第11話:レティ10歳 「嫌な予感」
騒がしかった朝食を終え、突然の訪問者の彼らにテーブルについてもらい改めて一息ついた。朝食をほとんど逃し、食後のデザートのケーキを食べて紅茶をウマウマと飲んでいると、ダニエル君が唐突に言った。
「そういえば、父上、いつになったら本題に入るんですか? ふざけたことばかり言ってないでいい加減に訪問の目的を果たしましょうよ」
「ダニエル、お前はせっかちだなぁ。王族たるもの、いきなり本題に入る前に社交辞令や世間話を交えるなど会話に余裕をもたねば! せっかちさんは嫌われるぞ!」
「アルベール、貴様は話が脱線しすぎて会話が成り立たぬのだ……で、本題とはなんだ?」
「失礼な! うむ。噂のレティ姫を見にきたのが私の中では9割本題だったのだが、残りの1割を話そうではないか。実はな、最近この国の近くで『ティーグレ』の目撃情報があったと聞いてな、何か動きがあったのではないかと思い視察にきたのだ」
「馬鹿な、ティーグレだと?! それは確かなのか!」
「まぁ!」
アルベールの『ティーグレ』の話を聞き、パピィもマミィも驚きを隠せないでいる。 隣にいるクリスもその顔に驚愕の表情を浮かべていた。
(ちょ、みんな驚いてるけどテーグレって何?)
「数多く存在する亜人種族の中でも最強を誇るティーグレ。ティーグレとは古語で『虎』を意味する言葉です。これまでさまざまな種類の亜人種が発見されていますが虎の亜人種は1人だけしか存在しておらず、実質その虎の亜人種が現在の亜人種を取りまとめていると言われています。その亜人種のリーダーを特別な存在としてティーグレと呼称しているのですが……ここカルバント帝国の領地内で目撃されたというのは大問題なのですよ、姫様」
(へぇ、説明ありがとよクリス。ティーグレ。虎の亜人種。亜人種のリーダーか……)
ん?
……それってセガールのことぢゃね?
「目撃情報は他方から多く寄せられてきているので、確かな情報だと思いますよ。近年は大きな争いもなく大人しく身をひそめていた彼らが、ここ最近何やら動き始めたようなので国境付近の警備強化や入国の際の審査を厳しくして注意を促すべきですね」
「そうだな、すぐに警備体制を見直した方がよいぞ、私は何の審査もされず簡単にこの城に乗り込めたんだからな! もっと警備を厳しくしろ! なんならうちから警備兵貸し出そうか?」
「……父上の顔は警備の人も覚えてるだろうから、あきらかに隣国の国王だってわかってるのに審査なんてしませんよ。ちなみに、入国手続きや入城の際の書類への記載は僕がしましたから」
「うむ。警備体制の見直しをせねばな。宰相、エドワードとアルフォンスにもこのことを伝えてくれ」
「承知いたしました。 すぐに早馬を出します。」
「カールには良いのですか?」
「あいつはいま公務で隣国を回っている最中だろう。帰ってからすぐ伝えよう」
「そうでしたね。そうしましょう」
「私は他の国にもこのことを伝えておこう! しかし、他に行く前に観光して、お土産買って帰らねばならん。行くぞ! ダニエル!」
「ちょっと、待って下さいよ父上!」
亜人種1人の存在に緊張が走り、皆慌ただしくなった。
緊張感がまったくなさそうな人もいたが。
私がここで「レティその虎さんに出会ったことあるよ!てへぺろ!」とか言ったらヤバいだろうな。
一度立ってしまったフラグは簡単に折れはしない。
きっとこのフラグは電信柱よりも太くて丈夫なのだろう。
ああ、何だか嫌な予感




