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逆転楽土の眷縁主義者  作者: 椋之 樹
Act1 最終決戦開幕
7/22

暗雲



 他の低い建物比べて高く設計された、総督会専用の建物の一室。

楽土内を一望出来る大きな窓が一面に敷き詰められている。

 幾多のモニターと、無限に近い資料が几帳面にも棚の中に整理されており、まさに性格が滲み出ている部屋で、総督会の真武は自分の眼鏡を床に叩き付けた。

「くそっ!!くそくそくそッ!!こんなことが許されるのか!?奴隷が主人登録をすることを承諾するだと!?一体、会長は何を考えているのだ!」

 鳴継琉星の主人登録を承諾したのは、楽土の全てを取り仕切る総督会の頂点に立つ会長。

 麒麟きりん)という名の人物だった。

 主人登録にあたって、麒麟の出した答えは……。

「面白そうだから」

 という、まさかの解答だった。

 しかし、権力が全てという信条を掲げる楽土では、目上の人物の命令は絶対。

 だから麒麟から電話が掛かってきた時は、致し方なく従う他なかったのである。

「荒れておるなぁ、真武」

 近寄りがたい雰囲気の彼女に気兼ねなく話をしてきたのは、大きな窓に背を預けて腕を組む少女だった。

 動きやすそうな軽装から覗く胸元からは鎖帷子がチラつき、まるで忍のような風格。肩辺りまで伸びた流れるような黒髪の、一房を横で結び、ワンサイドアップでまとめている。荒れた様子の真武に気圧されることもなく、冷静に振舞っているところを見ると、相当肝が据わった性格をしているようだ。

つばめ…………ふぅ。頼んでいた事柄は調べられたのか?」

 燕を見た真武は、一度息を吐いて落ち着きを取り戻した。

 一方の燕は、彼女に小さなメモリー端子の様な物を投げて寄越す。

「あぁ、しかしまた突然厄介な仕事を持ちかけてきたものじゃ。そんなこと調べてどうするつもり?ヨーロッパ連合国の『戦争物質ウォーマター計画』の記録なんぞ……」

「余計な検索はするな。お前達下っ端は幹部の命に黙って従っていれば良い」

「……はぁ、相変わらずの徹底した距離感で、むしろ清々しいなこりゃ。かなり複雑なセキュリティを突破してようやく手にした情報じゃ。少しぐらいは労って欲しいものだが」

 呆れた様に首を振る燕を傍目に、真武はメモリー端子をパソコンに接続して内容を閲覧する。

 だが、そこに望みの情報は一つも乗っていなかった。

「……チッ。やはり簡単に手に入る情報はアテにならないか」

「簡単じゃなかったがな」

「ヨーロッパ連合国の残虐的な軍事作戦、『戦争物質計画』……二年前に凍結されたと同時に、ヨーロッパ連合国の軍事的な表立った動きが完全に途絶えた歴史的な分岐作戦。この計画の完成形に居たのが、あの紫姫の筈だ」

 リュアは今から半年前、偉華坂に連れられる形でやってきた。戦争のキーとも言える戦争物質の来訪に初めこそ驚いたものの、事を荒立てなければ何も心配する事はないと考えていたのだ。

 だが、そこへあの鳴継琉星が、まさかの逆転を起こした。

 紫姫は世界戦争に不可欠の存在である筈。

 それが要人から奪われたことで、元々の所有者から責任問題を押し付けられる可能性もゼロではない。だから少しでも、向こう側の内部事情を知ろうと思ったが、どうやら無駄足だったようだ。

「問題は……」

「紫姫を連れてきたのがヨーロッパ連合国ではなく、アジア帝国の要人だったこと」

 一人で思考にふける真武の呟きに、燕が鉄串のような物を指先で回しながら横槍を入れてきた。

「……何であの男がヨーロッパ連合国の切り札を持っていたのか……ヨーロッパにとってはもう必要がなくなったのか?それともまさか、もう何処かで灼姫を超える戦争物質が、既に完成しているのか……?」

 何やら隠された意図があるような気がしてならない。それにあの時偉華坂が口にした『90N号』という単語も、気にかかる。

「面倒なことが起きなければいいが……」

 一方の燕は、部屋の中に紫色の蝶が入ってきたのに気付き、弄っていた鉄串を慣れた動作で投げ放つ。

「紫姫のリュア……それに鳴継琉星……ねぇ?飛び立てるのかのぉ、この地獄から……」

 鉄串は紫蝶の羽を捉え、壁へ突き立ててられていた。

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