〈7〉
「黒崎、那由他ッ……!」
聖良は思わず、1-3の教室に飛び込んでいた。
集まる視線。
けれど、気にしている場合ではない。
朝の教室で、クラスメートに囲まれている、気弱そうな少女。
眼鏡を掛け、おどおどした態度の少女。
だがその黒髪は、闇色の瞳は、紛れも無く。
昨夜、セーラが廃工場で死闘を繰り広げた相手。追おうとしていた殺人鬼。
……「蹂躙の魔法少女」黒崎那由他だった。
椅子に座ったままの彼女へ、教室の中をツカツカと歩いて、セーラは詰め寄る。
「え、ええと……」
周りの女子が零す、戸惑いの声。
「どうかしたの、緋川さん?」
無理もない。傍目には、気弱な女子生徒に不良が絡んでいるようにしか見えないだろう。
「おい。なんでお前、学校にいる……!」
机をバンと叩き、狼の唸りのように低く問いただす。
いや、セーラとて想像もしなかったわけではないのだ。
黒崎那由他が同級生、それも同じ公立美咲台高校の生徒であることは予測していた。こうして遭遇する可能性も。
それでも昨日の夜の、悪しき魔法少女……血の匂いがする黒ドレスの女が、こうして日常に溶け込んでいることに、セーラは背中へ、冷たい汗が伝うのを感じずにいられない。
「お、なんだなんだ、殴り込みか!? よっしゃ手伝うぜセーラ!」
「……その子がどうかしましたの?」
1-3教室の入り口で、親友の結子と文香が覗き込むが、
「……ふふ」
身を硬くするセーラへ、艶然と微笑んだのは黒崎那由他だった。
一瞬、あの殺戮者と同じ危険な光が瞳に。
けれど次の瞬間には、無害な少女の顔で、にこやかに周りへ、
「心配しないで、皆。緋川さんはね、私が学校休んでる間、心配してくれてたの。こうして復学すること言ってなかったから、驚かせちゃったみたい」
周りの生徒が、安堵のため息をつく中。
射殺す視線で睨んだままのセーラの耳へ、那由他はそっと唇を寄せて。
「……そんな怖い顔しないでくれる?」
弄ぶような、歌うような口調で告げた。
「昼休み、屋上で待つわ」




