勇者随行記録 7
勇者一行の任務を無事に終え、
王都への帰還の準備に入った
「砦はそのままアルカディアで管理することになったよ
地下にこんな酒場があるんだ、騎士たちのここへの配属希望が凄く多くなりそうだね」
ミチルオネェさんの酒場で勇者たちと王都帰還の話し合いが行われた
一仕事終えた騎士たちや、この店の常連の地下民族たちが入り混じりお酒を飲んでいた
……ラヴィさんが今夜もやらかすと思うけど大丈夫なのかな?
「ところでマリエラちゃん、あなたの宿屋はスナックあおいというの?」
ぶーーーーーー!
ハルカさんにとんでもないこと言われてミルクを吹き出してしまった
「けほっけほっ
ち、違う、断じて違うから」
「えー、てっきりウチに吸収合併されてんだと思ったんだけどなぁ」
なんてこと言うんだラヴィさん
そんな変な名前は嫌すぎる
「名前なら決めてある
王都に戻ったら注文した看板を魔導車に取り付けるから」
「ぶーぶー、それアタシ聞いてない」
「おぬしに言ったらややこしくなるから言わないようにと三人で話し合ったんじゃ」
「ラヴィはスナックあおい出張店の看板作る気満々だったですからねぇ」
ホントやだそんな名前
「んじゃそのちびっ子の考えた名前ってのはなんなんだ?」
ぐびっとビールを流し込みオルガさんが話に加わる
マリウスさんは既にオルガさんに潰されていた
…この人今夜の飲み比べどうするんだろうか
「ん、ウチの宿屋の名前は……」
【マリアベル】
「…マリアベル、か
あぁ、いいね
それはステキな名前だ」
「もしかしてぇ、それはぁ」
「まぁそうね、これ以外思い当たらない」
すると勇者一行やエステルさん、ラヴィさんまで自分の荷物から一冊の本を取り出した
『勇者マリアベルの冒険』
アルカディアでは誰もが子供の頃、読んだ事のある有名な物語
もちろん私も持っている
遅ればせながら、私の持つこの本をみんなの本に並べて置いてみた
「凄い、みんな持ってるんだ」
「もちろんだとも
これは僕が…いや、僕の仲間や騎士たちもそう
誰もが憧れた英雄の物語だからね
実は僕が勇者を目指したきっかけの本でもあるんだ」
それは綺麗な栞の挟まれた厚手のカバーの本
大事に読んできたことがよく分かる
「私はぁとても大事な人から貸してもらったものなんですぅ」
エステルさんの本はとてもボロボロで色んな汚れが付いていたけど、
勇者とは違う形で大事にされてきたものだと分かる
「アタシはこれ」
ラヴィさんのは……
『ゆうしゃマリアベルのだいぼうけん』
…児童用の絵本だ
「なぜに絵本?」
「んーとね、アタシ数年前まで読み書き出来なくってさ
これなら読めるかなぁって」
謎だ、この人ホントに謎だ
「美と知恵の象徴たるエルフのセリフとは思えんな
どう低く見ても百年程度は生きておろうに
読み書き出来ないはず無かろう」
「そう言われてもねー
ま、いいじゃない」
とても気になる事なんだけど…
「まぁ良い、してその物語はどういう話なんじゃ?」
どうやらカグヤさんはマリアベルの話を知らないらしい
するとハルカさんが簡単にあらすじを語る
「そうね、大雑把に言えばマリアベルという少女がこの世の滅亡を企む魔王を倒す物語なんだけどね」
これだけだとよくある英雄譚ではある
しかしマリアベルという少女は特別な力があるわけでもなく、
元々英雄でも勇者でもなかった
ただただ普通の女の子だった
戦乱の最中、被害を受けた街に訪れては被害者の手当てやお世話をしながら旅をする
戦いなんてしたこともなく、ひたすらに困ってる人たちの力になる事だけに注力し続けたんだけど、
ある日世界中の人々を絶望させる報せが届く
『勇者死す』
魔王に挑み、もう一息まで追い詰めるも力及ばず倒れたと…
世界は絶望に包まれた
勇者であれば、勇者と聖剣の力があれば魔王は必ず倒せると信じていたのに…
しかしマリアベルだけは絶望しなかった
人々を救う事だけをひたすらやり続けてきた彼女にとって
そこで諦めることは今まで救ってきた人たちを見捨てる事と同じだと
気付けば長い旅の果て、魔王の前に立っていた
魔王の側に置かれた折れた聖剣を拾い上げ、不慣れな構えを取る
すると光を失いかけた聖剣が彼女に問いかけた
『心優しき少女よ
お前の魂は勇者に相応しい輝きである
なれば我はお前を勇者と認めよう
だが我の力はすでに魔王を倒すに至らない
しかし、お前の全てを捧げる覚悟があるのならば
今一度魔王を倒す力を取り戻すであろう』
マリアベルに迷いはなかった
輝きを取り戻した聖剣、しかし戦いの経験のないマリアベルには魔王に近づく術さえない
そこへ魔王の一撃がマリアベルへと迫る
マリアベルは避けなかった
確実に聖剣を魔王に当てるため、
自らの体を貫かせ聖剣の届く間合いまで魔王の方から近づけさせたのだ
聖剣は少女の想いに応えるべく全ての力を解き放ち魔王を消滅させた…
残されたのは光を全て失い鉄くずと化した聖剣と、
それを支えにする形で立ったまま絶命したマリアベルの姿のみ
世界はそうして救われたのだ……
「世界は救われたけどハッピーエンドとは言えないんだけどね」
「けど、マリアベルの生き様は多くの人々の心を揺さぶった
僕たちもその一人だよね」
「ん、だからこの宿屋もマリアベルみたいに世界中の人たちの役に立つ宿屋にしたい」
それぞれがそれぞれの本を手に取り、抱きしめる
「なるほど、それがマリアベルの物語か……
(この話、どこか“あの戦い”に似ておるな…)」
そうこうしていると酒場の隅の空間がボヤける
メグルさんが買い出しから戻ってきたようだ
「ラヴィさん買ってきただよ
しっかしこんな飲めるだか!?」
メグルさんの周りには仕入れてきた大量のお酒が並べられている
「おーありがとうメグル!!
よーし!やるわよみんな!
第2回 シスター&巫女さんのキス争奪戦!」
再び悪夢の宴が始まろうとしていた……




