〈6〉
明くる日、公立美咲台高校。
今日も鋭い眼光で男子に怖がられながら登校してきたセーラは、1年の廊下で。
「なーなーセーラぁ! Fa〇eの新しいアニメ見たか!? まだか!? 観賞会しようぜ、文香ん家のでけーテレビで!!」
親友の葉住結子に、後ろから抱き付かれ、喚かれる。
「だから、声がでけーんだよ、ゆーこは!?」
……周囲からは、「え、女番長がアニメ?」とか、「やだ、イメージと違うわ。ショック……」等の勝手な声が。
かなり恥ずかしい。脱色した長い髪に、おへその見える改造制服と不良スタイルのセーラ。クールな一匹狼イメージを売りにしているだけに、ダメージは大きい。
赤面しながら、結子の口を手で抑える。
「いいか、ゆーこ? アタシは確かに魔法少女好きだが。別にアニメ全般好きとかじゃねーからな?」
2次元に憧れているのではなく。正義のヒロインに憧れているのだ。間違えてほしくない。
「にはは、いいじゃんさ別に。バトル物、セーラも嫌いじゃないっしょ?」
腕を頭の後ろで組んで、能天気に笑う結子。彼女は、漫画、ゲームなど大好きだ。
小柄ながら快活な、元気の塊のような少女なので、あまりオタク的なイメージはないが。漫研の一員だったりする。
オープンな性格の結子らしく、好みはカラッと明るいバトルアクション。
(……アタシが魔法少女になったと知ったら、どう思うかな?)
ふと、セーラは思う。
遊びではないのだが。魔法少女に変身し、悪の魔法少女……黒崎那由他を追う。
結子の好きそうな展開だ。
「お、なんだセーラ? あたしの顔見つめちまって。にはは、あたしに惚れたかー?」
からからと笑う結子に、軽くチョップしながら、
「はいはい、愛シテルヨー。私緋川セーラは、ゆーこさんにベタ惚レデス」
心のこもらない愛の告白をしてやるのだが、
「そ、そんな。二人はいつの間に、そんな関係に……!?」
ちょうど登校してきたもう一人の親友、澤部文香に、ばっちり聞かれてしまった。
「セ、セーラと結ばれるのは私と信じてましたけど。し、しかたないですよね。結子の幸せのためなら、私、身を引きます……!」
長い黒髪を乱し、よよよ、と泣き崩れる文香。
「おい、ふみかが妙な誤解してるぞ?」
「にっしし、さすがセーラ。モテる女は辛いですなー♪」
ふう、とため息をつく。
「もう黙っててくんない?」
・ ・ ・
そして3人で仲睦まじく。戯れ合いながら教室へ向かう。
と、隣のクラスの教室前を、横切った時だった。
ふと、女子生徒達の会話が、セーラの耳に入る。
「ああ、黒崎さん! 久しぶりね!」
「3か月ぶりだっけ。もう大丈夫なの?」
黒崎。……黒崎!?
その名に、セーラは凍り付く。
「……大丈夫よ。もう、落ち着いたから」
聞き覚えのある声。そうだ、忘れられるものか。
つい昨夜、命の遣り取りをした相手の声を。
隣のクラス、1年3組の教室で、女子生徒達に囲まれているのは。
眼鏡を掛けて、気弱そうな印象の少女。
だが、その顔立ちは間違いなく。
「蹂躙の魔法少女」黒崎那由他だった。




