勇者随行記録 1
澄み渡る空、よそ風が吹き抜ける草原
白く丸いオシャレなテーブルと、
同じく白いイスを並べ、優雅にティータイム
「いい天気ですねぇ」
「あぁ、本来なら昼寝日和と言えるのぅ」
「ん、お菓子も美味しい」
「……これであとは血生臭くなければ最高だったんたけどねー」
そう、ここは今まさに戦場の真っ只中だ
「ハルカ、魔法で敵後方のスライムの群れを一掃!」
「了解!」
「マリウスはオーガを頼む!」
「言われずとも!」
「オルガ、ファイアリザードは任せた!」
「ガッテンだ!」
「騎士団は周囲のゴブリンを各個撃破!
デーモンキングは僕がやる!」
物凄い数の魔物の群れを怯むことなく蹴散らして行く勇者御一行と王都の騎士団
互いの武器が交錯し火花を散らせ、
炎魔法が草原もろともスライムの群れを焼き尽くす
……という、いかにもな戦場の光景を少し離れた丘の上から観戦する私達
「ヒマ、ですねぇ」
「私達の仕事は戦いが終わった後」
「そうそう、終わるまではのーんびり昼寝でもしとけばいいのよん」
「まぁこれはこれで面白い余興ではあるがのぅ」
空になったティーカップに再び紅茶を注ぐ
これで何杯目だろう
作り置きのスコーンはまだあったかな?
戦局は勇者側の圧倒的優勢、敵の全滅は時間の問題だった
「もうじき決着かのぅ」
「そろそろ準備しよ」
私の言葉に一斉にみんなが動く
数人分のベッドを広い草原に並べ、
数セットのテーブルとイス、そして簡易浴槽を置いて仕切りを立てる
エステルさんは大きな鍋を複数用意し、
大量のスープとカレーとシチュー、
もちろんライスは何杯でもおかわり可能なほど準備した
カグヤさんは負傷者の手当のために治療所を準備
カグヤさん特製の回復用アーティファクトによる治療と、様々な状態異常に対応した薬の用意が慣れた手つきで行われた
一方ラヴィさんは戦いの疲れを癒す酒場の準備
エステルさん特製のおつまみを棚に並べ、
数多くのお酒を眺めては……飲む(おい)
ここでもスナックあおいは通常営業だ
ほどなくして戦い疲れた戦士達が重い足取りで丘へと上がってくる
「はいはーい、お疲れ様!
負傷者は手前に治療所を設けてるから並んでちょうだい
もちろん重傷者優先ねー
お腹すいた人はセルフサービスだから適当によそって食べちゃって
こらそこぉ!眠いのはわかるけど先に浴槽で身体洗ってきなさい」
テキパキと騎士達に指示を出すラヴィさん
いつものバカっぽさが嘘のようだ
「本当に助かるよ、
こんな大人数の面倒を見てくれる旅の宿屋は初めてだ
みんなを代表して君達に感謝を」
爽やかな笑顔でお辞儀をする勇者
名前は確かアリアス・ローランドだったか
「ん、仕事だから大丈夫」
「重傷者優先と言っておろう、
その程度はかすり傷じゃ、並び直すが良い
次!」
カグヤさんも負傷者の手当てに大忙し
アーティファクトのおかげでそう時間をかけずに治療が進む
私は食べ終わった食器の山を片付け手早く洗い、
汚れた洗濯物にカグヤさんの調合した洗剤をふりかけ、どこでも蛇口から流れる水でつけ置きする
エステルさんは……
「痛いの痛いのぉ〜飛んでけぇ」
「あざっす!」
なぜか負傷者の列がエステルさんの方にも出来ていた
謎のおまじないを受けご満悦な騎士の人だが、
もちろんキズは回復なんかしてない
「こぉら!戯け者ども、エステルは治療なんぞ出来んと言っとろうが!」
「シスター派か巫女派か
男達の趣味趣向が一発で分かる光景ね」
誘導を終えたラヴィさんが楽しげに二人の所に出来た行列を見てニヤニヤしている
「痛いの痛いのとぉ〜んでけ〜」
「あぁ心まで洗われるようだねシスター」
頭から血を流しながら爽やかな笑顔を絶やさない勇者
…待て勇者、何やってる
「おいバカ勇者
なんでそっちに並んどるんじゃ、おぬしもこっちに来んか」
「イケメン勇者はシスター派、と」
メモってどうする気だ
一通り治療を済ませたカグヤさんがスナックあおいのカウンター席に座り一息つく
騎士団の人たちはそれぞれに食事やお風呂にお酒、そしてベッドで睡眠と、いままでの野宿とは違った夜営を楽しんでいた
「よう、チビっ子!久しぶりだな」
以前王都のギルドで会ったガタイの良いオッサンのオルガさんだ
「まさかお前さんがこんな面白れぇ宿屋をやるたぁなぁ!
てぇしたもんだ、」
ビールを片手に盛り上がってる
「静かに飲めないのか?オルガ
お嬢さん方に迷惑だろう」
この人は確かマリウスという剣士さんだったかな
「へぃへぃ、んじゃ代わりに朝まで飲むから付き合えよマリウス!へへへ」
グイッとマリウスさんをホールドし、酒瓶片手に別のテーブルに移動する
「ゴメンね、うるさい連中ばっかでさ」
魔術師のハルカさんだ
「それにしても、こんな小さいのに偉いわね
歳は幾つなの?」
「13歳」
「「「「「え!?」」」」」
至る所から驚きの声があがる
「あなた13歳なの!?
その割に小さいわね、6歳くらいだと思ってたわ」
よく言われる
ラヴィさん達まで驚きの表情だ
言わなかったっけ?
「妾もそのくらいじゃと思うておうたわ」
「ん、まぁ6年前から変わってないからしょうがない」
「あらぁ成長期がそんなに早く終わっちゃったんですねぇ」
「そうではなかろう戯け者
しかしおぬしの両親は人間と聞いておったが……」
言いたいことは分かる
人間以外の種族、とりわけエルフのような不老長寿の種族であれば見た目と年齢が合致しない事は多々ある
「ん、実の親じゃない」
「え、なにこれ重い話になるやつ?
アタシ結構涙もろいから勘弁して欲しいんだけど」
「別にそんな事ない
6年前に村の近くのあの森でお母さんに拾われただけ」
その時年齢不詳だった私に父さんが“この子7歳くらいじゃね?”と言って、その日から勝手に7歳にされ、
それから6年経ったから
一応13歳ということになってる
「つまり年齢どころか種族も不明なわけなのね」
「ん、そゆこと」
ちなみに拾われる以前の記憶もない
「なるほど、君も大変な運命の下に生まれたというわけだね」
「お、イケメン勇者」
「妙な呼び方しないでくれないかい?エルフのお嬢さん」
(まぁ妾にしてみればおチビどころか、シスターもラヴィリスにも謎の運命があるように思うがの)
「で、ハルカとイケメン勇者は付き合ってんの?」
どの流れでそうなったラヴィさん
「ハハハ、面白いお嬢さんだね
僕とハルカは互いに背中を預けられる仲間、
それ以上でも以下でもないよ」
「…だ、そうよ」
そう言ってハルカさんはオルガさん達の所に歩いて行った
「あれ?ハルカ?どうしたのかな?
すまない、これで失礼するよ
明日もよろしく頼む、それじゃ」
勇者は爽やかな笑顔を残してハルカさんを追っていった
どうやらハルカさんは勇者の答えに不満なようだ
分かりやすい
「ふ〜ん」
「ラヴィさんは勇者みたいのがタイプなの?」
「タイプ……う〜んどうだろね、
そういうのわかんないのよアタシ」
真顔で悩むラヴィさん、本当に分からないらしい
「無理もなかろう
そもそもエルフに恋愛感情というものが無いらしいからのぅ」
「「そうなの?」」
「おチビだけじゃなく、
なんで本人がその反応なんじゃ
考えれば分かるじゃろう」
「分からない」
ウンウンと隣でラヴィさんも頷く
「ふむ、そうじゃな、簡単に教えては面白くないのぅ
……おチビよ、エルフの特徴を言ってみろ?」
そう言われて私が知ってるエルフの特徴を考えてみる
「美人で耳がちょっと尖ってて、金髪
あとバカで物覚えが悪い」
「……後半は完全にラヴィリスの特徴じゃなぁ
ではエステル、ラヴィリスと長い付き合いのおぬしなら分かるであろう?」
隣でお酒を飲んでた、ほろ酔いのエステルさんに話を振る
「んん〜…バカで物覚えが悪い?」
「すまん、妾の言葉が足らんかったわ
ラヴィリスの特徴じゃなくエルフの特徴な」
「も、もぅみんな酷いなぁ、へへへ」
「おぬしもなんでちょっと嬉しそうなんじゃ」
エルフの特徴、かぁ
他に何かあったかな…あ、さっきの話の…
「…そっか不老長寿」
カグヤさんが頷いた
どうやら正解らしい
「まぁ生々しいからザックリ説明するとな、
恋愛感情とは要するに己の種を残すための第一歩であろう?
だがエルフは不老長寿、ゆえに子を残すという行為に積極的ではないのじゃ
もしエルフに人間並みの繁殖力があったらどうなると思う?」
「核の冬が来る」
「エルフの人口大爆発」
「おチビはバカエルフと違って賢いのぅ
その通りじゃ、エルフは千年生きる者もおるからの」
「ふっ、まぁそういう事ね」
ラヴィさんは、今知った自分の種族の情報を、
すでに知ってました感を出してアンニュイな表情を見せる
「まぁそんなアタシでもさ……」
そして離れた所にいる勇者たちの方を愛しむような瞳で見つめ……
「イケメンとゴリマッチョのカップリングもアリかなって、そんな風に思うこともあるのよ」
「なんの話しとるんじゃおぬしは」
今日一の良い表情で言うセリフがそれか




