」」」」
聞き覚えのある声に私たちの視線が一気に集まる
そこに立っていたのは紛れもなく……
「……ロザリア…クイーン!?」
まさかの人物との再会だった………




