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魔法少女デュエルブラッド  作者: 伯爵炎(バーニング)
第1話 - Duel blood wake-up -
5/16

〈5〉

 夜、都会の歩道橋の上。

 道路を流れていく車たちの、ライトの軌跡をぼんやりと眺めながら。


 セーラは風に吹かれていた。


「……魔法少女、か」


 スマホを取り出し、結子が話した学校の噂を思い出す。

 つい、噂のサイトを開いて。「緋川聖良ひかわセーラ」と名前を入れる。


 と、そこでため息をついて。


「……ばかばかしい」


 アタシは、まだ。そんなモノに、夢を。

 正義のヒロインなんて、損なのに。アニメの中でしか、きっと生きられないのに。


「父さん、アタシは……正義の味方になんてなれないよ」


 今日は、父の命日。再開発区域にある、廃ビル跡……刑事だった父が殉職した事件現場に、花を供えてきた帰り道。


 セーラは、父が大好きだった。ファザコン、と呼ばれても言い返せなかったと思う。

 弱い人たちを護り、悪人たちを次々と逮捕する敏腕刑事。

 いつだって父は、セーラのヒーロー。正義の味方。


(私も、パパみたいになる!)


 だから、子供のころ魔法少女にも憧れた。変身して、悪と戦うヒロイン。

 自分も正義の味方になって、父を助けるんだと、本気で。


「もう、2年経つのか……」


 あの日。セーラの幼い夢が砕け散った日。

 ……父の死んだ日から。


 誘拐犯による立てこもり事件。追い詰められた犯人グループは、アジトに火を放って。

 迂闊にも、その一人が逃げ遅れた。父は、それを助けようと火の海に飛び込み……撃たれた。


 父を殺害した犯人は、生きていると聞いている。


 でも、あの日セーラの心を覆った闇は、復讐心などではなくて。


(怖いって、思ったんだ)


 不死身のヒーローなんていない。正義の味方だって、現実には撃たれたら死ぬ。

 怖い。そんなの怖い!


 葬式の日、ガクガクと震える身体をどうしようも出来なくて。

 炎の中に消えた父の遺体とともに、セーラの夢も、灰になった。


「でも、もしも。奇跡が起こせるなら」


 あの日砕けた夢を、もう一度。灰の中から立ち上がり、再び胸に炎を。

 大好きだった父に、誇ってもらえる自分に。


 ゆっくりと、噂のサイトの入力画面、願い事の欄に指が伸びる。


「アタシは……」


 だから、願い事は。奇跡をもってしか叶わないような、その願い事は。


「『正義の味方になりたい』」



 ・ ・ ・



「……返ってこねーし」


 待つこと数分。返信は来ず。何も起きない。


 まあ、本気にしていたわけじゃないから。

 セーラは、自分にそう言い聞かせた。


 このサイトの主も、返答に困っているのだろう。正義の味方なんて、適わないユメ。アドバイスのしようも無い。


 スマホを制服のポケットに戻し、帰ろうとすると。


「お嬢ちゃん、美人だねぇ。俺たちと遊ばない?」


 歩道橋の両端を、男たちに挟まれる。

 にたにたと下卑た笑いを浮かべる、ストリートギャングたちに。


「……ちっ」


 舌打ちするセーラ。


 その様子を、ビルの上から。

 黒いドレスの少女が、愉しそうに唇を歪め、眺めていた。


 

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