〈3〉
プロミネンスセイバー!
説明せねばなるまい。100人の魔法少女たちには、各自に専用の戦闘デバイス、すなわち武器が与えられている。それらは、各々のコスチュームのいずこかにセットされた、宝玉の内部に格納されている。
セーラの場合は右腕のブレスレット。
音声認証により、彼女の呼ぶ声に応え! 今、その姿を顕す!!
「来い、『プロミネンスセイバー』-ッ!!」
右腕を包む、炎の竜巻! 渦巻き、火の粉を散らしながら!
やがてその火は、武器の形状を取る。
巨大な棒状のそれを、セーラは一振り。
風が。赤き風が吹いた。
中から現れたのは、斧槍。
機械的で武骨なフォルム。それ自体が発熱し、朱色に眼を灼くような輝きを放つ刃。
実に獰猛で攻撃的な印象だが、特筆すべきはそこではない!
おお、我々の目は狂ってしまったのか。
柄だけでも身長の3倍はあろう、遠近感を無視するような、異常なまでに巨大なサイズ!
その重量、実に150㎏超。神話の武具すら凌駕する驚異の重量だ!
「な、なんなのよ、それは……」
プロミネンスセイバー。緋川セーラの凶悪なる専用デバイスの威容を前に。
黒崎那由他は、怯えて後ずさる。
無理もない。これは、およそまともな武器にあらず。
この斧槍は、斬る武器でも、叩き潰す武器でもない。
受ければ、死ぬ。かすかでも触れれば、死ぬ。そうした類の物体。
破壊する、粉砕するという概念が形を成した、恐るべき圧倒的殺戮兵装なのだ!
神をも焼き殺す刃、その姿の前には機関銃といえど、おお、まるで玩具のよう。
灼熱する刃、非常識なリーチ! これぞ!
緋川セーラが絶望を切り裂くために得た、運命の剣である!
「着火、プロミネンスセイバー!!」
こいつなら、やれる。どんな相手とだって、戦える。
その確信を胸に、セーラは吠える。自らの魂とデバイスをリンク、再び炎の翼を広げ、斧に、刃に、心に火を点ける。
ああ、その勇姿。
火炎の風。激情の風。廃工場に立ち込めていた死の臭い、血の臭いを、強引なまでに吹き飛ばしていく、躍動する生命の風よ!
「来な、黒崎那由他ッ! こいつでアタシは、全てを焼き切ってやるッ!!」
「……やってみろぉッ!!」
銃弾、銃弾が! 那由他の両手のマシンガン、周囲に浮遊するマシンガンが。
秒間数千の殺戮の銃弾嵐を吐き出す。
しかし。
「らぁぁぁぁーッ!!」
ひと薙ぎ! ただひと薙ぎで、その全てを焼き切る。
プロミネンスセイバー、これがプロミネンスセイバー! 炎の斧槍!!
「行くぜッ!!」
軽やかに、そう、本来重量的にあり得ないことだが、この150kg超の得物を軽やかに頭上で回し、炎の嵐を呼び起こして。セーラは斬りかかる。
「ぅラぁぁぁぁーッ!!」
「じょ、冗談じゃないッ!?」
それこそ冗談のように巨大な刃が、頭上へ振り下ろされるのを。
那由他は身を捻り、間一髪躱す。美しい黒髪の先端が数条、切断され燃える。
そのまま床を粉砕する斧槍、だが、それで終わるような魔法少女の武器ではない。
「……な!?」
「何て威力だ!?」
黒崎那由他と、観戦するメッセンジャーが驚愕の声を上げる。
破壊の刃プロミネンスセイバーは、床を粉砕するに飽き足らず! ヒビを入れ、叩き割り!
小惑星激突のごときクレーターを作ったのだ!
無人の廃工場が、地響きを立て揺れる、揺れる、そして崩壊する、崩れ落ちる!
「翼よ!!」
落ちてくる瓦礫、天井を炎の翼で焼き尽くし、セーラは夜空へ舞い昇る。月を穿つ、紅蓮の弓矢のように! そして急降下、再び那由他へ!
斬れ、焼き尽くせ。あの悪意を。滾る。炎が燃え盛る。
魔法少女。いつか夢見た正義のヒロイン。
その理想にたどり着くために。緋川セーラが炎となるために。
討て。悪しき魔法少女を。殺戮の悪鬼を討て!
「終わらせてやるッ!!」
「ふざけるな、私はこんなところで……ッ!!」
那由他もまた、ドレスのスカートの下、ガーターベルトに手を伸ばす。
そこには、彼女の専用デバイスを収納した、黒の宝玉!!
「こんなところで、終わってたまるかぁぁぁーッ!!」
少女の憎悪を、殺意を吸収し、闇の輝きを放つ宝玉。
赤き正義の炎と、憎悪の黒き輝きが! ああ、世界を染めてぶつかるのか!!
……だが、その時。
「二人とも、今はここまでだよ」
制止する、冷静な声は白き獣。
月の夜空を背景に動きを止めるセーラと那由他の耳に。遠くの市街から、パトカーのサイレンが風に乗って聞こえてきた。




