気まぐれ猫とご褒美と、
五軒長屋の二階窓から眼下に視線を向けると、しとしと降る雨に濡れた石畳の細道が見えた。
そこをくるくるとベージュ色の傘を回して歩いてくる少女がいる。
傘はやがて川上裕也の住んでいる家の前で止まると、不意に軒先に姿を消した。
いつもの時間にいつもの来客だ。不意にドカン、ドカンと建付けの悪い潜り戸を蹴る音が下かと思うと、訪いを知らせる少女の声音が階下から響いた。
「こんにちは。失礼します!」
勝手知ったるという風に土間でごそごそする気配。そのまま長屋特有の細長い階段をとんとんと駆け登る音が聞こえて、気が付いた時には川上のいる部屋の襖が開かれたのだ。
「……先生、いいかげん玄関の修理やった方がいですよ」
「しょうがないだろ、ボロ家なんだから。修理するなら他に優先すべきところがあるしな。大家さんによろしく言ってくれ」
「そうですね。先にエアコンを直してくれないと、夏になったら勉強に集中できないかもしれません。お父さんに言っておきます」
季節は六月上旬。
梅雨時の気まぐれな天気に振り回されたせいか、学校帰りの少女はブラウスの肩から先が雨で濡れ透けていた。
洗濯済みのタオルを仕舞った場所を川上が指し示すと、少女は当然の様にタンスの引き出しを開けて一枚を取り出す。
「で、中間考査の結果はどうだったんだ?」
「無事に主要科目はどれもクラス平均以上でした。わたしが頑張ったおかげですね」
「……そこはさ、嘘でも先生のおかげと言っておけよ。何にせよよかった」
「そうですか? むしろ先生もわたしの成績がよかったので、仕事を失わずに済みましたね」
「ですよねー……」
不愛想に川上を見返した少女は、柳眉の片側だけを釣り上げてドヤ顔をした。
彼女の名前は御武道凛。細道を挟んで五軒長屋の向かいに住んでいる大家の娘だった。
同時に貧乏大学院生をしながら家庭教師をしている川上の教え子でもある。
高校三年生で受験を控えているという事で、大家に頼まれて勉強を見ているのだが、これがなかなか学業成績もよろしい。
ついでに家庭教師とは言うものの、実際に凛の家で勉強を見たのは最初の頃だけだった。
今では学校帰りの凛がこうして川上の部屋までやって来て、そのまま勉強するのが日常になっている。
ある時その理由を聞いてみたところ、
「それじゃあ、お猫さまと遊べなくなるじゃないですか」
無表情な顔に語気を少しだけ強めてそんな言葉が返って来たのだ。
お猫さまというのは、雨に濡れたニットベストを脱いでいる凛の足元でジャレついている猫の事である。
春先の、川上がこの五軒長屋に引っ越してきた頃からこの界隈に住み着いた迷い猫だ。
一見すると上品な顔立ちで毛並みも良い。きっとどこかの飼い猫が逃げ出したのだろうと川上と凛は当初予想していたのだ。
人懐っこく凛の脚に顔を擦り付けている迷い猫を見ていて、川上は伝えるべき報告を思い出す。
「今日、動物病院に行ってみたよ」
「お猫さまを連れて? 確か写真つきのビラを貼りだしてもらってたんですよね」
「ああ、けどそっちは収穫ゼロだな」
「やっぱり飼い主は見つかりませんでしたか」
「そもそもコイツ。見た目はロシアンブルーみたいな姿をしてるけど、ただの雑種だって言うしな」
「猫は見かけによらないですね」
ぶすりとした顔の凛が、猫なで声を出す似非ロシアンブルーを抱き上げながら溜息を零した。
「お前はどこから来たのですか、お猫さま。あまり先生を困らせてはいけませんよう」
そんな事をのたまう凛であるが、川上からすれば凛もまた猫みたいな性格だった。
普段は何を考えているのかよくわからない、けれど時々勉強でいい結果を出すと甘えてくる。
俺に気があるのかと一瞬勘違いした川上に対して、途端に侮蔑の表情とベタベタしないでくださいと拒絶の態度を見せるのだ。
まるで女子高生の考えている事はよくわからないと、密かに川上が頭を抱えたのも最近の事だった。
「そういうわけだから、お猫さまはまだしばらく俺の家で預かる事になりそうだ。保健所にも届け出はないそうだし」
「お猫さま、いっそそのまま先生の家の子になればいいんですよ。そうしたら、わたしはいつもお猫さまと遊んでいられますね」
「そうもいかんだろ。飼い主がいれば今頃困っているだろ」
「…………」
露骨に拗ねた顔をした凛は、鞄から中間考査の答案用紙を取り出した。
押し付けられたそれはどの科目も九〇点以上ばかり。
すると答案用紙をめくる度に、不貞腐れていた凛の顔が徐々に上機嫌になって来るのが分かった。
「覚えてますか先生、約束」
「全科目の平均が九〇点以上だったらご褒美って話だろ。ちゃんと覚えてるよ」
「なら約束通り、」
「おかしいな。保健体育と音楽の答案が見当たらないけど、どこにあるんだ。ん?」
「むっ……それは受験勉強と直接関係ないから、見せる必要は……」
「全科目の平均点でご褒美って約束だからな、早く見せなさい」
「ちぃッ……」
かわいらしく露骨な舌打ちをした凛が、観念してゴソゴソとスクールバッグを探る。中から二枚の残念な点数の答案用紙を取り出してふたたび不貞腐れた顔をした。
きっと保健と音楽の試験は自分で山を貼っていた場所を大外ししたのだろう。川上も受験に関係ない科目まではテストの面倒を見ていない。
「残念だったな。ご褒美はお預けだ」
「先生はいじわるですっ」
「ははは、約束は約束だからな」
ねぇお猫さま、と近くを通りかかった迷い猫を抱きしめる凛を見て川上は苦笑した。
ご褒美に何を要求するつもりだったのか知らないが、御武道凛の野望はひとまず潰えた。
不貞腐れた凛はますます不機嫌になって、その日まともに口を利いてくれる事は無かったのである。
★
京都四条の烏丸界隈より少し裏路地を入った場所に、川上の住む五軒長屋が存在する。
いわゆる京町屋と呼ばれる古い町並みの面影を色濃く残す集合住宅で、この二階建て長屋は古めかしいわりに繁華街のど真ん中にあった。家賃が安い事と利便がよいので川上もそれなりに気に入っていた。
不便な点をあえて挙げるとするならボロ家である事だろうか。
玄関口の潜り戸からして建付けが悪いので、大家の娘である凛でなくとも家に入る時は潜り戸の扉を蹴りたくなってしまう。
梅雨が真っ盛りの六月下旬の事だった。
午前中を研究室で過ごした後、川上は小雨になったタイミングを見計らって大学を出た。
そのまま近所のスーパーで買い物を済ませたところで、両手に買い物袋を下げて五軒長屋へと帰宅したところだった。
古めかしい施錠を外してたてつけの悪い引き戸をこじ開けたところまではよかったが、スーパーの袋を手に取ろうとした瞬間に入れ違いで青黒い毛玉が家の外に飛び出すのが川上の視界に写った。
「あ、こら。お猫さまっ」
川上が叫んだ時には青黒い毛玉は石畳の細道を駆け出していた。
一度は背後を振り返ってフフンとした顔を見せたけれども、そのまま制止するのも聞かずに似非ロシアンブルーのお猫さまは路地裏の隙間へと姿を消したのである。
「まったく。これだから猫は嫌いなんだよ……」
気まぐれな性格をした青黒い毛玉は、どうやら川上の帰宅を察知して土間で待ち構えていたらしい。
水曜日と金曜日は家庭教師の日だ。
もうすぐ凛が学校帰りに顔を出すはずだし、潜り戸を開けっぱなしにしておけば気まぐれなお猫さまもそのうちに帰って来るだろうと彼は判断した。もしかするとそのまま飼い主の元へ戻っているかも知れないと。
けれど放課後になって五軒長屋へやって来た凛は、その出来事を聞くと目のを色を変えて怒りだした。
「どうしてお猫さまを探しに行かないんですか、外は雨が降ってるんですよ!」
普段はあまり喜怒哀楽を表には出さず、何を考えているのかよくわからない御武道凛である。
けれどそんな彼女が決まって気色ばむとすれば、お猫さまの事だった。
「御武道さん、どこに行くんだ」
「お猫さまを探しに行くに決まってます。風邪を引いたらどうするんですか?!」
先日、動物病院で聞いたところによれば近頃の家猫は屋内飼育が基本になっているらしい。
四条烏丸の繁華街近くにあるこの辺りであれば、交通量も多いし事故に巻き込まれる危険性もある。それに猫同士が喧嘩をして病気を貰ってくる事もあるそうで、何かと放し飼いは危険だと教わった。
「だからちゃんと戸締りは気を付けて下さいって、言ったじゃないですかっ」
「すまん……」
もともとお猫さまは普段から放し飼いにされていた節があるので、川上は無頓着にしていた。
だが凛はそれが気に入らなかったらしい。
「ほら、何しているんですか先生。早く探しに行きましょう」
「え、俺も行くの?」
「当然です。お猫さまはもう何時間も雨に晒されているんですよ。可哀想とは思わないんですか?」
土間に顔を出した凛にそう質問すると、きびすを返した彼女から強い口調で非難されてしまった。
今日の勉強はどうするんだと言いたかったが、そもそも凛は川上が勉強を見なくても成績はもともと優秀だった。一日サボったところで大きな差は出ないだろう。
とは言え大家である親御さんから家庭教師を頼まれている手前、多少の責任は感じる。
「お猫さまだって馬鹿じゃないから、どこかで雨宿りしていると思うんだけどな。表の四条通は交通量も多いし、顔は出さないだろ」
「そんな、まさか、で世の中を甘く見ていたら、大変な事になりますよ。無事なら無事でいいじゃないですか!」
「わ、わかった」
「だから急ぎましょう!!!」
「こら、手を引っ張るな。まだ戸締りが出来てないからっ」
こうして強引に腕を掴まれた川上は、急かす凛に引っ張られる様に五軒長屋の外に飛び出した。
京都の旧市街地の一角を構成する四条烏丸の界隈は、一歩足を踏み入れるととにかく複雑に入り組んでいる。
辻子と呼ばれる京都特有の鍵状に走る路地裏の細道は、古い町並みを残す京町屋が背を寄せ合って並んでいた。
大きな石の花壇かと思えばそれは古い防火水槽であったり、門構えの家屋かと思えばその先には長屋がある。ちょっとした路地に足を踏み入れれば、そこは歴史上の人物が生れた場所であったり、神社の境内の中になぜか民家が立ち並んでいる。
複雑奇怪な京都の旧市街地とはそういう場所で、猫一匹が潜んでいそうな場所はいくらでも存在する様に感じられた。
「おーい、ねこー?」
「そんな気合の入ってない呼びかけじゃ、お猫さまが反応するとは思えませんね」
「お猫さまー、おるかー?!」
「真面目にやってるんですか? 雨音にかき消されてしまいます!!」
「……そもそも名前が無いからなぁ。返事をしてくれるかどうか」
お猫さまに名前を付けていないのはちゃんとした理由があった。
何れ元の飼い主が現れた時、自分たちが後腐れない様にと考えての事だ。
放っておけば凛が勝手に名前を付けて愛着を持つようになり、飼い主に引き渡す時に後ろ髪惹かれる思いを抱くかも知れない。
けれど数か月も五軒長屋で過ごした今では、五軒長屋の界隈で「お猫さま」の愛称が定着してしまっている。
「だからわたしは言ったんですよ先生に、ちゃんとした名前を付けてあげようって」
「……正直すまんかった」
「お猫さまが帰って来たら、お猫さまにごめんなさいをしてくださいね。変なあだ名をつけた事」
「ぐぬぬっ……」
さすがに交通量の多い昼間の内から四車線の大通りを越えて移動しているとは考えにくい。
その手前側にある雨宿りのできる長屋の軒下や、町屋同士の細い隙間を覗く様にして小一時間あまり探し回った。
結果は散々で、傘のさせない細い隙間を探索するものだからびしょ濡れになってしまったのだ。
「ちょっと待って、御武道さん」
「何ですか先生」
「一旦帰って、服を着替えてから出直さないか。もしかしたらお猫さまが入れ違いで家に戻ってきているかもしれないし」
「…………」
ぐっしょり肩を濡らした凛を諭して、川上はそう言った。
傘を差しだすと大人しくその中に身を寄せる。
雨のせいですっかりブラウスが透けてしまっているので、彼は教え子をあまりじっと見ない様にして帰路を急いだのだが。
「……あっお猫さまだ」
「へっ」
「ほらあそこにいた。お堂のひさしの下で丸くなってる!」
五軒長屋の巣ご側までやって来たところで突然、凛が跳ねる様に声を弾ませたのである。
見れば確かに神様を祀ったお堂の下で、青黒い毛玉が丸まっている姿を目撃した。
すぐにも川上に向き直り、傘を押し付けて飛び出していく。
「こら待ちなさいお猫さまっ」
「ニャー!」
「どこに行くの、ほら雨でしょお家帰りましょうっ」
急に凛が飛んで行ったからだろうか。お堂の軒下で雨宿りをしていたらしいお猫さまは、ピンと尻尾を立ち上げてどこかへ駆けだそうとする。
どうやら逃げ出したというよりも、凛と追いかけっこをして戯れているという様子だ。
彼女は必死になって右に左にと追いかけようとするけれど、お猫さまはヒラリヒラリとかわしながら飛び跳ねて、こっちへおいでよと振り返っていた。
「もう、心配ばっかりかけて! 大人しくしなさいっ」
珍しく語気を強めて叱る口調になった教え子を見ていると、川上はたまらずクスクス苦笑してしまった。
「笑い事じゃありませんよ! 先生も見てないで手伝ってくださいっ」
「すまんすまん。ほら猫、おいで……」
ようやく観念したのか遊び飽きたのか。
とてとてと川上の足元へすり寄ったお猫さまを凛が捕獲すると、ぶすりと不愛想な顔をした凛はお猫さまと彼の顔を交互に見比べた。
ますます不機嫌そうにしながらも川上の差し出した傘の中に入る。
「びしょ濡れだ。帰って服着替えないとな」
「誰のせいでこんな事になったと思っているんですか」
「お猫さまのせいだろ?」
「先生のせいです!」
「お、おう……」
「……やっぱりご褒美をもらわないと、わたしの気が済みません」
川上が歩き出すと、明後日の方向を見ながら凛がそんな事を小さく口にした。
聞こえるか聞こえないかという微かな声だったけれど、やはり頑張りにはご褒美で応えてあげるのも先生の務めだろうか……
などと彼が頭をボリボリかいていると、
「くしゅんっ……」
お猫さまを抱きしめている凛が、かわいらしいクシャミをしながら川上に身を寄せた。
「寒いです。やっぱり先生のせいです」
「……ご褒美、何がいいか考えとくといいよ。何でも言ってくれ」
「いま、何でもするって言いましたよね?」
今度こそ約束ですからね。
そんな風に川上の顔を見上げた彼女は、珍しく満面の笑みを浮かべて口にしたのだ。
◆
七月を迎えて梅雨は終わりを告げた。
結局のところお猫さまの飼い主は未だに見つかる事も無く、青黒い毛玉は五軒長屋の川上宅で飼い猫然と過ごしているままであった。
そうして祝日の海の日を迎えると、川上は教え子の凛とご褒美の約束を果たす事になった。
「先生何してるんですか、急ぎましょう」
相変わらず凛の態度は無愛想なところがあったけれど、時々に何を考えているのか川上も観察をしているとわかる瞬間がある。
例えば今は言葉にこそ出さないが、この日を心待ちにしていたのは間違いない。
「ちょっと待ってくれ。運転で緊張したから、ちょっと休憩したいんだけど」
「何言ってるんですか先生、まだ来たばかりなのに。休憩するのは遊んでからでいいじゃないですか」
「こ、こら急に手を引っ張るな!」
「先生は運動不足だからいい機会です。一杯泳いで体を動かしましょう」
琵琶湖の浜辺が見える湖水浴場で、あわただしく車を降りた川上は悲鳴を上げた。
凛の父親である大家に車を借りてここまでやって来たのは、彼女がご褒美に海へ遊びに行きたいと言ったからだった。
「本当なら海に行くところを琵琶湖で我慢してあげてるんですからね。今日は約束通り、一日わたしのお願いにお付き合いしてください」
「わかった。ほら、更衣室はあっちだから着替えておいで」
とは言え、普段は大学の研究室に籠りきりの川上は免許を取ったきりのペーパードライバーだ。
遠くの海まで足を延ばすのは少し怖かったので、近場の琵琶湖で凛には我慢してもらう事になった。
そのぶん今日は何でも言う事を聞いてくださいと、意外に押しの強い彼女に約束をさせられてしまったわけである。
案外子供らしいところもあるなと、はしゃいでいる凛を見て川上は破顔した。
「先生はどうするんですか」
「俺はホラ、この下に海パン履いてきたから」
「……そうですか。まったく、相変わらずの面倒くさがりですねっ」
「え、海とかプール行く時とかやらない?」
「やりません」
そんな次第で、今日はお猫さまにお留守番をさせて湖水浴場に来たわけだが、川上とふたりきりというのが今ひとつ解せないところではある。
友達と一緒に連れて行ってくれと頼まれるのかと思えば、それでは意味がないらしい。
この子には学校に友達がいないのだろうかと少し心配になったのだが、それを口にするとこっ酷く罵声を浴びせられた。
であれば川上が思いつくのは、はじめからそういう理由で凛がご褒美をおねだりしたという事だ。
彼女が更衣室から出てくる間、さすがにそれはないだろうと自らの考えを否定してたけれど……
「お待たせしました先生」
声のする方向へ振り返ると、そこには水着の上にパーカーを羽織った凛の姿が飛び込んでくる。
どういうわけか、いつもは無愛想な顔を気恥ずかし気にモジモジとさせて、上目遣いに川上を見上げていた。
けれどツッコミどころはそこではない、学校の水泳授業でもあるまいに何故だか凛はスク水姿で押し黙ってじっとこちらを見ているのだ。
どう反応してよいものか究極に困ってしまう川上だ。
「そ、その格好……」
「かわいい水着を選びにいったんですが、なかなかこれというのが選べなくて。結局悩んでいるうちに当日になってしまいました……」
だから授業で使う学校指定の水着になったそうだ。
「ごめんなさい。かわいくない水着で」
「いや、謝る事はないよ。御武道さんは何を着てもかわいいし」
「本当ですか!!!!」
それならば去年までの水着でいいじゃないかと川上は思うわけだが、
「胸のサイズが合わなくなったので駄目でした」
「ははっ、それならしょうがないね」
「しょうがないですね。それに先生の部屋にあったエッチな本は、どういうわけかスク水が多かったですよ。わたし知ってます。先生はこういうのが好きなんですよね?」
「勝手にひとの本棚を漁るんじゃありませんッ」
「す、すぐ見つかるところに置いている先生が悪いんですっ」
そんな言い訳をして、ようやくクスリと笑って見せる凛に。
どうやらわざと学校指定のスク水を選んで来た疑惑まで浮上してきたではないか。
さすがにここまで来れば、川上でも彼女が何を考えているのかわかる。
「それじゃ浜辺まで行こうか。忘れ物ない?」
「ま、待ってください先生っ」
「ん?」
遠回しに凛の要求していたご褒美というのは、川上とデートに出かける事だったのだろう。
その照れ隠しに顔を真っ赤にしながらも、凛はこう告白したのである。
「先生はこんな女の子、嫌ですか……?」