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魔法少女デュエルブラッド  作者: 伯爵炎(バーニング)
第2話 炎翼の魔法少女
12/16

〈4〉

 その夜の戦いは、痛み分けに終わった。白い獣(メッセンジャー)いわく、魔法少女同士の戦いが一般人の目に触れるのを、儀式の主催者は好まないのだという。


「……ただいまー」


 大都会、美咲台の一角。高台のマンション。

 セーラが帰宅する頃には、時計の針は夜9時を回っていた。


「うっわ、酒臭ぇ」


 家に入るなり、顔をしかめる。


「ぐすっ、遅ぇーぞセーラぁ!」


 泣きながら、缶ビール片手に。リビングからふらふら歩いて来るのは。


「あたしをぉ、独りにするなよぉ。寂しいじゃねーかぁ!」


「……酔ってるな、母さん」


 酒臭い息を吐きながら、子供のようにぽろぽろ涙を零す母……緋川聖名子みなこ

 脱げそうなTシャツにホットパンツ姿と、ずいぶん寛いだ、というより、だらしない格好だ。


 ふう、とため息を一つ吐き出し、靴を脱いでセーラは、母を抱き止める。


「ごめんな、遅くなって。もうちっと、早く帰るつもりだったんだけど」


 背中を優しく撫でてやる。

 今宵の騒動で、セーラの着る制服には飛び散った血の跡がついているのだが。

 泥酔した母がそれに気付かないのは、幸運だったかもしれない。


「……ぐすっ」


 どちらが娘かわからない。子供のように泣きじゃくりながら、母はセーラの胸にすがる。


「今日はよぉ、ひろしさんの命日なんだぜ? 寂しいんだよぉ、飲まねーとよ」


 そう、今日はセーラの父が、2年前に殉職した日。


「セーラも帰るの遅いし……何かあったらって思うと私、私はさぁ?」


「……ごめん。ごめんってば」


 頬を寄せて、頭を撫でて。母を安心させてやる。


 ……でも、本当のことは言えない。死線を潜り抜けてきただなんて。

 父と同じに、帰れなかったかも知れないなんて。


 魔法少女に、なっただなんて。


「セーラぁ、お前は、どこにも行くなよ? 危ないコトに、首突っ込むんじゃねーぞ?」


「……大丈夫だよ、アタシは」


 だから、嘘をついた。


「アタシは、母さんを心配させるようなコト、しねーよ。約束する」



 ・ ・ ・



 酔っぱらって眠りこける母をソファーに運び、毛布を掛けてあげて。

 血の付いた制服をとりあえず洗濯機に放り込み、下着を脱いでセーラは、シャワーを浴びることにした。


 高校一年生の女子としては、身長は平均より高め。

 腰は細く、脚は長く。バストは84、なかなかのモデル体型である。

 所々に喧嘩の傷跡が残るものの、全体的には肌も綺麗で、美人であることは疑いない。


 一般的な魔法少女のイメージ……幼く可憐な姿とはかけ離れた、しなやかな雌オオカミといった印象ではあるが。


「……ん、気持ちいいな」


 裸体に、頭からシャワーを浴びて。染み付いた血と汗の臭いを流し去ると。


 ……なんだか、今夜の出来事が夢だったように思えてくる。

 魔法少女に変身して、命懸けで戦ったこと。

 拳を振るった感触、武器の重み。

 そして、胸に点った、あの熱い炎も。


 全て一夜の夢で。

 母さんの望み通り、アタシは危険に首を突っ込むようなことはせず、明日も変わらない日常が続いて……。


 しかし。浴室から出て部屋着に着替え、頭をタオルで拭きながら自室のドアを開けると。

 開けてあった窓から、


「待っていたよ、緋川セーラ」


 純白の毛並みの、子犬のような動物……愛らしい姿の動物が、人間の言葉で話しかけてきて。

 夢じゃないぞと、セーラに教えるのだった。

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