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06 尋問

次話投稿する時、よく見たら「アクセス解析」なるちょっとカッコいい項目が。見てみたら2000PV越えてました。

私の中の時が止まりました。

だって「良くて100PV行くかな?PVってどこで見るんだろ?」とか思ってたんだもん

(´・ω・`)

ビックリしました。有り難うございます。趣味で書いてるから駄文になると思いますがどうぞお付き合い下さい。

シン達は赤髪赤眼の男とその他に連行されながら要塞都市バルガドの堀の外側を歩きながら男に問いかける。


「なぁ、名前を聞かせてくれないか。お前の事をどう呼ぼうか考えたが、やはり名前を聞くのが一番手っ取り早い。」


「そう言えばまだ言って無かったな、お前を尋問するよしみで教えてやる。その無駄に長い髪に隠れた耳かっぽじってよく聞け、俺の名前はグレン。グレン・ライズノットだ。参考までに俺をどう呼ぼうとしていたか教えてもらおうか、小僧。」


「そうか、俺の名前はシン。シン・クロノスだ。覚えやすい名前で助かったよグレン(紅蓮)か、良い名だな。それとお前の呼び名だが、本当に知りたいか?」


どこかからかうようにその口に笑みを浮かべるシンにグレンは額に青筋を浮かべた。


「そのやたらとムカつく笑みから察するにロクな呼び名じゃなさそうだな、クソガキ。」


対してシンは『煽らないで~』と視線を向ける三人娘に少しだけ優しい笑みを向けると口を開く。そしてシンに笑みを向けられた三人娘は少しだけ頬を紅潮させ、次の瞬間シンの口からでた言葉に一気に血の気を失う。


「おぉ、良く分かったな坊や。ご褒美にこれ以上からかうのは止めてあげよう。」


次の瞬間、何処かからブチッという音が聞こえた。その音源は言わずもがなグレンの頭に浮かぶ青筋である。


「こんのクソガキがぁ!! こっちがガマンしてりゃあ調子に乗りやがって!! 今すぐ叩き斬って「落ち着いて下さい隊長」がふぅ!?」


グレンが腰に帯びた剣を抜こうとした時、グレンの左側にいた隊員がグレンの側頭部に綺麗なハイキックを入れた。

頭から地面に突っ込むグレン。かなりの威力である。そして漫画の様に三メートル程地面を顔で滑った後、仰向けに倒れてピクリとも動かない。


心配したのか三人娘が近寄って声を掛けている。ディアーチェは落ちていた手頃な枝でグレンの頬をツンツンしていたが。

ハイキックをした隊員がスタスタとグレンに近付くと


「隊長、起きてください。」


と言いながら足を上げグレンの顔の上に持っていくと、そのままグレンに向かって踵落としをした。

シンは流石に死ぬんじゃないか? と思い止めようとするも別の隊員に「いつもの事だから」と言われ気にしない事にした。だが人の頭が粉砕される場面はまだ三人娘には早いだろうと思い三人娘の目を隠そうとしたところで、グレンが目を開き叫びながら隊員の踵落としを転がって避ける。


「だあああぁぁぁあっぶねぇ!! フラウ! てめぇ俺を殺す気かぁ!!」


横に一回転して足三個分は離れたはずなのに途中で軌道修正したのか、グレンの顔のすぐ横に突き刺さった足を見てグレンはフラウと呼ばれた隊員に声を張り上げて抗議するも、


「えぇ、そうですが?」


それがどうかしたんですか? と言わんばかりの態度で返されて固まるグレン。


「どうしたんですか? 何か問題でも起きました?」


「お前の俺に対する態度が大問題だ!! 一応俺隊長だぞ!?」


「自分で一応とか言ってる人が何言ってるんですか? からかわれた位で剣を抜くなんて除名処分ものですよ。馬鹿ですか? 馬鹿ですよね? 馬鹿ですね。」


「おい!! 最後言い切っただろ!? 俺じゃなかったら不敬罪だぞ! コラ!」

 

「貴方様よりも貴族という枠に囚われない貴族様はおりません。どうかその民草と同じ様な寛大なお心で私の不敬をお許し下さいませ。」


「お? そ、そうか?まぁそこまで言われちゃ仕方無いな。許す。」


「馬鹿だな」


「馬鹿ですね」


「馬鹿でしょう?」


「馬鹿なのか?」


「お馬鹿さん?」


上からシン、クローディア、フラウ、フェニーチェ、ディアーチェである。


「何だってんだよ! コノヤロウ!! 嬢ちゃん達は兎も角、クソガキ! てめぇは年上を敬うって事を知らねぇのか!!?」


「お前より俺の方が遥かに年上なのだが………まぁいい、お前自分が今何と言われたか正確に理解して許したのか?まぁフェニーチェとディアーチェは今一つ分かって無かった様だがな。」


「何って……誉められたんじゃねぇのかよ?」


そこでシン、クローディア、フラウは大きな溜め息をつく。


「おい、フラウと言ったか? こいつは本当に貴族なのか?」


「はい、これでも一応ライズノット公爵家の次男なのですが……」


「おいおい……もしこいつの兄が死んだらその公爵家は潰れると断言する自信が俺にはあるぞ」


「だから何なんだよ! 俺そこまで言われるような事したか!?」


未だに分かっていない様子のグレンにシンが説明する。


「いいか、お前は今『あなたほど貴族失格な貴族は見た事がありません、ですがあなたの民草のような頭の悪さなら今言った事を不敬なんて言わないよな?』と言われたんだ。それをお前は全く理解せずに許した。本来だったら笑い者だぞ」


「な!? フラウお前そんな事言ったのか!? 不敬どころの話じゃないぞ!」


「自分で不敬にしないって言ってしまったのをお前はもう忘れたのか? 貴族が自分で口にしたことを曲げるのは、恥さらし以外の何でもないぞ。」


「それにそこの綺麗なお嬢さん達に心配されて気絶したふりしながら鼻の下伸ばしてましたし。いい香りでもしたんですか? そうですか、それは良かったですねぇ」


「なぁ、フラウ? その話、詳しく聞かせて貰えるか?」


「ええ、勿論ですよ。シンさん。私、詳しくは秘密ですが、人の感情が漠然と分かる技能を持っていまして、隊長があなたの綺麗なお嬢さん達に心配されて近付かれたときに甘酸っぱい汗の良い匂いがして欲情していたらしいですよ? ねぇ、隊長?」


その話を聴いた途端、三人娘がシンの後ろに隠れ、隊員達には性犯罪者を見るような目を向けられ、顔を青白くしたグレンは目を泳がせた。


そんな中、シンはというと特に気にした風もなく三人娘の頭を撫でながら


「まぁ、この三人は綺麗だから欲情するのも無理は無いと思うが程々にしなければどこかの隊員(・・)に後ろから刺されても知らんぞ? それとそろそろ詰問所に行かないか? これ以上無駄話をしても仕方無いだろう、違うか?」


と大人な対応をして見せたのだ。


そうして怒られもしなかったグレンが逆に肩身の狭すぎる思いをしながら都市と堀の外側とを繋ぐ幅百メートル、長さ三百メートルにもなる折り畳み式の跳ね橋を渡ると、目に入るのは平らに整備された白亜の道が迷路の様に枝分かれし、様々な店や工房がところ狭しと建ち並び、武装した男達やローブをきた三人娘と同じ様な年頃――十代中程――の子供達が魔法関係の店だろう、丸い水晶の背景に『ハンタグレー魔道具店』と書かれた様々な色に光るネオンのような、しかし明らかに木製の看板がかかった店に入っていく。

空には森の樹木の葉や枝が邪魔で見えなかったのだろう、気球のようなものが所々に浮かんでいたり、スケートボードやスノーボードのような板に乗って空を飛んでいる人や、ローラースケートのような靴で同じく空を飛んでいるひと、モノレールのようなものまで見える。そんな光景を見ながらシンは前の世界でとある偉人の名言を思い出していた。


(『人の想像できる世界は全て実在する』、だったか。その通りだったが、魔法があっても科学の歩む道はそんなに変わらないのかも知れないな)


そしてグレンが肩を縮こませ、フラウが絶対零度の瞳でグレンを見、三人娘がシンに引っ付き、それを若干羨ましそうに隊員達に見られながらシンは『武装警備隊詰所』と書かれた盾の後ろに剣が垂直に立っているシンボルが書かれた建物に入った。


建物内は広く、面積で言えば三十×五十メートルの千五百平方メートル程か、受付のようなカウンターに、食堂のようなトレイが多く置いてある場所ではサンドイッチやトーストといった軽食や焼き肉などの食事を摂っているグレン達と同じ様な服装をした者がちらほら見える。また、相談所の様なスペースには何の動物の革なのか、椅子ではなくソファーが幾つか置いてあり、そこで仮眠を取っている者もいた。


そんな大広間の様な空間を抜け、下へと続く階段を降りると『地下修練場』と書かれた札が掛けられている扉の奥から何かが爆発するような音と空気の震えを感じたが誰も反応することなく通り過ぎ、『尋問室』と書かれた札が掛けられている部屋の扉を開けると、


「あら、いらっしゃいフラウ。またグレンが何かやらかしたのかしら?」


椅子に腰掛け、中々に丁寧で細やかな花の柄で彩られたティーカップを傾けながらこちらに微笑み掛ける、裾が広がった服装をしたオレンジの髪に碧の目を持つ妖艶な雰囲気を纏った美女であった。


「いえ、今回はグレンがやらかしたのを寛大な対処で許して下さったこちらの男性に正式な尋問をして頂きたいのです。」


「あら、あなたがグレンを連れてここに来たのに正式な尋問を依頼するなんて、珍しい事もあったものねぇ」


美女が僅かに目を見開くと未だにグレンに絶対零度の視線を突き刺しているフラウが冷たい声で言う。


「今回は私の目の前でやらかしたものですから。」


「あらあら、それじゃあ弁解も出来なければ情状酌量の余地も無いわね。いつも一番近くにこんなに健気な女の子がいるのにどうして目移りしちゃうのかしら、勿体無いわねぇ。あぁ、ごめんなさいね、余計な事は言わないわ。はいこれ、拷問部屋の鍵。」


少しだけ顔を赤らめたフラウが美女から鍵を奪うようにふんだくると、早くも何か許しを乞うような事をぶつぶつと呟いているグレンの襟首を引き摺りながらフラウが部屋を出た。


そして八名の隊員の内四人が三人娘を連れて部屋の外に出て、四人が部屋の隅に待機した。


「さてと、それじゃあフラウちゃんにお願いされちゃた事だし、あなたの尋問。始めましょうか。」


「ああ。お手柔らかに頼むよ、お嬢さん。」


シンが薄く笑み浮かべてそう言うと、美女は少し驚いた顔をした後、少し悲しそうな眼で


「セリアよ。あなたには若く見えるかも知れないけれど、これでも100歳以上のお婆ちゃんなのよ。だからお嬢さんなんて呼ばれると少し恥ずかしいわ。ガッカリしたかしら?」


「いいや? 100歳程度ならばまだまだ若いと言えるだろうな。それよりも尋問はしないのか?」


シンの言葉を世辞と受け取ったのか、セリアは何も言わずに


「そう。じゃあ尋問を始めましょうか」


――――side セリア――――


「そう。じゃあ尋問を始めましょうか」


と、全く動じない振りをしながら私は彼の尋問を始める事にした。


「どうぞ、その椅子に座って。リラックスしてくださいね。」


「では有り難く使わせて頂こう。」


…………!?


「どうした?俺の顔に何かついているのか?」


「い、いいえ。そんなことはないわよ。では尋問を始めるわね」


違った。私はフラウから依頼を受けたその時からずっと真偽眼を彼に使っていたけれど、彼は私と話し始めてから一度も嘘を言っていない。だからこそ彼が「百歳程度ならまだまだ若い」と言った時、少し動揺した。


確かに長命な種族は居るが、それは殆どが魔族で、理族の中では最も長命な巨人族でも三百歳、だけど彼の体格から巨人族と言うのはあり得ない。残るは魔族だけれど、黒い髪に紅い眼を持つ種族……赤い目ならヴァンパイアや悪魔族、天使族に多いと聞いた事があるけれど、ヴァンパイアは理性無く人を襲ってアンデッドに変える化物だし、悪魔族や天使族だと隠せる様な容姿じゃない。なら後残っているのはエルフ族の突然変異だということだけだった。


けれど、彼が椅子に座る時に一瞬だけ見えた耳は普人族に最も近い楕円形の耳だった。なら彼は一体何の種族なの?


「では最初の質問よ。あなたの名前は?」


「シン。シン・クロノスだ。」


「シン……いい名前ね。名字が有るということはどこかの国のお貴族様なのかしら?」


「いいや? 今は貴族ではない。俺が勝手に名乗っているだけだ」


今は……ね。


「クロノスというのは貴族だった時と同じ家名なの?」


すると彼はせの紅い瞳を細め口元を愉快そうに歪めながら


「ああ、そうだ。随分と昔に消え去った家名だがな。ああ、因みに爵位は伯爵だった。」


と言う。少なくとも私はクロノス家なんて伯爵家は聞いた事が無い。

随分前に無くなった? 私が生まれるよりも前に解体された家名をまだ名乗っている事からしてその家に相当な誇りを持っているのでしょうね。


……少し話題を逸らてみましょうか。


「あなたが連れていたあのお嬢さん達とあなたの関係は?」


「兄のようなものであり、恋人のようなものでもあり、主人であり、名付け親でもある。」


「名付け親? あなたが?」


「いいや。あの三人娘が、だ。」


「つまりあのお嬢さん達があなたにシンという名前を着けたのね?」


私がそう言うと彼は口元に愉快そうな笑みを浮かべたままその言葉を否定する。


「違う。シンという名は俺が自分で考えた。あの三人娘に与えられたのはクロノスの方の名だ。」


「え? でも、あなたさっき……」


困惑する私に教え諭すように彼が言う。


「そう、クロノスというのは俺がかつて伯爵と呼ばれていた時の名だ。そしてなんの因果か、偶然か、はたまた必然か。あの三人娘が先日俺に贈ってくれた名もまた、クロノスだったのだよ。」


「え? 先日? じゃあそれ以前は何と名乗っていたの?」


「名乗っていない。名前が無かったからな。名乗る必要も相手も居なかったというのが正しいか。」


「どういう意味? それに、名前が無かったとはどういう事? どこかで死刑囚にでもなっていたのかしら?」


相変わらず彼は嘘を言っていない。つまり彼が言っている事は全て本当だということ。だとしたら彼は最近まで死刑囚で、どういう方法かは知らないけれどグリンガル大牢獄からの脱走犯ということになる。


その事に隊員達も思い至ったのか、素早く彼の四方を囲んだ。ドアと私の近く、彼の両隣に一人ずつ。逃がさないためにドアを塞ぎ、最悪の場合は彼の両隣に位置した隊員が足止めをしながら私だけでも生きて国に死刑囚の脱走を報告しなければならない。


この大陸に三人しか確認されていない貴重な真偽眼の技能を、私が死ぬことで無くす訳にはいかないのだから。


尋問部屋の空気が張り詰めたように重苦しくなっていくのが分かる。しかしここに至って尚、机を挟んで私と向かい合っている彼は僅かに緊張したような様子も恐怖するような素振りも見せず、ただただ嗤う。


「まぁ、落ち着け。殺気立っては冷静な思考などできないぞ。それに俺に剣は無意味だ、抜くだけ無駄になるぞ」


「なら私の質問に答えてくれないかしら? そしたらこちらとしても安心できるのだけど。」


「ほぅ? そうか、そうか。それは済まなかったな、俺は死刑囚でもなければ今はどこの国にも所属していない。名前が無かったのは私が自ら捨てたからだ。これでいいかな、お嬢さん?」


「そう、ならいいわ。正直に話してくれてどうも有り難う。それじゃあ次はあなたがどこから来たのか、種族は何なのかを教えてくれるかしら?」


彼の言うことに嘘は無かった。暗にその事を隊員達に伝えると、彼等は剣の柄から手を離して再び部屋の隅に戻った。


しかしそうなると本当に分からない。彼の今の状態に当てはまる人を私は見たことも聞いたこともない。

だから私は下手な質問をして謎が増える位ならと彼に直接訊く。


すると彼は少しだけその笑みを深め、返答した。


「良いだろう、答えてやる。俺の種族は吸血鬼、異界から渡ってきた者だ」


彼の答えを聞いた瞬間、私は思い出した。科学や魔法において、偉大な発見や功績を残して技術水準を何十、あるいは何百年か引き上げた者の中には『異界からやって来た』と言っていた者もいたという記述が歴史書にあったことを。


今尚議論されるこの記述が、しかし彼等が開発した物が同じ人とは思えない程の発想で創られた物故に、僅かに真実味を帯びてまるで都市伝説のように伝えられていることを。

そして彼が言ったことが嘘ではないことが私には分かることを。


「そう……あなた、異人だったのね」


「異人とは?」


「迷い人、稀人(まれびと)渡界人(とかいじん)、様々な呼び方があるけれど、異界から渡って来たという彼等は歴史的な発見や発明をする事が多いの。だから異界から来た人という意味と偉人をかけて異人と呼ばれているのよ。ただ、彼等が本当に異界から来たのかは未だに議論されているのだけれど……あなたの様子からして、嘘をついている訳では無さそうね。」


「流石だ。尋問官を務めているだけの事はあるな、ポーカーフェイスには中々の自信があったのだが。」


「あら、あなたのような色男に褒められるなんて光栄ね。それに、吸血鬼ってあの吸血鬼?」


「一体どの吸血鬼かは知らんが人の血を吸い、闇の眷属を使うのが俺の知る吸血鬼だ。まぁ俺は些か特別だがな。」


「特別? どんな風に?」


私が迂闊に口にしたこの質問で、私は自分のミスを知らされる事になる。


「人の情報を知るには、自分もそれなりの情報を知らせるべきだぞ? 真偽眼を持つ尋問官さん?」


―――side out―――


「ど、どうしてそれを……」


余裕そうな微笑みを浮かべていたセリアが愕然とする。


「尋問の仕方は合格点だったが、一触即発の空気の納めかたは落第点だ。相手が危険人物である可能性が高いにも関わらず、その相手の言葉を信じて隊員を下がらせるなど、『私はあなたの言葉が本当なのか知る事のできる技能を持っています』と言っているようなものだ。その条件に該当する技能は、今俺が知っている中では真偽眼だけだったからカマをかけてみたのだが……その様子から察するに、図星だったようだな?」


その言葉に呆然となるセリアと隊員達。


そう、質問にわざと短く答えて新たな質問を促し、以前の名前を尋ねられる様に誘導し、そこで名無しだったと答える事で先日三人娘が言っていたように自分の事を死刑囚、つまり危険人物だと思わせて一触即発の緊張状態を作り出す。


相手を恫喝しない尋問に疑問を持ったシンはディアーチェのような心を覗く技能か、長年の経験による技術によってセリアが自分が嘘をついているかどうか判断しているとあたりをつけた。そしてあの緊張状態の前に名前を聞かれた際、シンは嘘をついている人が行うと言われる代表的な行動、すなわち目を僅かに泳がせたり、鼓動を速めたり、手のひらに僅かに汗を滲ませながら本当の事を言った。


そしてセリアはそれに「いい名前ね」と応えた。恐らく信じたのだろうとシンは判断したが、名前がその者の存在を表すとまで言われるこの世界。偽名という発想が無いのではないかと思い至ったシンは、あの緊張状態を作り出し、自分の普通は信じられる筈の無い事実を述べた。『死刑囚ではなく、かつどこの国にも属していない』という不可思議な返答を。だがセリアはそれを何の疑いも無く受け入れた。


この瞬間にシンはセリアが技能を行使してシンの言葉を判断していると確信した。そしてそれがどういう技能か朧気にでも掴めないかとカマをかけた結果、今に至る。


詰まるところ、全てシンの掌の上の出来事だったのだ。


その事をセリア達に話すと


「成る程ね……全部茶番だったというわけ。ねぇ、あなた一体いくつなのよ? 私を踊らせる何て並大抵の事じゃないとこれでも自負しているのだけど……ここまで遊ばれたのは産まれて初めてよ。」


疲れた顔でそう言うセリア。


「そうだな……正確な年月は忘れたが約二万歳といったところだよ、お嬢さん?」


「にっ……二万って……はぁ、もういいわ。道理で私の事をお嬢さんと呼んだり、私が踊らされた訳ね。」


こうして無事に草原から森を抜け、異人であるが故に常識に疎く三人娘に尋ねていた事を説明し終えたが、最後にセリアからこんな事を言われる。


「あぁ、それとね。あなたの種族の事だけど」


「俺の種族がどうかしたか?」


「その、言いづらいのだけれど吸血鬼ってね、百年位前に大量のヴァンパイアの率いて6カ国の国を滅ぼした事があって、吸血鬼は人類の敵みたいな風潮ができてねぇ。あなたは異人だから基本的には人畜無害って事を世界に布告しておかないと面倒臭い事になるのよ。」


「確かにめんどくさいことになりそうだな。いや、もうなっているようだ。」


「え?」


シンは突然椅子から立ち上がり、尋問室を出た。慌てて追いかけるセリアと隊員達。そして機密保持のための遮音扉を出ると聞こえるのは怒号と悲鳴。


何事かと声のする方へと走るセリア達が大広間にたどり着いて見たものとは――――


右肩からその下を失い、心臓に剣が突きたち、血溜まりの中でピクリとも動かなずに倒れているクローディアと、泣きながらクローディアの揺するフェニーチェとディアーチェとクローディアに必死に呼び掛けながら淡い緑色の光を纏わせた手をクローディアの剣の刺さった胸にかざす女性隊員。


そして高笑いしながら「やったぞ! 化け物を倒した! 僕は英雄だぁ!!」とのたまう金髪の貴族然とした華美な服を着た男、その取り巻きのような小太りな男と、でっぷりと太り身体中に豪奢な装飾を着けた男が「さすが私の息子だ、グフフフ。」と金髪の男を褒める姿。そして――――――赤黒い血のような色のその瞳を、暗く昏いその瞳を、奈落の底にある煉獄の業火のようなその瞳を、静かに細め、まるで地獄の底から響くような声色で


「俺の大切なものに手を出したな?」


と、シンという名乗った吸血鬼が言う光景だった。



その瞬間、大広間の時が――――――凍りついた。

「ふぁっつ!?」と思った方、言ってしまった方、安心してください。この小説の主人公はチートです。

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