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魔法少女デュエルブラッド  作者: 伯爵炎(バーニング)
第2話 炎翼の魔法少女
13/16

〈5〉

 セーラの部屋は4畳半、大規模なマンションの7階にある。

 元々高台に建ったマンションでもあり、窓からは美咲台の夜景が一望できた。


 その窓から入ってきたのは、白い獣。あの魔法少女……黒崎那由他に「メッセンジャー」と呼ばれていた、白い獣だ。

 一見子犬のような外見、純白のふわふわした毛並みを持ち、尻尾は長く丸まっていてリスのよう。

 ぬいぐるみが動いているような愛らしさだが、その赤い瞳には、獣にはあり得ない高い知性の輝きが宿っていた。


「……君は、あまり驚かないんだね。初めて僕が喋るのを見ると、たいていの女の子は驚くんだが」


「最初に見た時は、黒崎に襲われてる最中だったからな」


 濡れた髪をタオルでわしゃわしゃと拭きながら、セーラは答えた。

 正直、驚いている暇さえなかったのだ。少女の殺人鬼に襲われ、魔法少女に変身して応戦する。

 そんな非現実的な体験に、いきなり放り込まれたのだ。

 小動物が喋るくらいで、いちいち驚いていられない。


 ……それに。


 メッセンジャーは、セーラの部屋を見回して得心する。


「なるほど。君は、魔法少女が好きなようだね」


 かぁっ、と、セーラの端正な顔が赤く染まった。


 シンプルで物の少ないセーラの自室だが、壁に貼られているのは、人気の魔法少女アニメのカレンダー。本棚には、少ない小遣いを貯めて買った、中古のブルーレイソフト。


「うっせー! わ、悪いか!?」


 脱色済みの長い髪に、鋭い目つき。おへその見える改造制服と、男子達からは女番長と恐れられる緋川セーラ。

 しかし、魔法少女は。正義のヒロインは、子供の頃からの彼女の憧れだ。


 そして、魔法少女ものに人語を話すマスコットキャラは、不可欠なのだ。


「まあ、僕としては話が早くて助かるよ。なかなかこの現実を受け入れてくれない子もいるからね」


 尻尾を振りながら、彼は部屋の中に降り立つ。


「さて、色々説明しなくちゃね。君は魔法少女になるのも急だったし、これからの『儀式』について教えておかないと。今夜は、その為に来たんだ」


「……あのサイト」


 セーラはベッドに腰掛け、脚を組む。


「魔法少女を募集するってやつ。あれは、あんたの仕業だな?」


 魔法少女になって、願い事を叶えないかと誘うサイト。

 名前と、願い事を入力するサイト。親友の結子達一般人には占いサイトとして使われていたが、あれは。


「そう、魔法少女の資格……『奇跡によってしか叶わない願い』を持つ人間を、探し出すためさ。別に、あのサイトだけで探してたわけじゃないけどね」


 こくんと頷き、話を進める。


「そして魔法少女に選ばれたのは、全部で100人。これから君たちには、最後の一人になるまで戦ってもらうよ」


「何のために?」


「勝ち残った一人には、『奇跡』が与えられる。宇宙の法則も、運命の因果も全てを覆し、あらゆる願いを実現する力さ。緋川セーラ、君はこの血闘儀式の参加者として資格を得たのさ」


 そう話しながらも、愛くるしいポーズで、脚で背中を掻くメッセンジャーへ。

 セーラは息を飲み、詰め寄る。


「……で、何が目的だ、黒幕?」


「君はアニメの見過ぎだね……」


 呆れるメッセンジャーだが、もちろんセーラは真顔だ。


「冷静なマスコットほど怪しいもんはねーからな。特に白い奴は、信用しねえコトにしている」


「言っておくけど、僕は地球外生命体とかではないよ?」


 まだ疑った眼のセーラへ、彼はふぅ、とため息をつく。


「それに、気付かないかい? 僕の名前『伝令役メッセンジャー』。ただの使い魔に過ぎないんだよ。主催者は別にいる。彼女の思惑は、僕の与り知るところではないよ」


 セーラは、彼の瞳を真っ直ぐに見据える。白い獣の、赤い瞳を。

 人間相手ではないので、嘘を言ってるかは判別できそうもない。


「……今は、信じるしかねーか」


 再びぽふん、とベッドに腰掛け、セーラは天井を見上げた。

 魔法少女同士の決闘に、どんな意味があるのか。考えたところで、今は有益な答えにたどり着けそうもない。今はまだ、始まったばかりなのだから。あの黒崎那由他以外に、どんな少女たちが参加しているのかさえ分からない。


「で、アタシは何をすればいい?」


 いきなり戦えと言われても、街の喧嘩とは違うだろう。戦う相手がどこにいるのかも、よく分からない。


「魔法少女たちには、この街に集まるよう告げてあるよ。ここは地脈レイラインの影響で霊的な加護を受けた土地のようだから、魔力の運用もしやすいし。一か所に集まってくれた方が、僕らの目も行き届くからね。だから君は、挑戦してくる相手を倒していけばいいんじゃないかな」


 初めのうちはね、と付け足しながら、メッセンジャーは続ける。


「でも、そうだね……。まずは、黒崎那由他を追ってはどうだい?」


 『蹂躙の魔法少女』を名乗った、黒ドレスの殺人鬼。可憐な少女の姿をした悪鬼。


「審判の身で、僕が直接手を下すわけにはいかないんだけど。彼女は一般人を巻き込み過ぎてるからね。那由他を止めることは、君の願い事にも通じるだろう?」


「アタシの、願い事……」


 『正義の味方になりたい』。刑事の父が殉職した2年前から、止まったままだった胸の中の時間。

 そうだ、チカラを得た今なら、歩み出せるかもしれない。


 砕けた夢を拾い集めて、もう一度。父に誇ってもらえる自分であるよう、背筋を伸ばして。


「黒崎那由他……。この街で最近起きてる銃殺事件、犯人はやっぱりあいつなんだな?」


「それ自体が、彼女の願い事だからね」


 セーラは天井を見上げる姿勢のまま、しばし考える。

 彼女、那由他は、セーラの名前を知っていた。つまり、セーラと同じ美咲台高校の生徒である可能性が高い。自分なら、彼女の足取りを追えるかもしれない。凶行を止められるかもしれない。


「そうだな、やってみっか」


 パン、と拳を打ち鳴らし、セーラは勢いよくベッドから立ち上がった。

 どうせ、うだうだ考え込むのは性に合わない。


 黒崎那由他を見つけて、ぶちのめす。分かりやすいじゃないか。

 後のことは後のことだ。


「方針は決まったかな。じゃあ、僕はこれで失礼するよ」


 窓辺にぴょん、と飛び乗り、白い獣は振り返る。


「審判として、君にばかり肩入れするつもりはないけど。必要になったら、来るように念じておくれよ。君は新人だから、もう少しはフォローするつもりだ」


 那由他に負けて、初戦敗退にならなければ、だけど。そうも付け加えて、眼下の夜景に去ろうとする彼を。

 セーラは呼び止める。


「待った。最後に一つだけ」


「何だい?」


「あんたの名前。『メッセンジャー』っての、呼びにくいし。他にねえのか?」


 おかしな質問だね、と首を傾げる彼。


「言ったろう、僕はただの使い魔だって。名称になんて、さほど意味は無いんだよ。好きなように呼べばいいさ」


「じゃあ……」


 セーラは考える。インキュベーターでキュゥ〇えみたいな、気の利いた名前を、何か。


「メッセンジャーだから……めそ蔵? めそ吉?」


「……君には、ネーミングセンスというものが欠けているようだね」


 はっきり言われて、ショックを受けるセーラに。


「……シロ」


「えっ?」


 ゆっくりと告げる。


「シロ。僕の主は、そう呼ぶよ。何か固有の名称で呼びたいなら、それにしてほしいな。僕にとっては、特別な名前だ」


(白いから、シロ。そのまんまじゃねーか)


 セーラはそう思ったが、口には出さなかった。「シロ」と名乗った時の彼の眼には、一瞬、名付け主への愛情のような、暖かい感情が流れたのが見えたからだ。

 彼は、シロは感情の無い、冷徹な存在ではない。それを伺い知れただけでも、今夜の収穫としては充分だ。


 闇に去る彼を見送り、セーラは。


「色々わかんねーコトだらけだが、とりあえず、やってみっか!」


 闘いの誓いを、新たにするのだった。


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