支度、出会い、旅立ち
スナックのママ…もとい
ギルドの受付さんは手早く店を閉め、冒険の準備を始めた
「あおいさん」
「…」
「あおいさーん」
「……」
「スナックのママのあおいさん」
「…あ、あぁアタシの事?
違う違う、アタシあおいって名前じゃないから」
うん、2回目くらいで気づいてた
とりあえず名前を聞いてなかったから言ってみただけで
「アタシの名前はラヴィリス
気軽にラヴィさんとでも呼んでちょうだい」
まさかの“あおい”要素がゼロだった
と、なるとスナックあおいの名前が気になるところだけど…
「どうしよう、バナナ持っていくよね?」
それどころじゃなかった
この人、冒険初心者だ、遠足気分だ
「まず武器が必要なんじゃないかと」
「武器かぁ…
聖剣とかあったら楽勝じゃない?」
「あるの!?」
「無いよ」
ポンポンと手早く荷物をまとめていくお姉さん…
ラヴィさん
一通り終わったのを確認して
次は着替え
「今日はちょっと暑いよね?」
「そだね」
待つ事30分
姿を現したのは白いワンピースに麦わら帽子、
それと日傘
あと旅行用のキャリーケースを持ったセレブなお嬢様…
「海外旅行か!
どんだけ浮かれてるのさ」
「え〜だって久々の冒険だもの
オシャレしないと?みたいな?」
「襲われたら囮にして置いて逃げるから」
「oh…」
時間がかかりそうなので一旦家に帰り自分の支度をする事に
仲間候補の居場所は分かっているとの事なので1時間後に現地集合という事になった
家族が離散して家の中にはほとんど物は残っていない
とりあえずは武器になりそうなものを探してみる
「確かこの辺りに…」
押入れの奥
父が刀の様なものを仕舞うのを見た覚えがある
「それにしても汚い
ここだけなんで片付けずに放置なの?」
シルクハットに大量のハンカチ、
大きなボックスにオモチャのサーベル
様々な荷物の先に
「あった」
ちゃんと鞘に収まった刀、薄っすらホコリをかぶっている
こんな無造作に仕舞ってあるとは驚いた
「さて、錆びたりしてなきゃいいけど」
ゆっくりと鞘から刀を抜いてみる
スーーー…ポン!
なんて見事な
「花?」
そう、それは鞘から抜いたら花束が出てくるタネの仕込まれた手品道具だった
分かってた、なんとなくシルクハット出た時に嫌な予感はあった
現実逃避って自分の気付かない時でも起こるものなんだな
「よし、諦めよう」
武器はやめだ
そもそも戦闘要員は後ほど加入予定だ
私が戦う必要はない
と、なれば私の役割はやはり…
日が傾き始めた午後四時頃
集合場所である村の入り口に到着する
見れば冒険者らしく動きやすい格好のラヴィさんが待っていた
「あぁ来た来た…ってなにそれ凄い荷物ね」
ラヴィさんの言っているのは私が引いて来た大きな人力荷車だ
正式な呼び名は知らん
「色々必要なので持ってきました
ところで仲間候補の人は?」
もういるよ、と親指を立て自分の後ろを指した
「あぁ〜あの子がラヴィちゃんの言ってたこの村唯一の冒険者さんだねぇ」
少しほんわかした雰囲気の修道服のお姉さんが村の入り口で野宿していた
てか私、この村唯一の冒険者だったんだな
衝撃の事実
「マリエラです」
「どぉも〜エステルでぇす」
可愛らしく小さく手を振るエステルさん
しかしどうみても…
「教会のシスターさんだよね?」
「そうねぇ野良シスターとか破戒僧とかラヴィちゃんには言われてるわねぇ」
地味に酷いな
「てっきり戦闘要員連れてくるものかと思ったけど…
まぁ回復役の僧侶は必須だとは思うけど」
「え、バリバリの戦闘要員だよエステルは」
「むしろ回復魔法とか無茶振りです〜
通信教育の初級で挫折しましたぁ」
アンタもか!
「エステルは見た目と違って剣の腕がちょ〜一流だから」
「「ねー」」
息ピッタリ仲良いな
なんか嫌な予感しかしないが、とりあえずエステルさんの荷物をチェック
「…ホントだ、剣がある
しかも中々立派な」
「えぇ、以前住み込みで働いていた教会の裏庭の岩に刺さってたものでしてぇ、みんなが“絶対抜けないから絶対抜けないからぁ”って大袈裟に言うものだから、
あ、これはお笑い的に振ってるんだなぁって思って
思い切って抜いてみたらアッサリ抜けちゃってぇ
てっきり刺さってる岩ごと抜けるってオチだと思ったんですけどねぇ〜」
それ、一体どこの聖剣?
「あぁだからさっきラヴィさんが聖剣がどうのこうの言ってたのか」
「え?なんの話?」
関係なかったっぽい
「とにかくぅ、それキッカケで剣術を学ぶ様になりましてぇ
実際才能はあったみたいで免許皆伝したみたいです〜」
「ま、通信教育だけど」
「「ねー」」
その通信教育信用していいのだろうが?
でもまぁ、一人で旅して来てるっぽいのでそれなりに腕が立つと思いたい
「ところでなんで村の入り口で野宿してたの?」
「あ〜それはぁ
この村の宿屋さんがボッタクリ価格でしたので」
ホントすみません
ホントすみません
ホントすみません
「さて、紹介も済んだしそろそろ行こっか
多分森に着く前に日が沈むだろうから、
行けるとこまで行って野宿ね
で、早朝から山頂アタックって事で」
「ん、登山行くんですね、えぇ止めませんよ行ってください」
「アタシ、役に立つ、連れてけ」
なんでカタコト
なんで必死
「とにかく行こ」
「はいは〜い」
『野良シスターさんが仲間に加わった』
「エステルですぅ
せっかく名乗ったのにぃ」
日没が迫る中、
私たちは魔女の住む森へと出発した