閑話:ダニエル視点
◇◇◇
「ダニエル、噂以上にレティ姫は愛らしかったな!」
「……えぇ、そうですね」
カルバント国からの帰り道。親子は馬車の中で数時間前に会った神童・レティ姫の姿を思い返していた。
近隣の国まで聞こえてくる神童と噂されるお姫様。彼女は人前に姿を現すことは少ないが、滅多にお目にかかれない美貌、放たれる独特の雰囲気、年齢にそぐわぬ王室の者としての完璧なたち振る舞いにが話題になり、各国が彼女に興味を抱いている。
はじめて間近でみた噂以上の可憐でありながら人間とは思えない美貌。
動いていなければ人形のような無機質な容姿をしていたが、話してみるとけっして冷たい印象を受けることはなく、むしろ近くにいればいるほど庇護欲をかきたてられる存在に思えてきた。
そして一瞬みせてくれたあの笑顔――――ほんの僅かに口元の口角が上がっただけだが、あまりの美しさに心臓がわしづかみにされたような感覚に陥った。
(本当に、噂以上でした)
これまで父上が破天荒にいろんな所を飛び回ってフラフラするのに付き合わされ、各国の貴族の娘や王室の女の子と知り合ってきたが、その彼女たちに興味をひかれることなど一度もなかった。
父上が彼女を僕の婚約者にと話していたが、彼女に僕なんかは釣り合わないと思う・・・しかしそう思った反面、彼女を僕だけの物にしてしまいたい独占欲が沸き上がったのも事実だ。 神聖な彼女は侵しがたい、けれど彼女についてもっと知りたいもっと彼女に近づきたいと複雑な感情がぐるぐるしていた。
今まで感じたことなんてないこの思い……これが恋なのだろうか。
父上の様に呼吸するが如く女性を口説いたりなんか僕にはできない。うわべだけの社交辞令なら言えるが、好意を持って女性を口説くなんて……。
友達として仲良くして欲しいと思ったのは本心からだ。実際に彼女が僕の婚約者になったら僕は彼女にどう接していいかわからないだろう。
これから友達として少しづつ彼女と親しくなれたらいいなと思っている。
ただ、彼女を抱き留めた時の感触を思い出すと…
「おい、ダニエル。真っ赤な顔してどうした。何かいやらしいことでも考えてるのか? まぁ、お前も年頃だしな、そういったことに興味を持つのは当然のこと…………………しかしむっつりスケベはいかん! スケベは男のステータスだ! スケベを誇ることはあっても隠してはならん! 堂々と………………」
何か父上が喚いているが今は無視しておこう。
次はいつ会えるかな。
当分は父上に付き合って各国を点々とするからしばらく会えないだろう。 次に会った時はもっとゆっくり彼女と話したいなぁ。
苦労少年の初恋




