〈1〉
世界を、焼き尽くせ。
悲しみの涙も、理不尽な現実も、必死の生を嘲笑う者達も。
全てを、この胸の炎で。
- Duel blood wake-up -
・ ・ ・
その少女、緋川聖良は目付きが悪い。
加えて長い髪の毛は脱色済み、へその見える改造制服、鎖や十字架などのアクセサリー。
有り体に言って、不良にしか見えない。
「ひ、緋川だ……!」
「目を合わせるな、潰されるぞ……」
朝の始業前、高校の廊下。男子達は皆、セーラから視線を逸らす。
「……おい」
口を開けば、ぶっきらぼうな声。
「ひ、ひいっ!?」
セーラは、整った顔立ちを手近な男子に近付ける。
「なんで、アタシと目を合わせねえ」
「な、なんでも言うこと聞きます! だから命だけは!?」
悲鳴を上げる男子、その姿を遠巻きに見守りながら、ささやく声。
「な、なんてヤバい目付きだ。あれは、何人も殺ってる目だぜ」
「あいつ一人で、100人の暴走族を潰したとかって聞いたぞ、俺は」
「いやいや、マフィアに殴り込み掛けて乗っ取ったなんて噂も……」
セーラは、眉をひくつかせた。
(どいつもこいつも、勝手なコトを……)
もちろん、全部根も葉も無い噂だ。
髪やファッションは、確かに校則違反。
だが、これでも警察官の娘だ。授業も真面目に出てるし、成績だって悪くない。
だのに、過剰に恐れられるのは。
「目が、目が怖い! 石にされるーッ!」
「アタシは怪物か!?」
そう、この凶悪な眼光が理由。
ビーム出せそうとか! 野獣の目だとか! 親しい友達にさえからかわれるレベル。
緋川セーラ。16歳の高校一年生。
容姿は、恵まれていると言って良い。すらりとした体躯に、胸も小さくはない。
事実、街中で「君、美人だね! モデルやってみない?」などと声を掛けられるのも日常茶飯事である。
しかし。
(そんなに、私は目付きが悪いのか……)
街中で視線を合わせれば、子供は泣く、カラスも野良猫も逃げ出す。
声を掛けてきたスカウトも「そ、そんなに睨まないで! 冗談だから! 命だけは許してぇ!?」と土下座してくる始末。
(……本当はモデル、興味あるのに)
「いいか、おい?」
未だに怯える男子の首根っこを掴み、周りの男子にも聞こえる声で。
「アタシは眼からレーザーも出ないし、ヤクザもマフィアも潰してない。善良な、平凡な一高校生だ。いいな?」
ゆっくりと、優しく言い含めたつもりだったが。
その強烈過ぎる目力に男子は泣き叫びながら!
「わ、わかりました! 女番長ぉぉッ!!」
セーラにとってのNGワードを口にしてしまう。
「だっ……」
これから起こる惨劇に、目を背ける周囲。
「誰が、番長だぁーッ!!」
そして炸裂するは、必殺の頭突き、人呼んで「ダイヤモンドブレイカー」!
「ぎにゃあぁぁー!?」
セーラに地位を脅かされると勘違いし挑んできた、この高校の不良生徒達を、ことごとく血の海に沈めた魔技、その威力に校舎が振動する!
「ったく。次に番長とか呼んだら、命は無えからな?」
しゅぅぅ、と額から煙を立てて、床にめり込む男子を置いて、セーラは去る。
後に残された者達は、ただ息を飲み、惨劇の跡を見守るばかり。
「いや、これ死んでるだろ……」