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逆転楽土の眷縁主義者  作者: 椋之 樹
Act1 最終決戦開幕
3/22

混血決闘




 楽土には四分割にされた二十五個のエリアがある。

 それらを、規律や行事等を取り仕切る『総督会』の四人の幹部が、一まとまりずつ管理、監視を受け持ち、秩序を守っていた。

 主人同伴や、莫大な賞金が動く混血決闘では、四つの大部分に一つずつ設置された大型コロシアムで、総督会監視の元で開始される。これは主人への配慮と、考え得る不正を防ぐ為だと言われている。

 それでも、超能力が飛び交う闘技場では自然と熱気が漂うものだ。これを楽しみにしてやってくる人物も決して少なくはない。

 今この瞬間、一つの戦いが終わった直後でも観客席は大きな盛り上がりを見せていた。

 そんな中、たった今決闘を終えた大男が不思議そうな面持ちで、コロシアムの観客席に上がってきた。

「今日はもう混血決闘がある予定は聞いていなかったが……誰かの飛び入りか?」

 ガタイが良く、成人男性の身長よりも頭一つ抜けた身長に、無表情で強面な印象が滲み出ている男。彼も楽土の戦隷士であり、名前はアルヴァだ。

「どうも毎度でさぁ!」

 訝しげな顔で様子を窺う彼に話しかけて来たのは、馴染みの商人と車椅子に乗った少女だった。

「聞きましたぜ?さっきまでの決闘、力技だけで圧勝だったそうじゃないですか!?流石っすねぇ!」

「やっほほーいアルヴァクン。馬鹿力は健全なようで何よりだよ」

「万右衛門に……琉星の主人の、なんと言ったか……電子レンジみたいな名前だったか?」

「オーブンレンジじゃないよ、レジダプアだよ?」

「あぁ、確かそんなふざけたあだ名だったな」

 アルヴァの発言にレジダプアは一瞬肩を落としたが、咳払いをしてから闘技場に身体の正面を向ける。

 レジダプアとは面識は薄いが、アルヴァは万右衛門や琉星とよくつるむ間柄だった。

「お前達は知っているか?どうやら、この後に飛び入り決闘があるようだが……」

「私の奴隷だよ」

「琉星が?そう言えば、奴はもう少しで十億が貯まると言っていたか。つまり、これが奴にとって最後の決闘になる、ということだな」

「あー、えっと……そんなめでたい話で終われば万々歳なんですがねぇ……?」

 万右衛門の言葉に眉をひそめる。

 それから万右衛門とレジダプアは、今までに起きた一通りの事情を話し始めた。

 琉星がどういった経緯で、今回の決闘を始めたのか、を。

 そのあまりにも危険な綱渡りを耳にしたアルヴァは、柄にも合わずに顔を歪めて疑問を口にした。

「……何故、そんな無謀極まりない提案を持ち掛ける必要がある?」

「それはこちらが聞きたいんでさぁ……」

 レジダプアがこちらを見向きもせずに言う。

「でも今の段階までは恐らく、琉星クンの思い通りに事は進んでいる筈だよ。自身の懸賞金の高さを提示することで、金にがめつい偉華坂に決闘成立の足枷をつけた。問題は偉華坂本人にとっても痛手である、“主従契約の破棄”を承諾してくるかどうかだったけど……」

「そちらもあっさり承諾してましたねぇ。よっぽど、あのリュアって女の子に自信があるってところなんでしょうか?自分で戦うわけじゃないってのに、傲慢な男でさぁ」

「それも琉星は考えていなかったのか?相手はあの『紫姫』だろう?いくら何でも、相手が悪すぎると思わんか?」

「ですよねぇ、あんさんもそう思うでしょう?」

 紫姫の噂はアルヴァの耳にも入っている。

 最近期待の新生として急激に名を挙げており、初決闘から今まで負けなしの化け物染みた少女だ。聞けば、彼女に自分で挑もうとする無謀者は今となっては皆無で、殆どは主人の偉華坂の権限で結ばれた決闘ばかりであるらしい。

 その中には楽土きっての歴戦の戦士も含まれていたが、どれもが紫姫の手によって打ち砕かれ尽くされている。

 いくら琉星と言えども、無謀としか思えない決闘だ。一体何を考えてこんな舞台を作り上げたのだろうか。

「でもさ、君達。いくら相手が未知数だからって、肝心なことを忘れていないかい?」

「なに?」

 レジダプアはあくまでも冷静に、微笑みつつ前を見つめていた。

「幾度の戦いを見届けている君達なら分かっている筈だよ?楽土脱出の資金を貯めることが、一体どれだけ大変なのかってことがね」

「……あぁ!確か脱出の資金を貯めるのには、通常五年近くは掛かるって話でしたっけ?」

「そう、彼は大した才能もないにも関わらず、たった二年間であと一歩にまでこぎつけた、努力型の実力者だよ。その中で、もちろん負けもしたし、挫折もあった。だけど、その全てを乗り越えて、彼はこの場に立っている。だから、例えどんな力の差があろうと私は信じるよ?彼のこれまで歩んできた道を、ね?」

 前々から思っていたが、この女は主人として本当に変わっている。

 奴隷のことを想いやり、信じるという言葉が出ることが自体が、常識的に考えられない。

 だが、レジダプアの言うことには不思議な説得力があった。それに、アルヴァも同じ様に、琉星の奮闘ぶりを見てきた者の一人だ。

 ならば、見届けるとしよう。

 勝とうが、負けようが、鳴継琉星の魅せる最後の戦いを。



  ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽



 砂が敷き詰められて砂塵が舞うフィールド。

 観客席から降りかかる人々の目線、好奇心、熱気が決闘者の心を燻る。

 この場は幾多の戦隷士達が戦い、命を散らす、呪われた会場。

 娯楽で見ている裕福者からすれば、下劣なやり合いに過ぎないかも知れない。

 だが、ここは間違いなく、無尽蔵な数の感情が放出され、混合された場所なのだ。一概に人と人の決闘場という言葉だけでは到底収まりきれない、沢山の想いが詰まっている。

 こうして、砂地を手で触れるだけでも、電撃を受けている感覚に襲われるくらいだ。

「ある意味心が洗われるな……」

 混血決闘ゴアデュアルのルールは至ってシンプル。

 戦って、勝った方が勝者である。

 命を落とす、気絶する、戦意を無くす等、戦闘実行不可能と判断された場合、又は相手が棄権を申し出た時点で勝敗が決定。それに加え、主人の加入を禁止している。

 だが、意外なことに第三者の乱入は許可されているのだ。誰が誰を倒したかはAI機能が搭載された血束器が判断し、賞金も手に入れることも出来る。大混戦になるのであまり好む者はいないが、決闘が始まったらその時点で無秩序なバトルフィールドと化することだけは忘れてはならない。

 そして、それら全ての運営と進行、管理を担当しているのが、琉星とリュアの間に立つ人物、総督会の幹部だ。

「では、改めて双方の決闘条件を確認する。『紫姫』リュアが勝利した場合は、鳴継琉星の懸賞金を全額強奪。鳴継琉星が勝利した場合は、偉華坂國彦とリュアの主従契約を破棄。両者、間違いないな?」

「……(コクリ)」

「おー、問題ない」

 強面で眼鏡が似合う女性は、名前を真武まなぶ。全身をフィットしたスーツで包み込み、黒髪ショートカットの前髪をピンで留めている。総督会幹部の一人で、メンバーの中で最も生真面目な性格をしており、異様なくらいの堅苦しさから、風紀委員長と言われている。

 真武の出した条件にリュアはただ一度頷き、踵を返した。

「リュア!……正々堂々と、やろうな?」

「……」

 琉星の言葉に一度立ち止まり肩越しに睨み付けてくるが、直ぐにまた歩き始めた。

「……あいつ……」

「身体能力A、思考力A、殺傷力Sに……潜在能力がS……」

「ん、何ブツブツ言ってんだ?」

 タブレットらしき物を操作しながら何事かを呟く真武に声を掛ける。

 彼女はこちらを見抜きもせずに答えた。

「最近は、見た目もしくは賞金の高さで決闘の有無を決める馬鹿が増えてきた。だから一人一人の能力値を数値で表し、決闘相手の戦闘レベルを一目で判断出来る目安を付けることにした。貴様のような脆弱者が馬鹿なことをしでかさないようにな」

「……相変わらず、手厳しい言い方だこと」

 出会った当初から何故か敵対心丸出しであり、事あるごとに五月蝿く口出しをしてくる面倒な人物だった。

 権利が絶対である楽土では、管理者である総督会に逆らう事は出来ない。その為、どれだけ嫌味な要求をされたとしても、従う他道はないのである。

「ちなみに、だ。現在推奨中の、懸賞金ランクというものがあるのだが……その中で、お前は“百万級”、そっちの灼姫は“那由多級”というランクに位置している」

「……な、“那由多”……?それに比べて俺は、ひゃ、“百万”?……文字通りに天と地程の差が……」

「周りの者から止められなかったのか?まだ未完成の戦闘データとは言え、我々が導き出した数値ででも貴様の勝機は皆無だ」

 数学的な話で言えば、百万は十の六乗であり、それに比べて那由多は十の六十乗だ。

 単純に計算して、力の差がおよそ十倍。

 総督会の目線では、琉星とリュアの間にはそれ程の埋めきれない戦力差があるらしい。

「……圧倒的、か……ま、別に数値で勝敗が決まる訳じゃねぇし、どうでも良いか」

 すると、真武のいつもの叱責が始まった。

「貴様の、そういうところが大っ嫌いなんだ!」

「な、何だよ、急に……」

「わざわざ勝ち目のない戦いに身を投じようとする無謀さには、吐き気すら覚えるな!それで今まで何度も何度も死に掛けたのを忘れたのか!?まるで叩かれるだけしか能がない鬱陶しいハエの様だッ!」

 かなり酷い批判だが、琉星も一切引く素振りも見せなかった。

「ハエも懸命に生きているし、その鬱陶しいハエが、楽土脱出の一歩手前、つまりは勝ち目前まで来たんけど?」

「ふん。いいか?始まる前に言っておく。お前達奴隷が何を考えつこうとも、出来ることなど何も無いと心得ておくんだな。粋がるなよ?この絶対的弱者が……!」

 確かに、楽土の奴隷は外の世界からすれば、経済力も発言力も持っていない弱者だ。さらに言えば、人間としての権限も捨て、戦いの奴隷として命を懸ける愚かな人種でもある。

 誰も彼らのことを擁護しないし、気にかけることすらない。

 それが、楽土の奴隷。

 彼女の言うとおり、全世界の底辺に立つ絶対的弱者だ。

「弱者、ねぇ……?」

「……なんだ。何か言いたいことでもあるのか?」

 揺るぎない事実を突きつけられても、琉星は落胆も、動揺もしなかった。

「別に。ただ、権力も力も関係ねぇよ。俺の道をこじ開けるのは、この俺だけだ」

 ただ純粋に、困難に立ち向かう。

 そして、戦う。

 それが、鳴継琉星の戦隷士としての姿なのだから。

 琉星の揺るぎがない視線に、真武は一瞬眉を潜めてから後ろに下がった。

「その減らず口も、今日この瞬間で、全て終わりだ。どう足掻いても開かない道もあるということを存分に思い知れ」

「……終わらねぇよ。俺が俺として折れない限りはな」

 直後、コロシアム内に一筋の風が吹き抜けた。

 琉星は拳を打ち付け、前を見据える。

 前には、暗い表情を浮かべる紫姫の姿。

 そして。

「今ここに、『紫姫』リュアと鳴継琉星の決闘開始を宣言する!血で血を争い、己の欲望を果たすがいい!!混血決闘────始めッ!!」

 真武の宣言により、無謀な決戦の火蓋が切られた。

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