表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/42

閑話:???視点

 ある日、俺たちのリーダーであるセガールが、人間の国でも大国として知られるカルバント帝国のお姫様を誘拐する計画を立てた。何のためにお姫様を誘拐するのかは知らないが、人質にでもして人間側との交渉の駒とするのだろう。でも、どうせ誘拐するならお姫様ではなく王位継承権を持つ王子を攫ってきた方が利用価値もあるし、うまく交渉できるんじゃないかと思う。


 しかし、セガールは「レティでなければ駄目なんだ、あの娘は特別なんだ」との一点張りであった。俺たちのなかでも一番人間を毛嫌いしていたのに、わざわざ人間の娘っ子を名前で呼ぶなんて珍しかった。

  


 まあ、俺たち亜人種をまとめあげているのはセガールなのだから、たとえ反対意見があっても最終的にはセガールの言葉に従うしかない。




 俺がまだ小さい頃、両親は人間に殺された。俺達は森の奥でひっそり暮らしていただけなのに。奴らは突然俺達の住処にやってきて、俺達の姿をみるやいなや銃を向けてきた。

 どんなに力のある亜人種でも、鉛の弾を心臓に喰らったら死ぬ。お袋は俺をかばい、おやじはお袋と俺をかばって死んだ。俺はひとり必死に逃げて森をさ迷い、運よく他の種族の亜人種に拾われ九死に一生を得た。

 人間なんて少し力を入れて首をひねれば簡単に殺せるのに、奴らは銃器を持ち出してくる。両親が殺された当初は人間が憎くて、怖くて堪らなかった。しかし、人間の町に食糧と情報を得るためフードをかぶり姿形を偽って何度か足を運んでみると、恐怖の対象でしかない人間の違った一面を見ることができた。

 人の住む町は活気があり、笑顔があふれていたのだ。食べ物を売る店の人間が俺に気軽に声をかけてきたり、道を尋ねると親切に案内をしてくれる者までいた。今まで恐ろしい形相しかみたことのない人間たちの別の顔。

 なんだか衝撃的だった。人間にもイイやつ、悪いやつがいるんだと、そう思った。

 しかし、どんなに仲良くなっても俺達の素性が知れると、彼らは悲鳴をあげ、俺達に武器を向ける。どんに親切でイイやつでも俺が亜人種だと知ると離れていく。



 人間と亜人種はわかりあえない。共存することなど不可能な相容れない存在。それが俺達亜人種と人間の関係だと周囲は口を揃えて言う。


 俺達の住処を奪い、家族・仲間の命を奪っていく人間は憎悪の対象でしかない。ほとんどの亜人種が人間を憎み、仲間を殺された怒りから、人の住む町に奇襲をしかけ、食糧や金品を強奪するようになった。たいした武器もない村人から物を奪うのは亜人種にとって簡単なことだ。


 仲間が殺されては怒り、人の町に強奪を繰り返し、そしてまた仲間は殺され、次第に人間と亜人種の争いは大きな戦争にまで発展した。



 俺達は人間が憎い。人間が怖い。けれど、町で幸せそうに笑顔で生活している人間を見ると、羨ましくて。あんなふうに楽しく暮らせたらいいのに。もしも俺が人間に生まれていたらあの明るく活気にあふれた国のひとりとして生活できたのにと、亜人種に生まれたことを呪ってしまいそうになっていた。





 セガールがお姫様の誘拐を計画して数年。決行は警備がゆるくなるお姫様の誕生16周年パレードを狙って行われた。時間をかけて計画を詳細に練ったおかげで、何の問題もなく、お姫様を城から搔っ攫うことに成功した。 



 噂の「レティ」姫を一目みた感想は、なんて奇麗な娘だろうという一言に尽きる。今までみてきた生き物の中で一番美しい造形をしていた。人間というよりも、人形のような不思議な存在感があった。彼女は悲鳴をあげることもなく、おとなしくセガールの腕にすっぽりおさまっていた。そして、彼女の意識が失われる瞬間に、俺は彼女と眼があった。彼女は怯えるどころか、俺の顔をみて一瞬愛おしそうな目で俺をみた気がした。




 仲間も俺も、多少の傷をおったが無事アジトに着いた。そして今はベッドの上で意識が戻らず寝むっている彼女の警護をしている。仲間の中には人間に相当な恨みを持つヤツも少なくないため、せっかく生きて誘拐してきた姫を傷めつけようとする暴徒が出ないように、俺に警護役が言いつけられた。本当はセガールが彼女の傍にずっとついていたかったらしいが、今後の計画について仲間と確認したり、負傷者の様子を見に今は傍を離れている。 




 目覚めた彼女は俺たち亜人種をみてどう反応するだろうか。あの時みせた愛おしそうな瞳、あれは俺の錯覚だったのだろうか。もう一度、彼女の綺麗な美しい瞳が見たいと思いながら彼女に近づき顔を覗きこむ。




 

 すると、彼女はゆっくり目をあけた。 




 そして俺の瞼の傷のあたりに手を伸ばし、




「だい……じょう……ぶなの?」




 と、聞いてきた。たぶん。だいじょうぶなの? 何のことだ? 何故そんな切なそうな悲しそうな瞳で俺をみてくるんだ? もしかして……俺の顔に傷を心配しているのか? 人間の彼女が? 亜人種である俺を心配しているのか? 俺の姿に怯えることもなく、手まで差し伸べて俺を心配してくれているのか?



 俺は今までにないくらい気分が高揚し、目頭が熱くなった。 



 せっかく彼女から話かけてくれたんだ、俺も何か彼女に話しかけなければ!




「お前、名前はレティだったか?」



 

 あ、なんか緊張してぶっきらぼうな聞き方になってしまった。威圧的に聞こえていないだろうか?



「ん」


 

 ほ、彼女は気にしてないみたいだ。ふ、フレンドリーに、彼女を怯えさせないようにしなくては。



「(それにしれもセガールの言っていた通り、不思議な娘だなぁ) あ、俺はグレイっていうんだ。 よろしくな!」



 よ、よし、明るく言えた! 



 

 彼女はあたりを見渡したあと、俺に強い口調で訊ねる。




「ここ何処? 何故わたしを攫ったの」




 俺を見る彼女の瞳には恐怖や怯えなど一切なく、その瞳は凛々しく煌いていた。なんという誇り高い瞳をしているのだろうか。




 そのあまりにも強い瞳の力に俺は思わず見惚れてしまった。



 







「おいグレイ。グレイ? いつまで固まっているんだ。お前まさか・・・」



 

 気がつくと、いつの間にか部屋にはセガールがいた。




「はっ! いや、悪い。お前の言っていた以上にこの娘があまりにも綺麗でつい、な」



 

 何をしてるんだ俺は……でも、彼女の綺麗な瞳に見つめられたらどの亜人種だってきっと見惚れると思う。それくらい彼女は何もかもが綺麗だ。見た目の姿形も、その誇り高く……亜人種にさえ心遣いできる優しい心も。



 彼女の存在は、俺たち亜人種と人間の間に何かしらの影響を与えてくれる。これから何かが変わる気がする。そんな漠然とした予感が俺の胸に湧きおこる。




「馬鹿者が。レティの食事の準備を指示してこい。今すぐにだ」


 

 セガールに言われてハッとした。



「(そうだ、食事! 彼女の食事を準備しなくては!) りょーかぃ!」





 彼女は数時間も眠りっぱなしでお腹もすいているであろう。何かとびきり美味しいものを彼女に食べさせよう。彼女の傍を離れるのが何だか寂しいが、温かい食事で彼女のお腹を満たして喜ばせたい。他にどんな事で彼女を喜ばせられるだろうか? 綺麗なドレス、美しい花をプレゼントしてみようか? 彼女はどんな顔で笑うのだろうか? どうしよう。俺の中が彼女でいっぱいになってきた。




 この感情はいったいなんだろう。彼女のことを考えるのが楽しい。こんな気分、初めてだ。


















メロメロ、ワンワン!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ