0.死の残照
世界がどこまでも真っ赤に染まっていた。
夕陽? いや、違う……。
これは――なんだ?
大地に仰向けに倒れて、俺はどうしてか空を見上げていた。
硬く冷たい大地の感触が手に伝わってくる。この感触は石畳だろうか。
鈍い痛みが頭の後ろに疼き続け、視界が朦朧としたままぼやけた視界が定まらない。
「ここは……?」
声を出そうとするが、渇いた喉から発せられたのは自分の声とは思えないかすれたものだった。
ここはどこだ? 俺は何をしているんだ? 一体何が起こったんだ?
体は動かない。痛みはないが、体にはもはや感覚さえもないように思えた。存在を認識できないものはないにも等しく、今俺という肉体は頭と僅かにだけ動いてくれる指先だけだった。
意識が集中され、指先は今までにないほどに感覚が研ぎ澄まされていき、優秀な探知機となっていた。
だが腕が動かない以上、その能力も大した役割を示してはくれない。
今この世界にあるのは、ただ紅い風景だけ。
そして僅かに香る鉄と火薬の臭い。
いや、違う……。これは血と硝煙の臭いだ……。
そう、知った時俺は世界を真っ赤に染めるものの正体を理解してしまった。
おびただしい量の鮮血が俺の体を染め上げているのだ。
理解してしまった瞬間、全身に激痛が迸った。まるで夢と現実が入れ替わってしまったかのように、全身の体の感覚が蘇り、痛みという傷の証を俺に伝えてくる。
指先と意識だけが全てだった俺の世界を、痛みが埋め尽くしていく。
どうや俺はいつの間にか瀕死の状態に陥ったらしい。体中に傷を負い、血を流しすぎてしまった。
歩み寄る死神の足音は聞こえていたが、それでも俺は焦燥を感じてはいなかった。
生に固執するするほど俺は、自分の人生を愛せてなどいない。
緩やかな退廃の先にある死が、俺はむしろ待ち遠しかった。それでも俺は自ら死を選ぶほど、愚かしくはなれない。
退屈な日々をただ生きながら、いずれ訪れる死を待つ。まるで俺は屍だった。
死ぬ前から死んでいる屍、それが俺だった。
なら、こうして死ぬのは本望だ。与えられる死で、俺の死が早まるなら俺はそれを受けよう。
俺は望んで死を享受しよう。
ようやく俺は死ねるのだ。




