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閑話:クリス視点

 ――――俺は生まれた時から将来の道を勝手に決められていた。


 俺の生まれた家は貴族でありながらとても貧しく、生活水準は平民と大して変わらないようなレベルだった。そして家には既に跡取りの長男、2人の姉がおり4人目の子供である俺は持て余されていた。



 いてもいなくてもいい存在である俺は幼少の時により身分の高い貴族の元に養子に出された。養子といっても、貴族の子息になるために引き取られた訳ではない。優秀な執事として育てるために引き取られたのだ。そこでは年齢など関係なく日々礼儀作法を体に叩き込まれ、様々な知識を学ばされた。俺と同じように引き取られた子供が何人もいて、見込みがないとされた奴はすぐさま売り払われた。 



 俺は捨てられないように必死で礼儀作法を身につけ、詰め込めるだけの知識を学習した。そうして集められた子供たちのなかでも秀でて優秀になった俺は16歳の時に引き取られた家の末のお嬢様の執事見習いとして仕えることになった。そのお嬢様はまだ10歳であったがとてもませた子供で必要以上に俺に接触してきたり、我が儘ばかり言って俺の手を煩わせた。 


 自分で言うのもなんだが、俺の容姿はかなり整っている。この国の王子様にだって引けをとらないだろう。その容姿のこともあり、お嬢様は執事である俺を着飾らせて侍らせたりするのが大好きで、何事も自分が一番でなければ気が済まない気性をしており、俺の気を引く為にどんな手でも使ってきた。両親は末の娘ということで甘やかし、彼女が何をしようが容認していた。 

 

 はじめは俺も執事として立派に責務を全うしようと必死だったが、どうやっても彼女は俺の主たりえないと心のどこかで思っていた。数年お嬢様との生活は続いたが、その間優秀な執事の仮面をかぶりつつ内心では年を重ねても変わらない彼女の我が儘っぷりに呆れ果てていた。年頃になったお嬢様は自分のお気に入りの執事と夜を共にするようになった。俺も何度もベッドに誘われたが何とか断ってきた。自分の誘いを断る俺に彼女は不満を持ち俺を遠ざけはじめた。そして火遊びしているうちにお嬢様は妊娠してしまった。

 嫁入り前に何処の馬の骨とも知れぬ男の子どもを身篭った娘に対し、さすがに当主は怒り心頭したらしく、彼女と夜を共にした執事全員と彼女自身を遠くの地に療養にいかせるという名目で家から追い出した。幸いにも俺は一緒に追い出されることはなかったが、俺は仕えるべき相手もいなくなり屋敷の雑用をしていた。



 そんな時、この国の姫様の教育係をこなせる執事を募集するという知らせが届いた。これを聞いたこの家の当主は是が非でも王室との繋がりを築くべく執事候補者を送り出すことに決めた。勿論、その候補者の中には俺の名前も刻まれていた。



 はっきりいって、おれは年端もない女の子に仕えるのにはうんざりしていた。 聞けば姫様はまだ10歳だというじゃないか。いったいどんな我が儘娘かわかったもんじゃない。もう二度とあんな思いはしたくない。次に主に仕える時は俺が心から全身全霊を持って「この人のためならなんでも出来る」と思える様な方にと決めたのだ。



 そのため下手に興味を引かれないようにわざと容姿を野暮ったくし、やる気のないさまで執事の選定会場に行った。城の大広間には執事候補者達で溢れており、これならわざわざこんな格好しなくても姫様の目には止まらなかったんじゃないかと思えた。そして皆がやる気満々でお姫様が現れるのを今か今かと待ち望んでるなか、俺はひっそり壁側に寄り成り行きを見守っていた。




 そうこうしているうちに姫様と王族の皆様がやってきた様だ。周囲がざわつき始めたが、俺は興味がないので話を聞き流し皆必死に自己アピールしているのを横目にみていた。



 だが、何故かお姫様らしき人影がこちらに向かってきた。こちらの方には俺しかいない。一体どうしたんだとお姫様を見つめた。 



 そう、このとき俺は初めてお姫様を間近で見たのだ。俺は、全身に電撃が走ったように感じた。まず姫様を見て、これが本当に同じ人間なのかと思った。それはまるで神聖な生き物に出会ったような不思議な感覚だ。その容姿の美しさもだが、10歳にしてこの落ち着きよう、優雅なしぐさ、放たれる覇気、すべてが完璧な完全無欠の存在に思えたのだ。




「貴方、お名前は?」



「ク、クリスティアーノと申します」



 姫様話かけられたものの、あまりの存在感に気押され、柄にもなくどもってしまった。それにしても声まで愛らしくなんと不思議な響きだろうか。その声の余韻に浸る間もなく次の言葉を姫様はおっしゃった。




「貴方にする」




 俺は自分の耳を疑った。貴方にする……つまり俺を執事に選んでくれたというのか? 何故? こんなふざけた格好で姫様の前に立っている俺を。 俺はこんな格好姫様の前にいることが恥ずかしくてたまらなくなった。普段の俺はこんなんじゃないのに……何故俺はこんな格好で来てしまったのだろう。 


 俺の心がこの人こそ真の主たる存在だと叫んでいる。


 それなのに、姫様を見る前までの俺の思い上がった思考が今になってなんと愚かだったのだろうかと思い知らされる。周囲の音が大きくなったが、俺は自分の愚かさを省みてこんな俺を選ばれた姫様の意図は一体何なのかと混乱していた。




「……本当に、私でよろしいのですか?」




 俺は半信半疑で尋ねた。ここで冗談だと言われたら、俺はみっともなく跪いて姫様の脚に縋りつきどうか主になって欲しいと、俺のすべてを捧げるから傍にいさせてほしいと懇願しただろう。




「うん。絶対あなたじゃなきゃ駄目」




 その言葉を聞き、体が歓喜に震えた。あなたじゃなきゃ駄目……その言葉が何度もリフレインされる。あなたじゃなきゃ駄目なのはこちらの方だ。姫様は俺の愚かしい思考もすべてお分かりなのだろう。その上で俺を見出してくれた。このあまりの僥倖に、俺は感情を爆発させてしまいそうで必死に平静を装った。 





「ッわかりました。私…で良ければ喜ん、でレティ姫様にお仕えさせてください」





 何とかその言葉を絞りだすと、姫様は満足したのかその場から去っていった。





 屋敷に帰って当主に姫様の専属執事になったことを伝えると大喜びし定期的に屋敷に帰って来て王室の様子を報告しろと言われたが、そんなこと知るものか。もはや此処は俺の帰るべきところではない。俺の帰るべきところは姫様の傍のみだ。さっさと荷物をまとめて出て行ってやる。




 ああ姫様。早くあなたに会いたい。次にお会いするときは姫様の傍に立っても恥ずかしくないよう今まで以上にしっかり気合をいれて正装していきますから。そして全身全霊で貴方様に尽くします。待っていてください。














素晴らしい主様GET

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