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魔法少女デュエルブラッド  作者: 伯爵炎(バーニング)
第1話 - Duel blood wake-up -
7/16

〈7〉

 廃工場は、地獄と化した。


「あはっ、あはははははははははははーぁ♪ 踊れ、踊れぇっ♪」


 壊れた笑い声を上げ、黒ドレスの少女は。サブマシンガンを乱射、乱射、乱射、乱射、乱射。


「だ、ば!?」


「ご、ぱぁっ!!」


 ……何が起きたか、理解する時間さえ与えられず。男たちは頭蓋を破裂させ、眼球を飛び出させ、内臓を撒き散らして、四肢を引き千切られて。


 殺されていく。血塗れの肉塊に変えられていく。


「あーはははははははぁ♪ あはっはははははは♪ 愉しーい♪ ほら、ほらほらほらほらほら♪ 死ね死ね死ね死ね死ぃねぇーッ♪」」


(……な、なんだよ、これッ!?)


 咄嗟にドラム缶の陰に隠れ、セーラは耳を塞ぐ。


 凶暴な銃声、マシンガンの乱射の音。それ以上に。

 ヒトの死ぬ声。凄惨な断末魔が。心を壊す。


 わからない。わからないわからないわからない。何が起きているのか。

 この再開発区域は治安の悪い、掃き溜めの街。それでも、法治国家の、日本の一部なのだ。


 こんな。こんな悲鳴は知らない。こんな苦悶の声、聞いたコトもない。


 それ以上に、黒ドレスの少女の声……愉しそうに人を殺す声。悪鬼の声が、有っていいはずがない。


「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーッ!?」



 ・ ・ ・



 血の海の上、ぴちゃぴちゃと音を立てて歩きながら。黒ドレスの少女は、死体を蹴り飛ばす。


「脆いわね、もぉう終わり? 暇つぶしにも、ならないわぁ」


 不満げに唇を尖らせながら。少女は生き残った獲物を求め、廃工場の中を見渡す。


 とても、静かだ。物理的な痛みさえ感じるほどに。

 先ほどのセーラの乱闘も、あの恐ろしい銃声も嘘だったかのように静か。


 だがそれは、生きる者がいないからだ。悪質なゴロツキ達は、あまりにも次元の違う、凶暴な悪意に。桁違いの質量を持った暴力に。殺されたからだ。


「ふぅん、生・き・て・る・の・はぁ……二人ね♪」


 恐怖にガチガチと鳴る歯の音。荒い息。

 その主はセーラと。ゴロツキが一人。


「さぁて♪ 何して遊ぼっか♪ あ、お医者さんごっこする? ずたずたにぃ、解剖してあげるわ♪」


 嬲り殺し。それ以外は認めない。妖しく舌なめずりする少女の瞳は、嗜虐的な瞳は、そう語っていた。


「た、助けてくれぇッ!?」


 涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、生き残りのゴロツキ、鼻にピアスを付け、髪を派手に何色にも染めた男が、少女に哀願する。

 黒いドレスの足元、仲間たち、だった肉塊の流す血だまりに、額を擦り付け、土下座しながら。


「な、なんでもする! 金なら払う! だから、だから命だけは!?」


 その姿を、浅ましいと笑えはしない。相手は、少女の姿をした死神。常軌を逸した快楽殺人鬼なのだから。


 事実、セーラも。腰が抜けて、立てずにいた。恐怖に、スカートが失禁で濡れているのを自覚していた。


「ふぅん、貴方、そんなに死にたくないの?」


 愛らしくさえあるポーズで、ひとさし指を頬に当て、黒ドレスの少女は小首を傾げる。

 ぶん、ぶんと。呼吸も忘れ必死に頷く男に。


 少女は、まるで天使のように。にこりと笑いながら。


「じゃーぁ、豚の真似をしなさい♪」


「え……」


 要求を飲み込めず呆然とする男に、少女は何もないはずの空間から拳銃を取り出し、向けて。


「豚の真似をしろと言ったのよ!!」


 こめかみ擦れ擦れに、発砲する。


「ひ、ひぃッ!?」


 男は失禁しながら。

 四つん這いになって。


「ぶ、ぶー、ぶー……」


 豚の鳴き真似をしながら、這いずり回った。


「あはっ♪ あはっはははははっあはははは♪ 面白ぉい、お腹痛ぁーい♪」


 腹を抱え哄笑する少女。もちろん彼女の他は誰も笑わない。

 生きるのに必死の、豚真似男も。その冒涜的な遊戯を、震えながら見守るセーラも。


「ホントに、豚さんみたぁい♪ 惨めで! 薄汚くってぇ! 最高よ、あははははっはーぁ♪」


 一しきり笑い続け、黒ドレスの少女は、満足したように。


「ああ、面白かった♪ 面白かったわよ、貴方♪」


 男に微笑みかける。男は、それを見て。


「え、じゃぁ……?」


 生き残ったと。死神の鎌が首筋に当てられていたのを、脱することができたと。

 安堵の表情を浮かべるが。


 黒ドレスの少女……『蹂躙の魔法少女』。破壊と殺戮に特化した、死の運び手は、にたっと嗤い。


「豚は死ねぇぇぇッ♪」


 2丁拳銃の引き金を引いた。

 男の断末魔! その絶叫は、希望から絶望へと叩き落されたがゆえにより凄惨で。

 セーラは必死に目を閉じ、耳を塞いだ。


「あははははははははははは♪ やってみたかったのよねぇ、これぇ♪ 昔、ゲームで見てさぁ! あっはははははははぁ♪」


 耳障りな笑い声を上げ、銃身に舌を這わせ陶酔するその少女。

 悪そのもの、理不尽な暴力そのものの存在を。


 恐怖の涙でボロボロになった顔で、それでも。

 緋川セーラは。正義のヒロインに憧れた少女は。怯えて萎縮するカラダに、腕に、爪を立てて。


「お前、お前は……ッ!」


 目が合う。次は自分が嬲り殺しにされる番だと、本能が理解する。

 それでも。


「なぜ! こんなコトをするッ!?」

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