父さん…暁に倒産す
初投稿です
何もかも初めての事だらけで文才もありませんが生暖かい目でご覧ください
それは私の13歳の誕生日の夜だった
いつも陽気な父は、
いつものように、
いや、いつにも増して明るく大きな声で…
「父さん、倒産しましたぁ!」
笑えばいいのか、絶望すればいいのか
その反応に困る発言に、私も母も沈黙をもって父への返答とした
ウチは宿屋だった
部屋数は2部屋のみ
とても小さく、平凡な宿屋
そして1泊1500ゴールド…あ(察し
「いやぁそりゃそうだよな
ただでさえ小さな村で旅人すら滅多に来ないのに、
誰がこんな高い宿屋に泊まるんだ!ってな話だよ」
え、まって、今更じゃない?
私が生まれる前からやってたよね宿屋
むしろ今までどうやって生活してきたの?
「と、言うわけでだ。
父さん転職です。冒険者になって、最終的に勇者とかになって一攫千金目指します!」
歳考えろ
勇者どころか行き着く先は遊び人か盗賊(泥棒)だぞ
母の大きなため息が場の空気をドンヨリ重くさせていく
「そうすりゃ他人の家入り放題、戸棚開け放題、ツボ割り放題で運が良ければ10ゴールドとか手に入るもんね!」
残念、すでに心は盗賊(泥棒)だった
「だから俺を信じて待っていてくれ!」
…それが父の最後の言葉だった
え、どこのどのセリフを信じろと?
余談だが、今から数年後不法侵入で捕まった事は言うまでもない
とまあそれはいい、過ぎた事だ
重要なのは今後の私の人生だ
母は家を出ていき、もういない
一緒に行こうと言われたが、母に苦労はさせられない
私は自分の力で生きていくと決めたのだ
「私が出来ることは多くない」
宿屋の娘として生まれ、宿屋の仕事しか見て来なかった
けれどこの村で宿屋は無理だ
それは父が身をもって証明してくれた
ならもっと大きな街へ行こう
私は決意する
そこで立派な宿屋になろう
こうして私の物語の第一歩が始まろうとして…
「…あ、お金」
始まらなかった
ポケットの中にはビスケットが一つ
見事に砕けて異様な匂いを放っていた
「誰だよ入れたの」
ともかく、
まずは次の街に行くまでの資金と準備が全く整ってない
と、なればまずはバイトだ
年齢的に普通の仕事はできない
「あらマリエラ、道の真ん中でボーッとしてどうしたの?
そういうとこお父さんソックリね」
近所のおばちゃんだ
サクッと酷いことを言われた気がする
ちなみにマリエラとは私の名前だ
身長138㎝、小さな身体にデッカい魂、
そう、マリエラとは私のことなのだ!
「突然ふんぞり返る所もソックリね」
否、私は父とは違って無口だ
時々何考えてるか分からないとか、
ぽーかーふぇいすマリエラ
なんていう二つ名を付けられたこともある
「おばちゃん、バイトできるとこ教えて」
「おや、バイトするのかい?
そんなに小さいのに、偉いねぇ」
子供扱いはよくある事だ
気にしない
「どこ行けばいい?」
「まぁその歳で雇ってくれるとこはないからねぇ
ほら、そもそもこの村、あんたんとこの宿屋以外店らしい店がないから」
…詰んだ
この村でバイト探すって時点で詰んでいた
「あぁでも確か冒険者ギルドがこの村にもあったかねぇ
誰も行かないから今どうなってるか分からんけど、
一応どんな街や村にもギルドを置く決まりだから、
もしかしたらギルドの受付さんくらいはいるんじゃないかね」
それだ!
ギルドの依頼は年齢関係なく受けられる
そこで依頼をこなせば次の街へ行くくらいの資金はなんとかなる!
はず!
「ん、行ってくる」
「あいよ、行ってらっしゃい」
小さい村とはいえ、小柄な私にとっては中々に広い
“とーきょーどーむ”2個分くらい広い
…ん?なんだ?とーきょーどーむって?
「ついた」
この村の冒険者ギルド
《スナック あおい》
…え?
カランコロンカラン
変な音の鳴るドアを開けるとまるで酒場のような作りの内装が視界に広がる
「あら、いらっしゃい」
驚いた
結構な美人のお姉さんがカウンターでグラスを拭きながら出迎えてくれた
「…て、お嬢ちゃんどこの子?
こんなところに一人で来ちゃダメよ」
また子供扱いされた
ちょっと待って、それギルドの受付さんが言うセリフじゃないよね
「ここギルドじゃないの?」
「えぇギルドよ
まぁ誰も来ないから副業で酒場にしてるけどね」
いやもう本業になってるよね?
ギルドの面影全くないよね?
グラス磨く手つきが手慣れてるよね?
「あぁ、もしかしてギルドの依頼を受けてくれるのかしら?」
「ん、簡単なので稼げる仕事欲しい」
「そんなのあったらアタシがやってる」
ですよね〜
「依頼、どんなのあるの?」
「そうねぇ…」
渡された依頼リストを開く
そこには…
「ビール980ゴールド
焼酎1280ゴールド
ワイン2180ゴールド」
……高くない!?
ちなみに1ゴールドあれば“じはんき”でジュースが買える
ん?じはんきってなんだ?
「あら、それウチのメニューだわ」
お約束だね
「えーと、確かこの辺に…」
お姉さんは中腰になり、カウンターの向かいにある戸棚を捜索する
ミニスカートだというのに恥じらいもなくお尻をフリフリ
中年オヤジならトップスピードで覗きにいくシチュエーションだ
「あぁ〜あったあった」
手渡されたリストには…
「森の魔女討伐」
…しかなかった
詰んだ
これはまさかの展開だった
こんなちっさな村のギルドの依頼がこんなベリーハードな内容とは思わなかった
「レベル1の依頼が欲しい」
「レベルとかないし、
そもそもこの村、その魔女の存在以外平和なのよ」
その魔女いる時点でどうなのよ
魔女って他の地域でも滅多にいないレアなヤツ!
「チェンジで」
「どこで覚えてくるのよそんなセリフ」
これは困った
こんな依頼は達成出来る出来ない以前に、
行ったら帰ってこれない奴だ
…しかし、これ以外私がお金を稼ぐ方法がない
「そうねぇ、まぁあれよ
一人でやろうとしなければいいのよ
基本的にギルドの討伐依頼は数人のパーティ組んで行くものだから」
つまり仲間を募れ、と
はて?この村に戦士的な人なんていただろうか?
カンフーまがいの健康体操してるジイさんしか見たことない
「オーケーオーケー、
特別にお姉さんついて行ってあげちゃう」
「受付嬢って戦えるの?
ごめん間違えた、スナックのママって戦えるの?」
「受付嬢ですぅ〜
スナックのママって言われるほど歳取ってないですぅ
頭パーマかけてないですぅ」
すごい偏見の嵐
スナックのママに謝れ
「アタシこれでもエルフなの
魔法とか使えるし」
「ほぅほぅ」
「こないだ通信教育で初級の二つ目まで覚えて投げ出しちゃったけどね」
「チェンジで」
「ウソウソ、大丈夫よ
中級の最初の方までは読んだ」
読んだ?つまり覚えてはいない、と
「魔女相手だよ?死んじゃうよ?」
「もちろん私以外に強い人探してから挑もうね」
「…これ、お姉さんいらないパターンのやつじゃない?」
「おぉぅ
そう来たか、いいじゃないここヒマなのよぉ
たまには心踊る冒険とかしたいじゃない?」
遊びじゃねーぞこのやろー
「それに、仲間候補なら心当たりがあるわよ
私がいれば話も付けやすいでしょ?」
そういうことなら確かにメリットはある
「ん、わかった」
そんなわけで依頼の受諾と仲間登録の用紙にサインをする
『スナックのママが仲間に加わった』
「エルフの美人なお姉さん、ね」
こうしてようやく私の、宿屋になるという夢の遠すぎる第一歩が始まろうとしていた
見切り発車の作品ですが、なんとなく構想自体は前々からあり、
書き始めたらあれよあれよと言う間にマリエラが勝手な発言をし、スナックのママが余計な事をするという行き当たりバッタリ感の強い作品になっています
作品の手綱を握るのが大変です
暴走したらごめんなさい