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魔法少女デュエルブラッド  作者: 伯爵炎(バーニング)
第1話 - Duel blood wake-up -
4/16

〈4〉

 ざわ……。

 結子の発言に、放課後の教室中が、主に男子たちが凍り付く。


「え、女番長が魔法少女に興味……?」


 高校生にもなってと、嘲笑するような空気は無い。むしろ、少年たちは恐怖に固まっている。

 視線だけで人を消し炭にできると噂の、凶悪眼光少女、緋川セーラ。

 その容姿は充分に美少女ではあるが……魔法少女などというファンシーなモノとは、イメージが乖離しすぎていた。


「わー、わー!?」


 慌ててセーラは大声を上げ、誤魔化す。


「わ、忘れろぉぉぉぉぉぉ!?」


 ビカァァァッ!! セーラの邪眼が男子たちを焼き払う!


「ひ、ひぃぃぃーっ!? 番長が怒ったぁっ!?」


 ……邪眼はあくまでイメージである。だが、その目付きの悪さは、恐怖でいとも容易く男子たちを沈黙させるのだった。心臓の弱い者は、泡を噴いて気絶までする。

 たまに、覇気使いとも呼ばれる。


「……ゆーこぉ? 内緒にしろって言ったよな。恥ずかしいだろ!」


 赤面しながら詰め寄るセーラ。

 セーラの秘密を暴露した当の結子は、さして反省する風もなくカラカラと笑う。


「にはは、悪ぃー悪ぃー。でもさ、事実、好きっしょ、そういうの?」


「……まーな」


 照れながら、セーラは指で頬を掻く。


 そう、緋川セーラの幼い憧れ。それが、魔法少女。

 いつだってキラキラと、胸に愛と勇気を抱いて。どんな悪にも絶望にも、笑顔で立ち向かっていく勇敢な、正義のヒロイン。


 憧れた。正義を、希望を信じて戦う姿に憧れた。


 でも、それは。

 ホコリをかぶったまま置き去りの、喪った夢。灰色に褪せた、遠い思い出。


 父を亡くしたあの日に、砕けたままの……。


「セーラ? どうかしましたの?」


 文香の問いに、


「……ん、なんでもねーよ」




 . . .




「で、どんなサイトだって?」


 教室に残る者もまばらになる中。セーラは結子が開いた画面を覗きこんだ。


 時刻は夕方。教室の窓から見える太陽も、高度を下げて休み支度中か。

 最近、この街の近くでは凶悪な銃撃事件が発生しており、部活などは自粛を推奨されていた。


「なんかさ、魔法少女を募集してるんだってさ。ほれ」


 結子が示した画面、それは。

 洋館のような、占い館のような雰囲気。ずいぶん黒々として、凝ったデザインで。


 そこに書かれている文言を、文香が読み上げる。


「……『魔法少女になって、願い事を叶えませんか?』ですか。名前と、願い事を入力するようになってますね」


「……うさんくさー。名前入力するってのが抵抗あるな。課金とかされるんじゃねぇの?」


 それを聞いて結子は、ひらひらと手を振る。


「あ、大丈夫だったよ。あたし、試したけど」


「おまっ、ちっとは警戒しろよ!」


「そ、そうですよ! こんな怪しいサイト!」


 セーラと文香は、親友のセキュリティ意識の低さを本気で心配するが。


「いやー、結構皆試してるんだぜ? それに、ほら!」


 止める間もなく結子は、画面に文字を入力。

 自分の名前『葉住結子』、願い事は……『大金持ちになりたい』と。


 すると数秒を待たず、占いの診断結果のような体裁で、返答が表示される。


「にはは、『働きなさい』だってよー! ごもっともですな♪」


 なるほど、占い以下である。結子が言うには、他のクラスメートが試した時もこんな調子だったという。

 いわく、「〇〇君と恋人になりたい」という願いには「オシャレをしてみましょう」との返答。

 「テストで良い点取りたい」という願いには「予習と復習を心がけましょう」と。


 気軽なお悩み相談程度に使われているのだった。


「……くっだらねー」


 口を△型にして呆れるセーラ。

 正直、がっかりした。少しだけ、ほんの少しだけど、期待する気持ちも有ったのだが。


「私は、ちょっぴり安心しましたわ。悪質サイトではないようですし」


 ほっと胸を撫で下ろしながら、文香が首を傾げる。


「でも、どうしてこれが噂になっているのでしょう?」


 確かにそうだ。見た目に反し、占いにすらなってない、はっきり言ってショボいサイトなのに。


「……それがさ」


 ぴっ、と指を立て、結子はわずかに真面目な顔で。


「いるんだってよ。これで、ホントに魔法少女になったってやつが」


「……はは、まさか」


 後から思えば、それは予感、虫の知らせだったかも知れない。

 セーラは、ふと背筋が寒くなるのを覚えた。


 あまりに下らない、子供だましのような噂。でも、それだけに不思議と真実味を帯びて……。


「てなわけで、セーラ。試してみようぜ! なりたいだろー、魔法少女? ほれ、名前と願い事入れるだけだぜ?」


 緊張感に欠けるふやけた表情で結子が誘うと、文香も笑顔で、


「あら、私も興味ありますわ。セーラの願い事♪」


 そんな二人に苦笑いで返しながら、


「アタシは、いいよ」


 首を横に振った。


「……アタシの願い事は、奇跡のようなものだから」



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