第6話:レティ10歳 「人間と亜人種」
虎さんに出会ったその日、私は亜人種についてメイドさんに聞いてみた。
亜人種――――「獣と人間の血が流れた者」とされているが、人間がこの地で栄えるずっと昔から存在していた現地民のことらしい。彼らの特徴は、体の一部分が動物の姿をしており、人間のように知性や理性があって大抵が人の言葉を話すこと、個々の力が人間とは比べものにならないくらい強いがその数は極端に少ないことらしい。
亜人種のなかには醜悪な姿形をしているものもおり、その特異な外見からこの世界の人間は彼らを忌み嫌いひとたびその存在が発見されれば亜人種狩りが行われるとか。少数の亜人種と、数では勝る人間の戦い、それは長い間続いているらしい。最近では、あまりその姿を見かけないそうだが彼らは自分たちに危害を加える人間に憎しみをいだいており、万が一見かけてもけっして近づいてはいけない存在であると注意された。
(おぅふ。なんたるディープ異世界設定、人種差別ですか。えー、何これ、何かのフラグ? あの虎さんに会って、何か立っちゃいけないフラグが立った気がしてならないんですけど……でも、虎さんたちちょっと可哀想。見た目マニマルックなだけなのに迫害受けるなんて。あの虎さんリアルタイガーマスクみたいでカッコいいのにな……まぁ、私にはどうにもできないけど)
差別、迫害、そういう話を聞いて、それを行う人間に嫌悪感を抱く。私のなかでその問題をどうにかできないか、いやどうにかしなければならないことなんだという思いが生まれる。
でも、長年続いてきたその人間と亜人種の亀裂に、私なんかが介入したってどうにかできるわけがない。私には特別な力や問題を解決できるような知識、そういったものは一切ない。たとえ私に何らかの力があったとして、それで何ができるというのか。
人間は自分たちとは違うものを否定する。元の世界の現代社会でだって、同じ人間なのに、肌の色が違う、思想が違う、自分にないものを持っている、そんな単純なことで人間は自分と同じ人間さえも迫害してきたのだから。亜人種というその見た目も文化もその歴史も自分たちとは違う種族を受け入れられないのは人間の性だ。私ひとりがどうにかしようと動いたって何も変わりはしないだろう。そんな簡単に解決するようなことではないはずだ。
(……今まで特に異世界転生イベントは発生してないんだから、今後は巻き込まれないように慎重に行動しよう)
虎さんに会ったことはみんなに内緒にしておいたほうがいいだろう。 亜人種に出会ったなんて話して厄介なことになっても困る。
私はイベントに巻き込まれることなくこのまま平穏に暮らしたいのだから。
亜人種のことは気になるけど、深く考えるのはやめよう。それにあの虎さんにはもう会うこともないだろうし。
(お願いだから私の平穏をこわさないでよ!)
亜人種と人間




